vol.046 「我慢しない家づくり」を諦めない方法
さらなる省エネ・省CO₂が住宅の重要なテーマとなる寒冷地。 本企画は、独自の視点から住宅性能研究の最前線を開いている、東京大学の気鋭の研究者・前 真之准教授に、「いごこちの科学」をテーマに、住まいの快適性能について解き明かしていただきます。 シーズン1に続く第2弾として2015年からは、それまでの連載の発展形「いごこちの科学 NEXT ハウス」としてリニューアル。
「北海道・寒冷地の住宅実例から考える室内環境について」をテーマに、断熱、開口部、蓄熱など、さまざまな視点から寒冷地における室内環境の改善ポイントを解説しています。東京大学大学院工学系研究科
建築学専攻・准教授
前 真之 (まえ・まさゆき)
家を建てたり買ったりするのは、人生最大のイベントの一つです。楽しい暮らしに向かって夢いっぱいの素晴らしいステップですが、一方で悩むこともたくさんありますね。今回は、住んだ後で後悔しない、我慢せずに済む家づくりについて考えてみましょう。
家づくりは人生最高のイベントの一つ
家を建てたり買ったりするのは、人生の中でも最大級のイベントです。筆者も家づくりに携わる人が「お施主さん家族が一番幸せなときにお手伝いできる仕事だから誇らしい」と言われているのを聞いて、本当に素晴らしいなと感じたものです。家づくりを考えることができるということ自体が、本当に幸福だといえるでしょう。とはいえ家選びというのは、いろいろと悩みが多いのも事実です。
最大の不満は騒音
家づくりをする中で、今住んでいる家の問題点を解決したいと思うのは当然です。SUUMOリサーチセンターが行った、住宅購入や建築を考えている人へのアンケート(図1上)によると、ダントツで不満なのは「騒音」です。

図1 「今住んでいる家の不満」と「新しい家で大事にしたいこと」は人それぞれ
その他にも「収納が狭い」「住居費がもったいない」など、賃貸アパートへの不満と思われる項目が並んでおり、これが一戸建てへのニーズにつながっているようです。
家探しで住宅性能は軽視?
次に、住まいを探す際に大事にしたいことを見てみると、一番は「価格・家賃」です(図1下)。昨今の住宅価格高騰を考えれば、想像どおりともいえます。続いて「近隣の利便性」「周辺環境」「通勤の利便性」「自然災害が少ない」「交通環境」となっており、家選びではまず地域や環境が重視されていることが分かります。
家そのものに関しては「部屋数・間取り」「建物・部屋の広さ」は上位にきていますが、「内観の意匠性」「外観の意匠性」は意外に低ランクです。建物の性能については「耐震性能」が29%でトップ、次いで25%の「断熱性能」ですが、「設備の省エネ性能」「太陽光発電」はいずれも13%と関心はイマイチのようです。
日本の新築住宅はどんどん狭くなっている
一戸建てか集合住宅か、新築か中古か、家の広さか駅近か。いずれも家選びでは重要視される選択です。アンケート結果からは、やはり一戸建て・新築に根強い人気があるようです(図2)。賃貸アパートでの騒音や家賃への不満を解消したいのでしょうか。

図2 一番悩む「一戸建てvs集合住宅」「新築vs中古」「広さvs駅近」どちらを選ぶ?
また、家の広さを駅からの距離より重視する人が多いようです。特に子育て世代にとって、広い家は切実な希望ですが、残念ながら現実は厳しいようです。国交省の調査によると、新築住宅の平均延床面積はどんどん狭くなっており、とりわけ「一戸建て・持ち家」では2000年に139.7㎡だったのが2024年には113.5㎡と、およそ2割も狭くなっています(図3)。

図3 新築住宅は急激に狭くなっている!
世帯の人数が減ったこともあるのでしょうが、昨今の住宅価格高騰が大きく影響しているのは間違いないでしょう。
家の値段が急騰中
土地や住宅の価格高騰が、連日報道されているのを目にします。国交省が調査した不動産価格指数によると、まずマンションの価格が2010年から2024年までにおよそ2倍になっていることに驚きます(図4)。

図4 住宅・土地の値段は上昇が続く
住宅地や戸建て住宅も、コロナ禍が明けた2021年頃から価格が上昇。人気がある場所では、3割以上の値上がりも珍しくありません。
これまで見てきたように、家選びではたくさんのポイントが気になります。用意できる限られた金額では、すべてのニーズを満たすことは難しいでしょう。「便利な場所に住みたい」「広い家に住みたい」というニーズを優先して、性能に関する部分は予算オーバーだからと諦める人は少なくないはずです。
「我慢しない家」を諦めない
ですが、ひとたび家を買って住み始めれば、日々の暮らしの「質」が必ず気になってくるものです。この連載でも繰り返しお話ししてきたように、「冬も夏も健康・快適で電気代も安心な暮らし」を実現することは、実は大して難しくありません。十分なレベルの断熱・省エネ・太陽光発電を、きちんと備えておけばいいのです。
長期優良+GX+αで 健康・快適・安心な暮らし
「住んだ後に我慢せずに暮らせる家」を実現するために、筆者がぜひ諦めないでいただきたいポイントを図5に整理しました。

高断熱・省エネ・太陽光発電は健康・快適・少ない電気代で暮らせる家に欠かせないのは当然です。一方で、長く安心して暮らせて、次世代にも引き継げる資産価値のある家には、躯体・設備の長寿命化と十分な耐震性能が欠かせません。
国は、こうした住宅に求められる幅広い性能を見える化すべく「住宅性能表示制度」を設けています。そのうち重要な項目で十分な性能等級を持っている住宅であると自治体が認めたものが「長期優良住宅」です。この長期優良住宅の求める長寿命化と耐震性能に「GX志向型住宅」の高断熱・省エネ・太陽光発電を組み合わせれば、地震にも強く、長きにわたって健康・快適・安心に暮らせる家が実現します。
ただし不思議なことに、長期優良住宅にもGX志向型住宅にも気密の規定がありません。「気密なき断熱は無力」の格言を忘れずに、気密もしっかり確保しておきましょう。住んだ後で各部屋にエアコンを配置するのは、設置・メンテナンス費がかさみ不経済です。初めから1~2台のエアコンで家中を暖冷房できるように計画しておいた方が結局はオトクです。本連載vol.42「夏はますます暑くなる。冷房の備えを忘れずに」も参考にしてください。EVコンセントも新築時に付ければ数万円と格安なので、将来のために付けておきましょう。
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