電気蓄熱暖房機も採暖機器?

安価な深夜電力により電気ヒーターで蓄熱を行う蓄熱暖房機では、内部の蓄熱体は朝に700℃程度にまで加熱されています。図9に示すように、機器表面も100℃近くにまで上昇するため、対流と放射の両方で放熱が行われます。温かさを感じられるということで蓄熱暖房機を好む人がいるのは、この表面からの放射による採暖効果がその一因でしょう。ただし、大量の電気を電気ヒーターで生焚きしてしまうこの方式は、1次エネルギー効率が極端に低くなります。今後の利用は控えるべきでしょう。

図9 電気蓄熱暖房機も採暖機器?
電気ヒーターで加熱を行う電気蓄熱暖房機は、内部のレンガを深夜電力を利用した電気ヒーターで700℃程度まで加熱するため、表面温度も100℃近くまで上昇します。そのため、熱は対流だけでなく放射としても放出されるので、採暖機器ともいえます。ただし電気の生焚きは1次エネルギー効率が極めて悪いことはお忘れなく。

温水ラジエーターも高温から低温へ

採暖機器としては、寒冷地を中心に温水を流す温水ラジエーターも普及してきました。図10に示すように、以前は断熱・気密性能が低い開口部からの冷気を防ぐため、開口部の下にラジエーターを設置するのが一般的でした。80℃の高温な温水を流すことで、開口部からのコールドドラフトを打ち消すとともに、表面からの放射による採暖設備としての機能も期待されていました。

図10 高温のラジエーターは窓のコールドドラフトを打ち消す力あり
寒冷地で広く普及したラジエーターは、窓下に設置して80℃と高温の温水を流すことで、対流放熱による暖気で窓からの冷気を打ち消すとともに、放射放熱により室内を温めていました。開口部の断熱性能が低かった時代には、こうした窓下での高温ラジエーターが有効だったのです。一方で近年の高断熱住宅(右下)では、40℃程度の温水でも十分に冷気防止と暖房ができるようになってきています。

一方で現在の高断熱・高気密住宅においては開口部も強化されており、以前のように高温な温水は必要がなくなっています。ラジエーターにも40℃程度の低温な温水を流すことで、十分に部屋を暖めることが可能です。こうした低温では、放射による放熱量は減少し、対流がメインとなってきています。建物性能の進化に伴い、高温の放射による採暖の必要性が低下してきていることがうかがえます。

今回は昔から広く見られ、現在でも根強い人気がある採暖について考えてみました。高温の熱源から放出される遠赤外線による温かさは、たしかに独特の魅力があるのでしょう。一方で、建物の断熱・気密性能の進化は、高温の採暖の必要性を小さくしてきているのも事実です。エコロジーな魅力から薪ストーブに取り組む人も多くいますが、燃焼制御が困難であるなど課題も少なくありません。採暖器具に最高があるとすれば、それはやはり自然の「太陽」ではないでしょうか。窓からの太陽による暖かさについては、また今後取り上げたいと思います。


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※次回のテーマは<ゼロエネルギー住宅ZEH、本格普及へ>です。

【バックナンバー】
vol.001/断熱・気密の次の注目ポイント!蓄熱大研究
vol.002/暖房の歴史と科学
vol.003/太陽エネルギー活用、そのファイナルアンサーは?
vol.004/「湯水のごとく」なんてとんでもない!給湯こそ省エネ・健康のカギ
vol.005/私たちの家のミライ
vol.006/窓の進化
vol.007/断熱・気密はなぜ必要なのか?
vol.008/冬のいごこちを考える
vol.009/電力自由化! 電気の歴史を振り返ってみよう
vol.010/ゼロ・エネルギー住宅ZEHってすごい家?
vol.011/冷房を真面目に考えよう
vol.012/ゼロ・エネルギーハウスをもう一度考える
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vol.014/エネルギーと光熱費最新事情
vol.015/夏を涼しく暮らすコツを考えよう
vol.016/冬の乾燥感
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