「ドメイン」を広げ、持続可能な未来を築く。これからの農泊と地域経営

公開日:2026.4.23 最終更新日時:2026.4.23

各地域で魅力的な「まち」を目指す取り組みを紹介。まちの魅力向上をエリアの価値向上につなげるヒントをひも解きます。

農村ツーリズム研究の第一人者であり、現場と理論をつなぎ続けてきた大江靖雄教授(東京農業大学客員教授)。人口減少や農業経営の厳しさが叫ばれる中、大江氏が見つめるのは、農村が持つ「新たな社会的な役割」と、それをビジネスへと昇華させる「地域の知恵」です。

ポストコロナという新たな局面を迎え、農村をはじめとした地域の可能性をどう引き出していくべきか。各地の事例を交えながらお話をうかがいました。


収益性こそが「持続可能な農村」への鍵

かつて1990年代に導入された「グリーン・ツーリズム」は、農村での休暇を楽しむ活動として広まりました。しかし、大江氏は長年の研究から一つの課題を指摘します。「これまでの活動は、結果的に高齢者の生きがいとしての側面が強く、収益性が低すぎました。経営として継続し、若い世代に引き継ぐためには、『活動としての再生産』を果たしていかなければ長続きしません」。

そこで、2017年頃から提唱され始めたのが「農泊(のうはく)」です。これは単なる観光ではなく、農村の資源をビジネスとして成立させることで、地域の持続性を高める試みです。

京都府南丹市美山茅葺きの里景観

「かつては1泊2食付きで6,000円という、安すぎる価格設定も珍しくありませんでした。しかし今は、地域ならではの食や体験に正当な対価をいただく。1万円、あるいはそれ以上の価値を認めてもらうことが、農村で家族を養っていくための大前提なのです」。

京都府南丹市美山農家民宿「なかいえ」での夕食風景

「ドメイン」を広げ、眠れる資源を再発見する

農村の活性化において、大江氏が強調するのは「ドメイン(活動領域)」の拡大です。「農業を単なる生産業として限定的に捉えるのではなく、視野を農村全体に広げてみる。そうすることで、自分たちが気づいていない経営資源がまだまだたくさんあることが分かります。『ドメインを広げることで、自分たちの新しい定義づけができる』のです」。

例えば、農村部に残る立派な空き家や伝統的な建築。これらをリノベーションし、宿泊施設や交流拠点として再生させる動きが各地で活発化しています。

「宮城県栗原市では、農村ツーリズム振興を行う(一社)栗原ツーリズムネットワークと連携した地域の建設会社が中心となって、空き家を快適な民泊施設へと生まれ変わらせました。また、山梨県小菅村では、外部のコンサルティング会社が地域とともにリスクを負って会社を設立し、村全体を一つのホテルのように見立てる『分散型ホテル』を成功させています。これらはまさに、地域の資源を再定義した好例といえるでしょう」。

宮城県栗原市古民家改築民泊で展示されている伝統民芸品
栗原市古民家改修予定の家屋

信頼という「見えない基盤」を築く

一方で、新しい活動を始めるには「地域との信頼関係」というハードルがあります。「外部の人間や企業が入ってくると、地元の方はどうしても警戒心を抱きます。『おしいところだけ取っていくのではないか』と。まずは、地域に根を張り、『この人なら信頼できる』と思われるプロセスが不可欠です。地域おこし協力隊の方が、日々の活動を通じて信頼を得て、その後に農泊を始めるケースがうまくいっているのはそのためです」。

地元の熱い思いと、外部のノウハウ。この二つが「信頼」を介して結びついたとき、農村は単なる生産現場を超えた、新しい価値の源泉へと変わります。

京都南丹市美山での野草茶調整体験

地域に関わるすべての人へ

最後に、工務店をはじめ、これから地域で活動し、まちづくりに携わりたいと考えている方々へ、大江氏からメッセージをいただきました。

「まちづくりにおいて、マーケット(市場)を見ることはもちろん大切ですが、それ以上に重要なのは『地域の人が持っている思い』です。その土地に対する熱い思いがなければ、結局はうまくいきません。地域の外から入るプロフェッショナルの方々には、その思いをシェアし、具体的な活動へと導く『ファシリテーター』の役割を期待しています。地元の会社が、建物を守るだけでなく、人と人をつなぐ役割を担うのも素晴らしいことでしょう」。

京都府南丹市。美山景観保全のため、消火栓も伝統的家屋様式で収納されている

地域の工務店のような存在は、農村での活動において「理想的な仲介者(ハブ)」となる大きな余地があります。建物を扱うプロとしてハード面を整えるだけでなく、地域に根ざした信頼を背景に、外から入ってくる新しい感性や移住者と、地元の方々をつなぐ「架け橋」になれるでしょう。

「農村には、まだまだ図り知れないポテンシャルがあります。日本の農村文化が持つユニークな体験は、外国人観光客にも必ず響きます。自分たちが当たり前だと思っている風景の中にこそ、次世代を養うヒントがある。そう信じて、地域に足のついた活動をともに進めていきましょう」。

取材協力・写真提供 東京農業大学客員教授 大江靖雄氏

(取材・文:Replan編集部)


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