新築の家に入ると、声や音の響きがちょっと違って聞こえることはありませんか?家は建ててみないとわからないことがたくさんありますが、音や声の響き方や伝わり方も、その一つです。

人の話し声、掃除機や洗濯機など家電による機械音、シャワーやトイレを流したときの流水音など、私たちはさまざまな生活音に囲まれていますが、それがちょっと大きく聞こえたり響いたりすると、ストレスにつながることがあります。そこで今回は、インテリアコーディネーターの本間純子さんに、住まいの「音」について、インテリア素材との関係を中心にお話しいただきましょう。


インテリアの素材で変わる、家の中の「音」と「響き」

家の中を動き回りながら携帯電話で話をしていると、場所によって、自分の声の響き方が違って感じられることがあります。その理由は空間の形や大きさ、配置…だけではありません。内装仕上げ材に用いる素材やカーテンなどのウィンドウトリートメント、置いてある家具の大きさや素材などによっても、耳に入る音やその響きは微妙に変化します。

表面が固く密な素材ほど
音の「反射」や「回折(かいせつ)」が大きくなる

最近は吹き抜けのある家が多いですが、吹き抜け空間では2階にいても1階の音が、けっこう大きくはっきりと聞こえます。

これはビルの上層階にいるときに、道路を走る車の音が大きく聞こえるのと同じ。周囲の壁への「反射」や回り込んだ音が重なる「回折」が原因で、距離の割に音が大きく聞こえるのです。そのため1階リビングに吹き抜けがある家では、ひそひそ話ですら意外と2階に筒抜け、ということも…。

内装仕上げ材は、表面が固く密な素材ほど音の反射が大きく、音が重なり合って聞こえやすくなります(この音の重なりを「残響」といいます)。お風呂場で歌うとエコーがかかって気持ちいいのは、残響時間が長いためです。

音が反射しやすい内装材は、コンクリートやガラス、タイル、時とともに硬化が進む漆喰などです。木も素材としては硬めです。音の聞こえ方を重視したい空間では、その目的や用途に合った素材を選び、残響を効果的に使うといいでしょう。

音の反響を考えたリブ形状の天井や、スピーカーの動きをスムーズにするレンガと余計な共鳴を抑えるためのゴムマットの2層構造のステージ、防音率を高めた漆喰の漆り壁など、音楽鑑賞が趣味の施主のために、音響環境をデザインして、内装仕上げを細部まで工夫してつくられた住まい

一方で残響を抑えたい場合は、床にカーペットを敷くのが効果的です。例えば、階段室は縦に長く吹き抜けていますが、カーペットを敷くと音の反射が抑えられ、木質系の階段材よりも反射音が小さくなります。

快適な睡眠のために静かさや落ち着きが求められる寝室にも、カーペットはおすすめ。寝室はベッドカバーやカーテンなど、インテリアファブリックのボリュームも大きいので、残響を抑えやすい空間です。

多孔質で表面がやわらかい素材は
音を「吸収」し「透過」しにくい

音が反射や回折しやすい素材がある一方で、音を「吸収」しやすい内装材やインテリアの素材もあります。吸収されると音は小さく、響きも弱くなります。吸収しきれなかった音の一部は「透過」します。

例えば、和室を構成する「珪藻土壁」「畳」「襖」「障子」といった内装材は多孔質で表面がやわらかく、吸音性が高い素材です。土や草、紙はたくさんの空洞や繊維の重なりで構成されています。音がその中を通過する途中で熱エネルギーに変換され、透過音は小さくなります。和室がなんとなく落ち着くのは、音が吸収されることによる残響の少なさも影響しているかもしれません。

【音の反射・吸収・透過のまとめ図】

インテリアエレメントを用いて
気になる音の響きをコントロール

音の反射や回折によって起こる残響は、設計や内装仕上げ材の工夫以外に、家具やウィンドウトリートメント、ラグマットなどのインテリアエレメントでも多少コントロールできます。

竣工時の建物はガランとしていて、声や音が妙に響く感じがしますが、カーテンが取り付けられ、家具が搬入されるとその響きは小さくなります。引っ越しをして生活を始めた後も残響が気になって会話がしにくかったり、吹き抜けによる音の響きが大きかったりする場合は、

・家具のレイアウトを変える
・床にラグマットを敷く
・繊維系のタペストリーを掛ける

など、インテリアに手を加えて音の環境を整える方法も、コーディネートテクニックの一つです。

またウィンドウトリートメントの素材の違いも、音の反射に影響します。布地のカーテンだと残響が抑えられて音がやわらかになり、木製やアルミ製のブラインドだと固めですっきりとした音が得られます。目から入るイメージ同様に、音から受ける感覚も重要なインテリアの要素の一つです。

グラスウールの力で
気になる「透過音」を軽減

吹き抜けを通して階下から2階へ伝わるテレビや動画の音声、LDKと隣り合わせ・背中合わせに配した水まわりの流水音…。いずれも私たちの生活の音で、不快ではありませんが、少々気になることもあるでしょう。

間取りの都合上、避けられない位置関係にあるこれらの音は、内壁にグラスウールを入れることで解消するケースが多いです。 また、上階のトイレやスノーダクトからの流水音は「日中は気にならなかったのに、周囲が静かになる夜間になるとかなり気になる」ということがあります。こちらもグラスウールを巻くことで透過音を軽減できます。

もし、クローゼットや収納スペースにこれらのパイプスペースを配置できると、さらに音の影響を抑えることが可能です。衣類や諸々の収納品が吸音材の役割を担ってくれます。


空港近くに住まわれているお客様宅で、打ち合わせをしていたときのことです。上空を通るジェット機の音で、お客様の声が聞こえず、話がたびたび中断してしまいました。その後、竣工検査でお宅に伺うと、室内で聞こえるジェット機の音は微かで、普通に会話ができました。

外部の音は、外壁や窓ガラスなどで反射し、残りの音は木材や断熱材に吸収されます。反射や吸収を経てわずかに透過したジェット機の音が室内に伝わり、私の耳に届く…。気密性の高い今の住宅は、遮音性に優れます。その反面、室内の音は空間に反響しやすくなっています。

最近はテレワークの普及もあり、空間を「つなげる」ことと「閉じる」ことのバランスが大事になっています。間取りや内装仕上げを検討する際には、暮らし方に合わせた「音」の環境についても考えてみてくださいね。