家づくりの満足度はいくつもの要因が重なって決まりますが、満足度が高い家づくりをしたお施主さんからよく聞く感想のひとつに「暮らしたい家のイメージをくんでもらえて、思い描いた理想の空間が出来た」という声があります。

つくり手と住まい手の「イメージの共有」というのは、家づくりのかなり大きなテーマです。家をつくる過程で、思い描くイメージが設計者や施工者に上手に伝わらないと不安ですし、ストレスも溜まります。そこで今回は、インテリアコーディネーターの本間純子さんに、インテリアのイメージ共有のコツを教えていただきましょう。


上手なイメージの共有のコツは
イラストや写真を活用すること

建売住宅は、現物を見た上で納得して購入できますが、注文住宅はオーダーメイドなので、住まい手が自分たちが思い描くイメージを伝える必要がありますし、つくり手はその要望に応えるべく具体的な素材や完成予想図を提示し、確認しなくてはなりません。思い違いやすれ違いを防ぐうえで、住まい手とつくり手のイメージの共有は、とても重要です。

上手なイメージの共有にはコツがあります。「楽しい」「明るい」「ナチュラルな」のような印象を表す言葉は、イメージの受け取り方に個人差が出やすいですが、イラストや写真があると、形や色、素材感や柄などが具体的に見え、イメージのすれ違いが生まれにくくなります。

どちらも「ナチュラル」なインテリアの住まい

インテリアに「統一感」が生まれる理由

家の中は、家具やカーテン、照明器具、床・壁・天井の内装、建具など、いくつものインテリアアイテムで構成されています。その一つひとつに備わっている色や質感など、デザインの方向性が同じだと、インテリア空間としてのテイストが強調され、統一感が生まれます。

青いモザイクタイルが美しいキッチンの壁
空間を構成するアイテムの方向性をそろえることで、統一感が生まれる

もし自宅の印象が「どこか、ちぐはぐでまとまりがない…」と感じるなら、それは個々のアイテムに備わっている要素が異なっていて、空間のイメージが煩雑になっているからかもしれません。

空間全体のイメージは、ほとんどの場合、個々のアイテムに備わるテイストの多数決で決まるので、インテリアコーディネーターとしては、住まい手の中にある「多数派のデザイン要素」を知ることで、より的確な提案ができると感じています。

自分の「好き」を見つめ直す。
「好きなものノート」のつくり方

私が仕事をしてきた中で感じるのは「集めた情報量が多すぎて、整理・分類できずに困惑しているケースが多いのかな」ということ。そこで、理想のインテリア空間を目指すためにおすすめしたいのが、「好きなものノート」の作成です。

これは、使いたいインテリア用品やイメージ写真をリストアップするためのスクラップブック的なノート。ただし、冊子になっているノートよりもA4サイズのルーズリーフや、白い上質紙をクリップ止めしたものが便利です。

テーブルの上に広げて一望できるのが、「好きなものノート」づくりの大事なポイント

スクラップブックを使ったり、スマホに写真を収集したりするのもいいですが、ページをめくりながら見るよりも、集めた情報をテーブルに広げて一望したほうが全体のイメージがつかみやすいため、私はこの方法が効果的だと考えています。

ノートにする紙を用意したら、ちょっと手間かもしれませんが、雑誌の切り抜きやイラスト、スマホからプリントアウトした写真などをどんどん貼っていきます。家具やクッションなどは背景が入り込まないように物だけを切り抜くと、個々の特徴がはっきりして、イメージのエッセンスが伝わりやすくなります。

飾りたい花や絵、ディスプレイ小物、食卓に並べたい食器など、家づくりに直接関わりそうにないものも貼っていってOK。「色が好み」「素材感が好き」など、特に何に惹かれるのかのコメントがあると、好きなポイントが把握しやすくなります。

なお、新居でも使う予定の家具や家電は、写真を撮って「新居でも使用」のページにまとめておきます。これは、プランニングやコーディネートの重要な情報になります。サイズも書き加えておけば万全です。

この作業をしていくと、自分の中にあった漠然とした「好き」が細分化されて、自分の家に取り入れたい「好き」と、単なる憧れや印象としての「好き」の線引きが次第にクリアになっていくはずです。

ウッドフレームのミラーやガラス製のタイルなどを使用した洗面化粧台
自分の「好き」をしっかりと把握することが、納得の家づくりへの第一歩

設計者やインテリアコーディネーター、
施工者とイメージを共有

インテリアの提案の際、私たちインテリアコーディネーターは「テーブルやチェアの脚の形状」、「ソファの肘の素材や形」、「ファブリックの織りやプリントの柄」など細かいところまで見て、住まい手が望むイメージの素を探っています。

視覚情報の80%以上が「色彩」によるものといわれますが、イメージの方向性の違いは形状や素材感、柄からもにじみ出していて、「違和感」となって訴えてくるものです。

統一感のある空間の構成要素には、必ず一定の共通項が見い出せる

同じインテリア空間の写真を見ていても、住まい手とつくり手では、注目ポイントが違うことがあります。そのズレをなくすために、「好きなものノート」に貼った空間全体の写真には「壁の色が好み」、「天井の素材や仕上げ方が理想的」など、自分が良いと思っているポイントが分かるようコメントを付けておくといいでしょう。

「好きなものノート」をテーブルに並べて見渡すと、色相や配色の傾向、直線的か曲線的か、幾何学的か有機的か、ツヤ感の程度、柄の好みなどからインテリア全体のイメージの方向性が見えてきて、求めている住まいのインテリアイメージが具体的になります。このプロセスを経ることで、家が完成したときのインテリアについての「思ったのと違った」「こんなはずじゃなかった」などの後悔をだいぶ避けられるはずです。

この写真が好きなものノートにあれば、「床や家具の白木の素材感=ナチュラルイメージ」、「家具のデザインや色、素材感=洗練された都会的なイメージ」の要望がくみ取れる

実現したいインテリアが、住宅の設計そのものに影響することもあります。例えば、センタークロススタイルのカーテンは縦長の窓が向いていますし、置きたいソファが決まっていれば、そのサイズやデザインに合ったリビングの形状や広さ、内装仕上げが要求されます。「好きなものノート」を介したイメージの共有は、プランニングの早い段階で進められるといいですね。

理想のインテリア空間の条件が、プランニングに大きく影響することも。イメージの共有は早めが吉

集めた情報は、家づくりを終えた後の家具やインテリア選びで役立つ場面があるかもしれません。ご自身やご家族が愛着を持って気持ちよく暮らせる住まいにするために、まずは「好きなものノート」をつくってみませんか?