「スマホ代感覚で古民家を直せる」未来へ。NIPPONIAに学ぶ、ITの戦略的思考で挑む「100年続くまちづくり」

公開日:2026.7.8 最終更新日時:2026.7.8

各地域で魅力的な「まち」を目指す取り組みを紹介。まちの魅力向上をエリアの価値向上につなげるヒントをひも解きます。

全国でも注目を集める古民家再生を起点とした「分散型ホテル(まちごとホテル)」という革新的なモデルを全国に広めた人物、株式会社NOTE 代表取締役の藤原岳史さん。

藤原さんの経歴は、まちづくりの世界では異色といえるかもしれません。食品会社での現場経験を積んだ後、米国で情報システムを学び、帰国後はITベンチャーでマーケティングやコンサルティングに従事。シナジーマーケティングの上場にも貢献した、まさにIT・マーケティング業界の最前線を走ってきたキャリアの持ち主です。

株式会社ノート 代表取締役の藤原岳史さん

そんな彼が2009年、故郷へUターンし、(一社)ノオトに参画。「IT業界で培った戦略的思考を、地方の課題解決に持ち込めないか」。その問いから始まった挑戦は、兵庫県篠山市(現・丹波篠山市)の集落丸山での低稼働・高付加価値モデルの確立を経て、いまや全国30地域以上・約180棟に広がる「NIPPONIA」ブランドへと結実しました。

篠山城下町ホテルNIPPONIA|兵庫県丹波篠山市 ©Kazeno Heritage

株式会社NOTEを新たに設立して事業に取り組み始めた藤原さんは、単なるリゾート開発ではなく、「日本の暮らしと文化を次世代につなぐ」ことを使命に、実績を重ねました。官民連携によるキャピタルデザインなど地域ごとに持続可能なスキームを組み立てる手法は、2023年度の総務省「ふるさとづくり大賞団体賞」を受賞するなど、広く評価されています。古民家再生の先にある「トータルなエリアマネジメント」とは。そして、地元のプレイヤーがその輪に加わるためのヒントとは。藤原さんの「ぶっちゃけ話」に迫りました。

ホテルは「目的」ではなく、まちを存続させるための「手段」

兵庫県丹波篠山市を拠点に、全国で歴史的建造物を活用した地域再生を手がける株式会社NOTE。その代名詞とも言えるのが、分散型ホテルブランド「NIPPONIA」です。しかし、藤原さんは意外な言葉を口にします。

「NIPPONIAという名前自体が、実はホテルではなく『まちづくりのブランド』なんです。 ホテル事業は、あくまでその土地の暮らしや文化、建物を未来に残していくための、稼ぐ仕組み=手段に過ぎません」。

人口減少とともに消えていく街並みに、もう一度光を当てる。そのための戦略的なフラッグシップが、彼らが提唱する「分散型ホテル(まちごとホテル)」という革新的なモデルです。

これは、ひとつの建物の中にフロントや客室、レストランのすべてを収める一般的なホテルとは大きく異なります。まちの中に点在する複数の古民家をリノベーションして「客室」に変え、フロントや地域連携施設、さらには地元の飲食店や商店が連携することで、「まち全体をひとつの大きなホテル」に見立てる仕組みです。

NIPPONIA事業スキーム

「宿泊されたお客様が、フロントから客室へ移動したり、食事のために地元の飲食店や商店へ出かけたりすることで、自然とまちを歩くようになります。この人の流れこそが、地域全体に経済波及効果を生む仕掛けなんです」。ただ古民家をきれいに残す(面的保存)だけでなく、外から来訪者を誘客することで「地域経済の循環」を自立させる。この一見シンプルに見えるモデルを確立し、社会実装していく裏側には、これまでの建築や旅館業における「法規制への挑戦とルール変更」という大きな壁を乗り越えてきた歴史もありました。

「地元の工務店さんや職人さんが持っている技術やノウハウは、今どんどん失われています。そこに再び投資をして古い建物を直し、新しい経済を回す仕組みをつくることこそが、地方を活性化していく上で最もインパクトがあると考えています」。

篠山城下町ホテルNIPPONIA改修中の様子

「月々の携帯代を払う感覚で古民家を直す」新しい挑戦

地域のプレイヤーがまちづくり事業を検討する際、最も高いハードルとなるのが「投資回収」です。一般的な不動産投資では10年程度の回収を求められますが、古民家再生でそれをやろうとすると無理が生じます。

「今の資本主義の論理では10年かもしれませんが、私たちはこれを30年、50年、100年と伸ばしていきたい。例えば、投資期間を100年に設定できれば、毎月の返済は携帯電話の料金を払うのと同じくらいの感覚で、1軒の古民家を直せるようになる。そんな世界を目指しています」。

「また、例えば古民家の再生のために毎月1,000円出すよ、という人を1万人集められれば、毎月1,000万円の資金になります。一人ひとりの負担はわずかでも、多くの人が力を合わせれば大きな可能性が生まれます。現在、この考えを具体化した『NIPPONIAサポーター制度』を始めようとしています。このプロジェクトが回りだせば、地域の事業がよりスムーズに動かせるようになり、もっと多くの古民家を再生できるはずです」

丹波篠山の城下町開発

藤原さんが提唱するのは、単発の「点」の利益ではなく、地域全体の価値を上げる「面」の視点。事業を「会社(法人)」に載せることで、経営者が代わってもバトンをつないでいけるリレーのような仕組みを構築しています。

「1社でアセットを抱え込みすぎないことも重要です。リスクを分散し、運営や設計、施工を地域のプレーヤーで分担する。そうすることで、パンデミックのような事態が起きても、まち全体が止まってしまうことを防げます」。

工務店が踏み出すための第一歩と地域の主体性

では、地域の工務店が実際にまちづくりに関わりたいと思ったとき、何から始めるべきなのでしょうか。藤原さんは、香川県三豊市の「菅組」さんの事例を挙げながら、興味深いアドバイスをくれました。「最初は『この物件をどうにかしたい』という相談から始まってもいいんです。ただ、1棟だけで終わらせようとするとしんどい。自転車と同じで、漕ぎ始めたら面的に広げて回し続けた方が安定します」。

NIPPONIA 五個荘 近江商人の町|滋賀県東近江市

「あとは工務店さんの本業の中でまちづくりをやるのではなく、別会社(子会社)化することをお勧めしています」と藤原さん。別会社とすることで、工務店の1事業ではなく「まちのための活動」というパブリックマインドが周囲に伝わりやすくなり、財務的にも本業の足を引っ張らずに済むという利点があるためです。

さらに藤原さんは成功するエリアの条件として「地域側に主体性があるかどうか」を強調します。「ノートが来てくれたからあとはお任せ、という場所ではうまくいきません。自分たちのまちは自分たちで何とかするという強い意志がある場所に、私たちはノウハウという『OS』を提供し、伴走するんです」。

NIPPONIA 仁尾 水鏡の町 運営メンバー|香川県三豊市

工務店をはじめとした地域のプレイヤーが、自らの技術を武器に「地域のディベロッパー」へと進化していく。その主体性あるプロセスの中に、これからの日本の暮らしを豊かにするヒントが隠されているようです。

取材協力・写真提供 株式会社NOTE

(取材・文/Replan編集部)

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