フィンランド初旅行の心残り
僕がフィンランドに強い興味を持った大きなきっかけのひとつが「アルヴァ・アアルト」。木や石といった自然素材を大胆かつ繊細に使い、空間に「人の温度」を宿らせることに長けた、フィンランドを代表する建築家です。

昨年実現させた初フィンランド旅では、「アアルト邸」や「アカデミア書店」など、「アアルト巡礼」ともいえるコースを鼻息荒く(!)辿ったのですが、その際、唯一心残りだったのが、国際会議や大型のイベントやコンサートの会場として有名なフィンランドを代表する芸術施設「フィンランディアホール」に入れなかったことでした。
というのも、当時は大規模な改修工事の真っ只中。建物を覆う足場越しに、その白い大理石の一部をちらりと見ただけで立ち去るしかありませんでした。ある意味この心残りが、フィンランドへの再訪を決意させたのかもしれません…。
ついに念願の「フィンランディアホール」へ
2025年1月、フィンランディアホールは改修工事を終え、ついに一般公開を再開。長い歳月をかけて磨かれたアアルト建築の「仕上がり」を、今回、ようやく目の当たりにできました!
エントランスに向かうと出迎えてくれるのは、真鍮の扉とリズムよく並ぶ大小の照明。少し重さを感じる扉を押して中へ足を踏み入れると、その瞬間感じたのは、周囲が音を吸い込んだかのような静けさです。素材、光、色、そのすべてが穏やかに整えられていて、思わず深呼吸したくなるような空気感でした。
アアルト建築の真髄に触れる
アアルト建築といえば、「ディテールの追求にこそ真髄がある」と言われています。フィンランディアホールも例外ではなく、ドアノブから床材、壁面のタイルまで、すべてがアアルトのデザイン。装飾のように見えるそれらは、機能と美しさの間を絶妙に行き来していて、まるで空間に「理由」が染み込んでいるようでした。
ロビーに並ぶ椅子も、照明も、パネルも、すべてが「アアルトらしさ」の延長線上にあります。空間の真ん中で無言の会話を交わしているような家具たちは、もちろんArtek製。「Chair 611」、「アアルトテーブル」、「Floor Light A810」など、よく見知ったプロダクトたちがアアルトが設計した建築と完全に呼応しているのを目の当たりにし、ただただ感動でした。
「人のための空間」がデザインされていることを痛感
また印象深かったのは、併設されたカフェスペース。店内にはパープルの一人掛けソファが並べられていましたが、空間のトーンに調和しながらも確かな存在感を放っていました。この「軽やかさと品性の共存」もまた、アアルトらしいバランス感覚だと感じます。
念願のフィンランディアホールの訪問でしたが、この建築・インテリアのすべてが、彼の手と目と哲学で編み上げられているという事実に、圧倒されるばかり。訪れる前よりも少しだけアアルトの建築を、そしてフィンランドという国を深く知れた気がします。
「カッコよく見せるための形」ではなく、あくまでも「人のための空間」として、建築に関わるあらゆるものがデザインされていることを改めて痛感しました。フィンランディアホールの真髄は、やはり音楽鑑賞。次はホールの雰囲気や音を味わいに、夜のコンサートホールにも足を運びたいと思っています。

今回初めて知ったフィンランディアホールの豆知識
余談ですが、今回改めて知ったことがひとつ。
フィンランディアホールは会議棟の名称が「AINO」、ホール棟の名称が「ELISSA」なのですが、これ、どちらもアルヴァ・アアルトの奥様の名前なんです…!最初の妻の名がアイノ、後に再婚した妻の名がエリッサ。人生のパートナーたちの名前を、建築の一部にそっと刻むあたり、さすが北欧のレジェンド。スケールが違う。


アアルトへの憧れが講じている僕は、フィンランディアホールからの帰り道にふと思いました。 今度なにかつくるときとか、何かしらの番号とかに、さりげなく妻の名前をつけてみようかな、と。 本人が気づくかどうかは別として、ちょっとした「マイ・フィンランディア」を持ってみたいと、密かに野望を抱いています。