私たちのライフスタイルの変化とともに、住宅のかたちも変化しています。最近の住宅で増えているのが、内と外の間のような「半外空間」です。

もともと日本家屋における「縁側」や「土間」は、建物の内とも外ともいえる曖昧な空間で、近所の人たちとのコミュニケーションの場や、日常生活の作業場などとして機能してきました。ただ北国、特に北海道では、長い冬の雪や寒さのために、近代の住宅にはあまり取り入れられていませんでした。

しかし最近は、建物の住宅性能の向上で、天候や気候に左右されない快適な空間をつくれるようになり、多様化する個々のライフスタイルに合わせたテラスやバルコニーを室内空間の一部として設計する例が多くなっています。

そこで今回は、インテリアコーディネーターの本間純子さんに、北国だからこそ活用したい半外空間「インナーテラス」について解説いただきます。


「インナーテラス」と「カバードテラス」の違い

一般的に、リビングの一部にテラスを取り込んだ空間が「インナーテラス」と呼ばれています。屋内の一部として設計されながらも土足で歩いたり、水や土汚れを気にせずに使える空間で、LDKに併設されているケースが多いです。

一方でLDKのすぐ外に窓を隔てて設計されたテラスで、壁と屋根で覆われた広い空間は「カバードテラス」と呼ばれます。どちらも、内のような外のような曖昧な空間であることが特徴ですが、屋内の一部か、屋外の一部かによって空間の名称が異なります。

LDKとつながる「インナーテラス」
LDKとつながる「インナーテラス」
外部空間の一部として設計された「カバードテラス」

ちなみに階高が2階以上の場合は、屋内の一部だと「インナーバルコニー」、外部空間だと「カバードバルコニー」と呼ばれます。

床面全体が屋根に覆われた「カバードバルコニー」
床面全体が屋根に覆われた「カバードバルコニー」

「インナーテラス」のよくある使い方

「インナーテラス」の使われ方は、その家の住まい手によってさまざまですが、中でもよく見る使い方を3つご紹介しましょう。

●観葉植物を置いて愛でる

視界に入るだけで心が落ち着くインテリアグリーンは、コロナ禍を経てさらに私たちの暮らしに身近になりました。せっかくのグリーンなので、生活の中で眺めていたいし、お手入れもしやすくしたい。そういった要望を満たす場所として、床がコンクリートやタイル仕上げで、水や汚れを気にしないで使えるインナーテラスは、植物の水やりや植え替え作業にうってつけです。植物の水やりやお手入れが主目的なら、専用シンクが設置できれば完璧ですね。

インナーテラスは、秋まで玄関ポーチを彩っていた鉢物にとっては越冬地にもなります。冬の室内の安定した温熱環境とやわらかな陽射しの中で、植物を冬越しさせることができます。

ただ、断熱・遮熱性能の高い窓を入れていても、夏は窓辺の温度が上がりやすいので、窓からの光量を調節するブラインドやカーテンを付け、風通しを良くする扇風機やサーキュレーターを使って、暑さをコントロールしましょう。

●薪ストーブのある暮らしを楽しむ

リビングに併設した土間のようなインナーテラスは、北海道や東北では特に、薪ストーブを導入した住宅によく見られます。薪は外に積んであるので木くずや土くずが付いていたり、時には木の中で休んでいた虫が出てきたり(!)しますし、薪ストーブの灰の掃除で床が汚れたりすることも。

その点、インナーテラスにしておくと、掃除や汚れをあまり気にせずに薪ストーブ生活を楽しめます。庭やテラスの一角を薪置き場にしている家も多いので、掃き出し窓や玄関と土間でつなげた設計で外と出入りがしやすいインナーテラスは、機能的でもありますね。

人の心を惹きつける薪ストーブの火が揺れるインナーテラスは、北国ならではのセカンドリビングとして、暮らし方の幅を広げてくれるでしょう。

玄関からインナーテラスへつながる動線

セカンドリビングのように使える広い土間のインナーテラス
薪ストーブの火を眺めながら、家族の会話も弾む

趣味の道具のメンテナンスや、DIYの場所に

インナーテラスは、天候や汚れを気にせずに作業ができる場所。ですので、釣りや登山、自転車など、アウトドアの道具類のメンテナンスにも重宝します。ピカピカに磨いたアウトドア用品や自慢の自転車をさりげなく置いておけば、インテリアの一部として眺めて楽しむこともできます。これからの時期は、スキーやスノーボードのメンテナンスにも便利ですね。

また清掃性が良いので、ちょっとした家具などのDIYや補修、塗装などにもインナーテラスは活用できます。北国の冬は寒さが厳しく、場所によっては雪も多いので、外で作業するのは大変。それほど大がかりでなければ、暖かい室内にいながら、自分の好きなタイミングで作業でき、暮らし方の自由度が広がります。

大事なのは、
具体的な使い方を考えて
プランニングすること

想定する使い方によって、最適な広さも床や壁の仕上げ材の仕様も変わります。プランニングの工夫次第では、マンションにもインナーテラスのような空間をつくることも可能です。

収納を組み込んだ造作壁でリビングをゾーニングし、マンションの部屋の中にインナーテラスのような空間を設けた例

どんな空間もそうですが、特に多目的に使えるインナーテラスは、「どのように使うか」が大事。「いろいろ使えて便利そうだから」とか「カッコイイし憧れるから」などふわっとした理由でつくってしまうと、ただの物置スペースになりがちです。

例えば、インナーテラスは玄関土間を延長させて、床暖房を敷設すると、雪で濡れたコートや靴を乾かすスペースにも最適。またランドリールームに接続させると、物干しスペースとしても使えます。

和室と組み合わせた土間空間は、坪庭を眺めるのにぴったりの住まいの余白

眺望や陽当たりなど条件の良い場所に配置するケースも多いので、空間の無駄遣いにならないように、使い方をできるだけ具体的に考えてプランニングを進めましょう。