皆さんは普段、家のどこで過ごすことが多いでしょうか?コロナ禍の今、「ダイニング」が居場所のひとつになっている家庭も増えていて、食事以外に、家族の団らんや勉強・仕事の場所にもなっています。

快適なダイニング空間をつくるためには家族構成に合う広さや、身体の大きさに合う寸法を知って家具を選ぶことが重要です。そこで今回は、インテリアコーディネーターの本間純子さんに、ダイニングセットを選ぶときの参考になる家具寸法の考え方や見方について教えていただきましょう。


日本の「ダイニング」の歴史

椅子に腰掛けてテーブルで食事をする様式が日本の家庭で一般的になったのは、第二次世界大戦後のことです。実は、昭和前期から衛生面を考慮して「寝食分離」の生活様式が提唱されていたのですが、なかなか浸透しませんでした。1950年代に日本住宅公団が間取りの中にDK(ダイニングキッチン)を導入したことで、家での食事の場が「畳に座る+ちゃぶ台」から「チェア+テーブル」のスタイルに変わり、これが新しい時代の住まい方として定着したのです。

昔はいわゆる「茶の間」が、リビングとダイニングの機能を兼ね備えていた
昔は居間(茶の間)がリビング・ダイニングで、寝室も兼ねていた
今建てられている多くの家では、リビングとダイニングは別々に
今建てられている多くの家では、リビングとダイニングは別々に設けられている

用途が広がるダイニング空間

「ダイニングルーム」は食事をする空間という意味ですが、今のダイニングは食後のおしゃべりタイムにコーヒーやお菓子が並んだり、お父さんが朝届いたばかりの新聞を広げたり、学校から帰ってきた子どもたちが宿題をしたり…と、食事のとき以外にも多様な使われ方をしています。中にはコロナ禍でテレワークが増え、ダイニングがワークスペースになっている人もいらっしゃるでしょう。ダイニングセットを選ぶ際には、そのような活用範囲の広さも考慮して検討することが必要です。

ダイニングは、家族団らんの場所
ダイニングは、家族団らんの場所
お子さんが宿題をしたり遊んだり、ご主人や奥さんのテレワークスペースになったり、使い方が広がっている
お子さんが宿題をしたり遊んだり、ご主人や奥さんのテレワークスペースになったり、使い方が広がっている

ダイニングセットの各寸法の名称

使いやすいダイニング空間をつくるには「ダイニングセットのサイズ」が肝心です。まずはテーブルとチェアの寸法を確認する際の参考に、以下のイラストに書き込んだ名称をおさえておきましょう。

ダイニングテーブル選びのサイズの基本

●テーブルの幅:「1人あたり75㎝幅以上」を目安に

ダイニングテーブルの大きさは、基本的に「食事をする人数」で決まります。基準となるのは「食事に必要な1人分の面積」です。

約60㎝(人の肩幅+両腕の動作域)が1人分の幅。そこに必要な食器を配置した幅60㎝×奥行40㎝がおおよそ1人分の広さです。市販されているランチマットは、ほぼこのサイズに収まります。長方形のダイニングテーブルで考えると、家族4人用のダイニングテーブルの最小寸法は幅120㎝×奥行80㎝になります。ただ、これだと体格のいい成人男性には少々窮屈ですし、アームチェア(肘つきのチェア)をセットすると、チェアがはみ出してしまいます。

幅60㎝×奥行40㎝がおおよそ1人分に必要な面積。
幅60㎝×奥行40㎝がおおよそ1人分のテーブルセットに必要な面積。ただしこれで4人掛けにすると、スペースにゆとりがなくて窮屈
ランチマットのサイズが、1人分の食卓の広さの目安

1人あたり、せめて75㎝の幅があると、隣の人と肘が当たったりせずにゆとりを持てます。そう考えると4人家族用のダイニングテーブルは、幅150㎝~160㎝はほしいところ。160㎝以上あれば、少し詰めて短辺側に席を設けると5人でも食事ができます。

W150㎝×D80㎝のテーブルの場合のサイズ感。左右に少しゆとりが出る
W150㎝×D80㎝のテーブルの場合のサイズ感。左右に少しゆとりが出る
W160㎝×D90㎝のテーブルの場合のサイズ感。詰めれば5人掛けも可。奥行きにもゆとりができ、大皿などが置きやすい
W160㎝×D90㎝のテーブルの場合のサイズ感。詰めれば5人掛けも可。奥行きにもゆとりができ、大皿などが置きやすい
5人でも使えるサイズのダイニングテーブル
5人でも使えるサイズのダイニングテーブル

6人でテーブルを囲む場合は幅180㎝が最小寸法ですが、幅200㎝以上あるとゆとりができますし、アームチェアもセットできます。

W180㎝×D90㎝のテーブルの場合のサイズ感。テーブルをぐるりと囲んで6人で使うのにちょうどいい
W180㎝×D90㎝のテーブルの場合のサイズ感。テーブルをぐるりと囲んで6人で使うのにちょうどいい
大きな吹き抜けと広々したLDK
6人掛けのダイニングテーブルは、空間にも家族構成にもぴったり

●テーブルの奥行き:「80〜90㎝」が使いやすい

長方形のダイニングテーブルの奥行きは80㎝~90㎝が多いですが、これは「必要人数分の面積が確保しやすい」、「テーブル面を拭いたり、お皿を並べたりしやすい」というのが主な理由です。奥行きが1m以上あると、身長によってはテーブル中央に手が届きにくく、テーブルの天板全体を拭くのに手間がかかりますし、テーブルセッティングにも不便です。テーブルをオーダーメイドで製作してもらう際にも、奥行き寸法に注意しましょう。

テーブルの短辺(奥行)がこのくらいだと、テーブルの上を拭いたり、食器やカトラリーをセッティングしたりしやすい
テーブルの短辺(奥行)がこのくらいだと、テーブルの上を拭いたり、食器やカトラリーをセッティングしたりしやすい

●テーブルの高さ:「70~72㎝」が一般的。椅子の高さとのバランスが鍵

ダイニングテーブルの高さは70~72㎝が一般的。市販されているチェアと組み合わせやすい高さです。65㎝ほどの高さが低めのテーブルもありますが、組み合わせるチェアが限定されます。

ダイニングテーブルとチェアの高さの合う・合わないは、食事や作業のしやすさや、座っているときの快適性に直結します。特に大事な寸法が、テーブルの天板(甲板:こういた)とイスの座面の高さの差=「差尺(さじゃく)」です。

テーブルとチェアの高さのバランスが、快適なダイニングセットには不可欠
テーブルとチェアの高さのバランスの良さが、快適なダイニングセットには不可欠

ダイニングセット選びでは「差尺(さじゃく)」を確認!

日本は、屋内で靴を脱ぐ生活様式です。そのため日本製のチェアの座面高は約40~43㎝が標準。日本人の人体寸法や生活様式を考慮してつくられているので、海外製のチェアよりも低めです。

「テーブルの天板の高さとチェアの座面高の差を『差尺(さじゃく)』といい、その寸法は30㎝が適正である」と、これまで多くのインテリアコーディネーターは教わってきました。ところが差尺は厳密には「テーブルの天板の高さとチェアの座位基準点の差」であり、身長によって変わるため、適正な差尺はだいたい28〜30㎝くらいであることが最近知られつつあります。

「座位基準点」とは、私たちの座骨の先端に一致する場所で、座面にお尻が落ち着くあたりを指します。家具メーカーでは、チェアの座位基準点を床から約40~41㎝に設定していることが多いですが、できるなら直接チェアに腰掛けて確認しましょう。

適正な差尺は身長や個々の感覚によって異なるものの、だいたい28〜30㎝が一般的
テーブルの高さと座位基準点の差が「差尺」。これは身長や個々の感覚によって異なるものの、だいたい差尺が28〜30㎝だとテーブルとチェアのバランスが良くて使いやすい

座面高が同じでも、チェアの座面の素材や形状などによっては、高く感じたり低く感じたりします。座り心地は座面高だけでは判断できないので、実際に腰掛けて、自身のお尻や腰、背中に違和感がないチェアを見つけましょう。購入予定のダイニングテーブルにセットして腰掛け、食べる動作や書く動作をしてみると、高さが合っているかどうかが実感できるはずです。

チェアは、座ったときに足の裏がしっかりと床に着く高さが理想的
チェアは、座ったときに足の裏がしっかりと床に着く高さが理想的

テーブルもチェアも身体に触れる家具です。特にチェアは、身体全体を預ける家具で、身体に合わないと姿勢が悪くなったり、歯の噛み合わせに影響が出たりしますので、吟味して選びたいところ。

座面に薄手のクッションを敷くだけで、掛け心地が大きく変わることもありますし、デザイン違いを楽しみながら、それぞれの体型や身長に合った専用のチェアを持つ、というのも一案です。またテーブルやチェアの脚の素材や形状によっては、カットして高さを調整することも可能です。ただその場合、もとに戻すことはできませんので、くれぐれも慎重に…。

デザインや色の違うチェアを組み合わせても、また素敵
デザインや色の違うチェアを組み合わせても、また素敵

毎日のように使う家具は、デザインとともに使い勝手や心地よさも大切です。今回ご紹介したダイニングテーブルとチェアの寸法を参考に、家族構成や空間、身体のサイズに合うダイニングセットを選んで、美味しいご飯とおしゃべりタイムを楽しみましょう!