父が木造建築の仕事を始めて50年余り。大工、建築士とそれぞれの道で知識と経験を蓄えてきた2人の息子たちが跡を継いで、新たな歩みを始めた加藤建築 -STORAGE(ストレージ)-が、これからの山形の家づくりにどう取り組んでいくのか。兄で代表取締役の加藤勇紀さんと、弟で建築士の加藤英司さんに話をうかがいました。

父が築いた伝統と信頼を受け継ぎ
未来を見据えた新たな価値を提案

山形市郊外に拠点を構える加藤建築は、会長の加藤勇男さんが54年前に創業した工務店です。村山地方をフィールドに県産材を用いた在来工法の家づくりを続けてきました。

同社が転換期を迎えたのは2019年のこと。勇男さんと、その下で大工として腕を磨いていた兄の勇紀さんのもとに、茨城県で設計士として活躍していた弟の英司さんが帰郷したのが契機となりました。「兄弟で毎晩何時間も会社の将来について話し合いました」と勇紀さんは回想します。1年ほどの準備期間を経て、勇紀さんが代表取締役、英司さんが取締役になり法人化。父が築いた伝統と信頼を受け継ぎながらも、未来を見据えた新たな価値を提案する地域工務店として、再スタートを切りました。

加藤建築の代表取締役で大工の兄・勇紀さん(左)と、
加藤建築の代表取締役で大工の兄・勇紀さんと、
取締役で建築士の弟・英司さん(右)
取締役で建築士の弟・英司さん

社員は二人のほかに、今なお現役で親方の勇男さん、英司さんの妻で事務担当の真理さん、入社20年のベテラン大工・大泉泰一さん、入社2年目で大工見習いの長利咲代子さんと少数精鋭。ここに勇男さんの元弟子など、同社のDNAを受け継ぐ大工や職人たちが加わり、人も材料も地産地消にこだわった注文住宅「STORAGE HOUSE」を手がけています。

「STORAGE」はパソコンのデータの補助記憶装置になぞらえた言葉。「家も家族の記憶が蓄積していく場であってほしいという願いを込めました」と英司さんは語ります。加藤建築が目指すのは、地元の木でつくった頑丈なハコの中に、住む人の幸せな記憶が積み重なっていく、そんな住まいです。

山形市内に立つ事務所前で。左より加藤英司さん、長利咲代子さん、加藤勇男さん、勇紀さん、真理さん。少数精鋭で一棟一棟心を込めた住まいを手がけている
山形市内に立つ事務所前で。左より加藤英司さん、長利咲代子さん、加藤勇男さん、勇紀さん、真理さん。少数精鋭で一棟一棟心を込めた住まいを手がけている

兄の勇紀さんに聞く
STORAGEの「大工・施工」

加藤建築の大工や職人を統括し、現場管理に携わるのは、兄の勇紀さん。山形市内の工業高校を卒業後、地元の工務店で住宅から五重塔の建設までさまざまな仕事を通して経験と技術を培い、23歳で家業を手伝い始めました。「現場で大工さんたちと一緒に汗を流し、彼らのモチベーションをケアするのが自分の仕事で、弟は設計やお客様とのコミュニケーション担当。役割分担をして協力し合っています」。  

会社の代表であると同時に、棟梁として現場で腕をふるう勇紀さん。「一職人としては、技術をさらに高めて、お客様の信頼を得ることはもちろん、自分自身も納得のいく家をつくりたい」と、ノミを握る手にも力がこもる
会社の代表であると同時に、棟梁として現場で腕をふるう勇紀さん。「一職人としては、技術をさらに高めて、お客様の信頼を得ることはもちろん、自分自身も納得のいく家をつくりたい」と、ノミを握る手にも力がこもる
先輩棟梁である父の勇男さんと相談し、ときにアドバイスをもらいながら現場仕事を進める

そう語る勇紀さんは、明るくきれいな現場を保ち、施主に喜んでもらえる丁寧な施工に努めるとともに、伝統構法の技術を継承するための取り組みにも精力的です。「技術の継承には手仕事の場を設けて若い職人を育てることが不可欠」という考えのもと、プレカット材が主流の家づくりに部分的に手刻みの材を取り入れたり、造作の建具や家具にこだわったりしています。

現在は、新人の指導にも尽力。「大工としての技術やスピリットを伝えるだけでなく、人、時間、お金のマネジメントができ、独り立ちできる人材を育てたい」と将来を見据えます。

加藤建築は、地元の材を使った家づくりを手がけるとともに、未来の地域を支える若い大工の育成にも注力。
加藤建築は、地元の材を使った家づくりを手がけるとともに、未来の地域を支える若い大工の育成にも注力

地域の大工の未来を考えることは、自分たち世代の社会的な責任でもあると考えている勇紀さん。「会社としては、お客様の信頼を積み重ねていけるように技術の質を高めていきたい。そしてさらに広い視野で見たときに大切にしたいのは、日本建築の伝統文化を継承していくこと。それがひいては、地域やお客様の暮らしへの貢献につながると信じて仕事に向き合っています」。

「山形のレーモンド100年記念シンポジウム」を主催して復刻版のスツールを製作するなど、地元の建築の歴史を広く知っても
「山形のレーモンド100年記念シンポジウム」を主催して復刻版のスツールを製作するなど、地元の建築の歴史を広く知ってもらうための活動にも積極的に取り組んでいる

弟 英司さんに聞く
STORAGEの「設計デザイン」

加藤建築の設計デザインを手がけるのは、設計士で弟の英司さんです。筑波大学の建築系学部を卒業後、恩師たちとともに新しく設計事務所を設立。現在も活躍するそうそうたる建築家たちと交わりながら、伝統的な木造建築による家づくりに携わってきました。

「林業と建築を1サイクルとして捉える『板倉工法』に出会い、地域文化や地域産業の大切さを学びました」。その経験は山形でも大いに役立っていて、一度地元を離れたからこそ得られた俯瞰的な視点を強みに、山形の気候特性や風土に合い、地域に定着する家づくりに取り組んでいます。

同じ家族でも世代ごとに希望やイメージは異なるもの。「そのため一人ひとりと丁寧にコミュニケーションを取りながらプランを立てるよう心がけています」と英司さんは話す
新築からリノベーションまで幅広く展開する加藤建築では、建築模型などを用いた3Dによるプレゼンテーションも導入。施主の要望をふまえ、デザインに帰結させていくプロセスの中では、「ロングライフな家」という視点を特に重視している

英司さんの設計のベースは、父の代から受け継ぐ「不易流行な家づくり」。「地元の木を用いた伝統構法という『不易』。新しい技術や施主の要望といった『流行』。その二つを上手に織り交ぜて、環境と時間に耐える家をデザインしたい」と語ります。

加えて目指すのが、「その人らしい住まい」。「家づくりの主役は、住まい手」という揺るぎない信条を胸に、家族のストーリーやイメージ、夢に共感して尊重することを大切に、話に耳を傾け、押し付けにならないよう配慮しながら、自身のセンスやアイデアを足したり重ねたりして、施主の個性を引き出しています。

新築からリノベーションまで幅広く展開する加藤建築では、建築模型などを用いた3Dによるプレゼンテーションも導入。施主の要望をふまえ、デザインに帰結させていくプロセスの中では、「ロングライフな家」という視点を特に重視している
同じ家族でも世代ごとに希望やイメージは異なるもの。「そのため一人ひとりと丁寧にコミュニケーションを取りながらプランを立てるよう心がけています」と英司さんは話す

▼ 加藤建築が手がけた住まいの実例は、こちらの記事でご紹介しています。

【新築】
家族の暮らし方に合わせてデザインした、無駄なく快適な高性能二世帯住宅

造作のソファやダイニングテーブル、ご主人がチョイスした照明や椅子など、ディテールにまでこだわりが光る

【リノベーション】
ナチュラルな生活に呼応する自然素材が心地いい、中古住宅リノベーション

リノベーションで、Nさん家族が使いやすい住宅に。軒の出がないので、雨や雪でも汚れにくくメンテナンスもしやすいよう、外壁はガルバリウム角波貼りを採用。新たにベランダをつくり、煙突掃除のためのはしごも設置した