太古の昔、人類の祖先が水面に映る自身の姿を見たときの驚きはどれほどのものであっただろうか。自分の外見を知らない者が自分自身だと認識するためには、表情の変化や仕草など、その確認作業を要したに違いない。

鏡は銅製鉢に水を張った鑑と呼ばれ、紀元前5世紀頃まで中国で使われていた。一方、金属製のものとしては銅製の鏡が古代エジプト第11王朝の頃に発明され、その後、地中海や中近東を経て各地域に伝わっていった。しかし、東洋の鏡においてはシベリアのスキタイ系のものが最も古いとされている。中国の銅鏡は周王朝の晩期、紀元前5~3世紀頃から鋳銅製のものが多く見られるようになった。中国の鋳銅技術は特に優れており、スズを多く含んでおり、美しい鏡面を生み出した。さらに鏡面を湾曲させて顔全体が映るような工夫も見られた。

日本に中国の銅鏡が伝わったのは前漢時代であるが、最も多く見られるのは後漢のものだ。中でも三国時代の三角縁神獣鏡は有名なものであり、これらは実用品とは言い難く、そのほぼすべてが神聖な神物となり、魔除けの対象となった。日本においては三種の神器と称され神聖視されており、鏡は尊いものであり、鏡面には必ず蓋がかけられていた。そうしたことから鏡に映った自身の顔や姿を平然と眺められるようになったのは、実は遠い昔のことではなかった。

日本で銅鏡が一般大衆に受け入れられ、鏡面を磨く専門の磨師が鎌倉時代に現れ、江戸時代になると梅酢や砥の粉、水銀などを合わせた材料で磨いたようだ。

ガラスの鏡が発明されたのは15世紀イタリアのベネチアであった。鍍錫法という技法によって銅鏡にはない美しい鮮明さを生み出すことになった。17世紀になるとガラスの球吹法から、溶けたガラスを板状に流す方法に改良され、より大きな鏡が生まれた。1678~1684年にはベルサイユ宮殿に<鏡の間>がつくられた。鏡は個人の顔を映すものから、クローゼットの扉などに使われるインテリアの構成要素の領域にまで広がった。また、単に対象物を映すだけにとどまらず、その特徴を生かした万華鏡のほか、太陽光を反射し発電する仕組みなど、今日では工学分野でその可能性が注目されている。

今回紹介するのは、ノルウェーの若手デザイナー、ダニエル・リーバッケンのもの。『124°ミラー』と名付けられた鏡のシリーズである。124°に開かれた面の鏡から構成されたもので、2枚の鏡で映る景色が変化することは、誰もが経験したことがあるだろう。この鏡は124°に設定した角度により、正面から覗き込んでも自らの姿は映らないマジックのような鏡である。鏡という四次元的な空間の広がりを使ったユニークな作品は過去にもあったが、リーバッケンのこの作品はこれまでにないユニークなものだ。壁面に設置するだけでなく、自立するため棚に置くこともできる。光を反射する小さな鏡で遊んだことを想起させるものだ。

ミディアム ブラックラッカー
ミディアム ブラックラッカー
ミディアム ナチュラルラッカー
ミディアム ナチュラルラッカー
124°の角度に開いた二面の鏡は、正面から覗き込んでも自分の姿は映らず、周囲の光景が予期せぬ姿で映し出される
124°の角度に開いた二面の鏡は、正面から覗き込んでも自分の姿は映らず、周囲の光景が予期せぬ姿で映し出される
壁面に設置することも、自立して床や棚に置くこともでき、木製の棚付きのタイプを含め2サイズをそろえている
壁面に設置することも、自立して床や棚に置くこともでき、木製の棚付きのタイプを含め2サイズをそろえている

■CORK FAMILY
ブランド:Artek(アルテック)
サイズ:W42×D18×H35㎝(ミディアム)
素材:アルミニウム アルマイト、ステンレス ポリッシュ、アッシュ材
価格:62,700円(税込)

<問い合わせ先>
MAARKET(マーケット)
https://maarket.jp/products/detail/1028