いごこちの科学 NEXT ハウス

さらなる省エネ・省CO2が住宅の重要なテーマとなる寒冷地。 本企画は、独自の視点から住宅性能研究の最前線を開いている、東京大学の気鋭の研究者・前真之准教授に、「いごこちの科学」をテーマに、住まいの快適性能について解き明かしていただきます。 シーズン1に続く第2弾として2015年からは、それまでの連載の発展形「いごこちの科学 NEXT ハウス」としてリニューアル。
「北海道・寒冷地の住宅実例から考える室内環境について」をテーマに、断熱、開口部、蓄熱など、さまざまな視点から寒冷地における室内環境の改善ポイントを解説しています。東京大学大学院工学系研究科 建築学専攻・准教授 前 真之 (まえ・まさゆき)東京大学大学院工学系研究科
建築学専攻・准教授
前 真之 (まえ・まさゆき)


この連載でも何度か取り上げたように、住宅の脱炭素に向けた取り組みが進んでいます。その成果として、ついにゼロエネルギー住宅(ZEH)の断熱水準5、さらにその上に等級6・7の新設が決定しました。今回は、建設業界を驚かせた断熱等級の新設と、断熱強化に欠かせない窓の最新事情について見ていきましょう。

ほったらかしだった断熱基準

日本における住宅の断熱は、諸外国に比べて極端に遅れています。なにしろ、国の省エネ基準における最上位の断熱等級4は、1999年に定められた大昔のもの。前世紀のまま放置されていたのですから恐ろしいことです。おまけに、当時においても(特に温暖地では)より高いレベルを定めたかったのが、建材メーカー(特に窓メーカー)の抵抗で諦めざるを得なかった、という事情を筆者は聞いたことがあります。

23年ぶりの断熱等級新設!

当時においても大したことがないレベルの断熱を、長い期間ほったらかしにしていたわけですが、2020年10月に菅前首相がカーボンニュートラルを宣言した後、大きな見直しが入りました。その辺の顛末は本連載の第30回31回でも詳しくお話ししましたが、とにもかくにも「脱炭素あり方検討会」において、断熱の上位等級の設定が宣言されました。等級4が1999年に定められてから、実に23年ぶりに上位等級が新設されることになったのです。

等級5はZEHレベルの断熱

まずは、断熱等級5が2022年4月から施行されることになりました。この等級5は、いわゆるゼロエネルギー住宅(ZEH)で必須とされるレベルです。さしあたり、義務ではないが目指すべき「誘導基準」として設定され、遅くとも2030年までには守らなければならない「適合義務化」が予定されています。

等級5の新設は、あり方検討会でも当初から国交省が宣言していたので、驚きはありません。いわゆる「ZEHレベル」なので一見すごそうですが、民間の断熱基準HEAT20のG1を少し緩めた水準なので、実現するハードルは高くありません。 

驚きの断熱等級6・7設定

業界を驚かせたのは、断熱に後ろ向きだった「あの」国交省が、さらに上位の等級6・7まで新設したことです。あり方検討会の結論において「鳥取県の取り組みなどを参考に上位等級を設定する」と明記されてはいましたが、HEAT20のG2レベルを等級6とするのがせいぜいだろうというのがもっぱらの噂でした。

もともとの期待が低かった分、あり方検討会を引き継いだ国交省の審議会において、HEAT20の最上位であるG3を等級7とする案が出てきたとき、筆者も含めて驚いた人が多かったのです。G3は世界の水準からみても十分に高性能であり、これが最上位にきちんと設定されたことで、高断熱の普及が大いに後押しされることが期待できます。

「あの」国交省が 建築業界の要求を突っぱねる

国交省の審議会においては、業界団体の代表が「等級7は過剰な性能で、現場を混乱させるのでふさわしくない」という反対意見を述べました。構造が鉄骨の住宅は断熱性能を上げにくいため、多くのハウスメーカーは後ろ向きだったのです。

一方で、学識者は「住宅は消費者が自己負担で購入する以上、基準はつくり手のためではなく、住まい手のために定めるべき」と強く主張。今回ばかりは「あの」国交省も腰砕けになることなく、等級6・7をそのまま新設することが決まりました。こちらは、2022年10月から施行される予定です(図1)。

図1 HEAT20における室内温度・暖房エネルギー消費量の試算
出展:一般社団法人 20年先を見据えた日本の高断熱住宅研究会(HEAT20)

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