家で過ごす時間が増えたことで、より存在感を増している家の空間。その一つが、キッチンです。家でごはんを食べる時間が多くなると、キッチンを使う頻度も増えます。よく使う場所だからこそ、家づくりではしっかりと検討し、あらかじめ使い勝手良くつくっておきたいところ。そこで今回はインテリアコーディネーターの本間純子さんに、キッチン収納づくりのポイントをいくつか教えていただきましょう。


キッチン収納の一番の目的は「取り出しやすさ」

先日テレビを観ていると、料理人さんのご自宅のキッチンが紹介されていました。キッチンに立つと壁面に2段の青い棚が左右に伸び、棚の上では調味料や鍋などが出番を待っています。振り返ると木製の作業台と冷蔵庫があり、作業台の下にはボウルやざるがぎっしり。代々伝わってきたかのような味わいと雰囲気のあるラックには食器が重なっていて、持っている道具と居場所がひと目で把握できます。

これはいわゆる見せる収納というよりは「見える収納」。この料理人さんいわく「道具類が見えていた方が、料理のイメージが湧きやすい」そう。オープンな収納によくある飾り棚っぽさがなく、働くキッチンの機能美とほんの少しの遊び心が見えて、とても魅力的でした。

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キッチンは、私たちの食生活を支える工場のような空間です。毎日さまざまな道具を使って調理し、器に盛りつける作業をします。使用する道具は迷わず取り出せることが重要で、手間取ると美味しさのタイミングを逃してしまいます。

収納というと「しまう」ことが目的のように捉えられがちですが、作業性を重視するキッチンにおいて収納が目指すところは「取り出しやすさ」です。料理人さんの例はその最たるものですが、ご家庭のキッチン収納も自分にとっての「取り出しやすさ」にフォーカスして計画したり見直したりすることで、理想のかたちが見えてくるかもしれません。

使うものがすべて見えて把握しやすい「見える収納」のキッチン。一つ一つ吟味されたアイテムが、シンプルなキッチンに映えてインテリアとしての個性にもなっている
使うものがすべて見えて把握しやすい「見える収納」のキッチン。一つ一つ吟味されたアイテムが、シンプルなキッチンに映えてインテリアとしての個性にもなっている

使い勝手を優先した「見える収納」のメリット

キッチン収納の主流は、道具類や食器、食品などをホコリや油汚れから守り、閉じるとスッキリした見た目になる扉や引き出しのある収納棚です。ただ、扉や引き出しがあると、使いたい道具を手にするまでに「開く」または「引き出す」の1アクションが必要です。その点「見える収納」は0アクションで、必要な道具や調味料にさっと手を伸ばせるので、使いやすさは抜群。道具類の全貌が見えますから、作業手順が想像しやすく、効率良く動けます。

とはいえ「やっぱりホコリや油汚れが気になる…」という方もいるでしょう。使用頻度やキッチンの広さやつくりに合わせて、オープンな「見える収納」と扉や引き出しの付いた「隠す収納」を組み合わせると、使いやすくてキレイさも維持しやすい、バランスの取れたキッチン収納がつくれます。

造作した対面式キッチン。ガスレンジを壁付けにすることで、シンクのある作業スペースが広くすっきりする。レンジまわりの壁の白いモザイクタイルが、インテリアのアクセントに
包丁やレードル、ヘラなどの使用頻度の高い調理器具や調味料をすべて見えるところに配置した例
自分の使い勝手やキッチンの仕様に合わせて、最低限必要なものだけを出しておくという方法も
自分の使い勝手やキッチンの仕様に合わせて、最低限必要なものだけを出しておくという方法も
調味料や粉ものは容器の形をそろえると、整然として見える。容器にラベルを貼って、砂糖と塩を間違えるなどの初歩的なミスを回避

使いやすいキッチン収納づくりのポイント

■ 手が届きやすい範囲をチェック!

使いやすいキッチン収納をつくるために、まず自分が取り出しやすい収納範囲を把握しましょう。

  1. キッチンの前に立ち、右に一歩移動したところで手を伸ばし、届くところに小さく切ったマスキングテープを貼る
  2. 再びキッチンの前に立ち、今度は左へ一歩移動して同様にマスキングテープ
  3. 今度は少しかがんだときに、ものが取り出しやすい高さにマスキングテープ

このマスキングテープの範囲に日常使いの道具類があると、毎日の作業がスムーズです。

薄いピンクのあたりが、この人物にとって物が取り出しやすい範囲。使用頻度が高いものは、この範囲を意識して収納すると、作業効率が改善する
薄いピンクのあたりが、この人物(身長158cm)にとって物が取り出しやすい範囲。使用頻度が高いものはこの範囲を意識して収納すると、作業効率が改善する

身長によって届く範囲や使いやすい位置は異なります。自分にちょうどいい範囲を知っておくと、吊り棚や調味料ラックなどの高さやサイズを決めるときに役立ちますよ。ちなみにワークトップの奥行きは65㎝が標準。キッチンまわりの拭き掃除をすると、この奥行きが、無理なく手が届く限界寸法であることが実感できるでしょう。

壁付けの収納は、手が届きやすい高さに設置するのが使いやすさのポイント
壁付けの収納は、手が届きやすい高さに設置するのが使いやすさのポイント

■ 引き出し式キャビネットは、自分の寸法も考慮

最近は、引き出し式のキャビネットを選ばれる方が大多数です。扉付きのキャビネットは物を取り出すのにしゃがむ必要があり、奥に入れた物が取り出しにくいのが難点。引き出し式だと真上から引き出しの中が見渡せて、楽な姿勢で物を出し入れでき、奥にしまってあっても取り出しやすいという利便性の良さが、普及している大きな要因です。

引き出し式のキッチンは、あまりしゃがまずに物を出し入れできる
システムキッチンと造作のカウンターを組み合わせ、引き出しと扉付きキャビネットの両方を採用するパターンも

そんな引き出し式のキャビネットを採用する際に気をつけたいのが、自分自身の寸法を考慮したスペースの設計です。引き出しは一般的に45~55㎝くらい引き出せますが、特に対面キッチンの場合は背面にカウンターや棚がありますので、通路の幅が狭いと引き出しを目一杯出したときに、後ろの棚などに身体がぶつかってしまいます。

そのことも含め、システムキッチンと背面収納や壁の間に85~90㎝くらいのスペースがあると使い勝手の面で安心です。キッチンメーカーのショールームには、キッチンでの動作寸法を確認できるコーナーを設けているところもありますので、実際に行って体験してみるのもおすすめ。毎日の使い勝手に影響しますので、寸法は慎重にチェックして決めましょう。

引き出し式キッチンの場合の寸法例
引き出し式キッチンを採用した場合の寸法例。引き出しを50cm引き出した状態
作業台と背面収納の間は、85~90㎝くらいのスペースがあると使いやすい
システムキッチンと背面収納の間は、85~90㎝くらいのスペースがあると使いやすい

■ 物の重ねすぎに注意

キッチン収納の理想は、扉や引き出しを開くとすべての道具や食器が見えて把握できることですが、スペースには限りがあります。

  • 手前のものを片手で持ちながら、奥のものを取り出す
  • 重なっている上の数個を持ち上げて、下のものを取り出す

この2つの動作が無理なくできれば、物の出し入れがストレスなくできます。 ポイントは、重ねる物を片手で持ち上げられる重さや数量にとどめること。物を増やしすぎないことが、取り出しやすいキッチン収納を維持する秘訣ですね。

またカトラリーや調理器具のこまごましたものは、トレイや箱にまとめて収納し、箱ごと取り出して必要な道具を手にし、すぐに箱を収納場所へ戻します。これも、片手で持てるサイズと重さをキープすることがポイントです。

調理器具は色も形も素材もさまざま。食器も調理器具も、使用目的や形状が似たものをまとめると使いやすく、見た目もスッキリ
調理器具は色も形も素材もさまざま。食器も調理器具も、使用目的や形状が似たものをまとめると使いやすく、見た目もスッキリ
物の出し入れがストレスなくできる量を収納しておくことが、使いやすさをキープするポイント
物の出し入れがストレスなくできる量を収納しておくことが、使いやすさをキープするポイント


「調味料はオープンに、その他は扉や引き出しの中」「レードルやフライ返しは壁に掛けたほうが使いやすい」等々、キッチンの使い方は人それぞれで「正解」はありません。持っている道具の種類や数、使用頻度など、あなたやご家族の日常の使い勝手に合わせて道具の居場所を決めてあげましょう。キッチン道具の活躍なくして、美味しい料理は完成しませんので。