ひと昔前までは、薪ストーブといえば「横型」が主流でした。しかし近年、着実に知名度を上げているのが「縦型」の薪ストーブです。なぜ「縦型」のニーズが高まっているのでしょうか。

その理由を探るべく、2022年から札幌ショールームの実演機として縦型タイプの薪ストーブを設置している、北海道リンクアップ代表の唐牛 宏さんにお話を聞きました。


趣向の変化に合わせて高まっている
縦型薪ストーブの需要

この札幌ショールームに初めて縦型薪ストーブが並んだのは、今から10数年前のことです。JØTUL(ヨツール)の「F 373」という機種で、正面と側面にガラスを使用した一本脚のデザインでした。現在は機能がアップグレードした「F 373 ADVANCE」として販売されています。

JØTUL社の「F 373 ADVANCE」。オプションのターンプレートを使えば、360°回転し、どこからでも炎を楽しむことができる

当時は、横型薪ストーブが業界のスタンダード。目にする薪ストーブのほとんどが横型なので、縦型は選択肢にすら入らない人が多く、実際にショールームでも注目するお客様はかなり稀でした。

しかし、この10数年で縦型薪ストーブの認知度はぐっと上がりました。その理由の一つとしては「お客様が好む住宅デザインの変化」が挙げられます。

近年は、スタイリッシュでモダンな内装デザインの住宅が増えてきています。お客様のインテリアの趣向が大きく変わったことが、縦型薪ストーブのニーズを高める大きな要因の一つになっています。

木をふんだんに使用したログハウスのような家であれば、鋳物製のクラシカルなデザインの横型薪ストーブがインテリアとしてぴったり合うでしょう。けれど、白やグレーに明るい色の木を組み合わせたようなナチュラルモダンテイストの住宅だと、より洗練された雰囲気の縦型薪ストーブの方が空間になじみます。

また、土地不足や資材高騰などを背景に、昨今は住宅のコンパクト化が進んでいます。縦型薪ストーブは、横型薪ストーブと比べて設置場所にスペースを割かない点も、選ばれる理由の一つになっていると思います。

薪ストーブは、一度設置すると入れ替えることはほとんどありません。何十年もともに過ごし続けるものであり、室内での存在感も非常に大きいです。住まいとの調和や取り巻く環境の変化によって、縦型薪ストーブの需要が高まってきた面があるように感じます。

住宅性能の向上が実現する
「観賞用」の薪ストーブ

縦型薪ストーブの採用数が増えている要因としては、薪ストーブの「使用目的の変化」も考えられます。

住宅性能が飛躍的に向上した現在の北海道の家において、薪ストーブを暖房のためだけに設置する方はほとんどいません。もちろん、薪ストーブの質の高い暖かさは、他の暖房機器とは変えがたく、主暖房としても当然良い働きをしますが、今、薪ストーブを導入するお客様の主な設置目的は「炎を楽しむ」という観賞用です。

縦型薪ストーブは「鋼板製」が多くを占めています。これは、ヨーロッパや北米の鋳物工場の環境基準が非常に厳しく、基準を維持するためには多額の設備投資が必要という事情が大きく関わっています。つまり新しいデザインの薪ストーブの製造には、鋼板製の方が効率的なのです。

ただ、「熱しにくく、冷めにくい」性質の鋳物製と反対に、鋼板製は「熱しやすく、冷めやすい」のが特性。主暖房として長時間室内を暖めるには、断熱性に乏しい昔の住宅には不向きでした。

「熱しにくく冷めにくい」鋳物の薪ストーブ
「熱しにくく冷めにくい」鋳物の薪ストーブ

しかし、今は暖気が逃げにくい高断熱・高気密住宅が主流。しかも主な目的が「炎の観賞」で、あくまで補助暖房として使うとなると、暖房能力をそこまでシビアに見る必要がありません。

高性能住宅では断熱性の高さゆえに、ともするとオーバーヒートを起こして「冬なのに窓を開けないと暑い」というケースもあります。そのため観賞用に特化させて、あえて熱をあまり出さないように設計されている機種も販売されています。

「縦型薪ストーブ」のメリット・魅力とは?

縦型薪ストーブの魅力。それはなんと言っても炎の観賞に適した「縦に長いガラス面」でしょう。縦長のガラスによって、燃え上がる炎の先端までよく見えて、よりダイナミックにゆらめく炎の様子を楽しむことができます。

ソファに腰を下ろして眺めても、目線に近い高さで炎を見ることができます。また床レベルがLDKよりも低い土間に薪ストーブを置いても、ガラス面が高くて炎の様子が見えやすいです。「くつろぎながら炎を眺めやすい」ことは薪ストーブのある暮らしの醍醐味ですし、縦型薪ストーブの大きなメリットといえます。

ラウンジチェアやソファに座ったときの目線の高さに炎が揺らぐ
テラスとつながる土間に薪ストーブ
床レベルが低い土間に置いても、ガラス面が高いのでリビングから炎を鑑賞しやすい

炎を楽しむのに優れた縦型薪ストーブですが、実際に導入されたお客様の声としてよく耳にするのは「想像以上に暖かい」という感想です。

ガラスを介して伝わる輻射熱が非常に多く、実のところ室内を十分に暖めるスペックも備わっています。「週末だけ楽しむ観賞用に薪ストーブを入れたけれど、結果として主暖房として活躍している」という例は、決して少なくありません。

薪ストーブは、「何がしたいか」を
しっかり考えて選択することが大切

私たちが薪ストーブをおすすめする際に最も大切にしているのは、「お客様が薪ストーブで何をしたいか」を把握することです。薪ストーブで何をして楽しみたいか、どういう過ごし方を理想としているのかなど、時間をかけてしっかりとヒアリングします。

縦型か、横型か。この選択も「薪ストーブで何をしたいか」が、判断の基準の一つになります。例えば、「薪ストーブを、日常的に煮炊きするのに使いたい」という方には「横型薪ストーブ」が適しています。

理由は「天板の広さ」です。スリムなデザインが多い縦型ストーブは天板が狭いため、ケトルをや鍋を複数置くことができません。そのため、薪ストーブでお湯を沸かしたり、煮込み料理をしたりと日常的に使うことを優先するなら、「天板が広い横型薪ストーブを選んだほうがいい」ということになります。

ただし機種によっては、天板の利用が可能な縦型薪ストーブもあります。設置する環境やスペースの条件、使用目的などさまざまな角度から考えて、優先順位をつけて判断することが、最良の選択へとつながります。

北海道リンクアップで取り扱っている
人気の縦型薪ストーブ

最後に、当店で扱っている人気の縦型薪ストーブをいくつかご紹介します。

HITA(ヒタ)「NORN(ノルン)」

ショールームの実演機として設置しているヒタの「NORN」は、炉の上に、炉とは別の構造でオーブンを組み込んだ縦型薪ストーブ。熱の立ち上がりが早い鋼板製のボディを、蓄熱性に優れるソープストーンで包み込むことで、冷めやすいとされる鋼板の弱点をカバー。薪の燃焼時に出た熱を、このソープストーンが蓄熱してゆっくりと時間をかけて放出するため、室内を長時間にわたってじんわりと暖めてくれます。

ショールームと事務所の暖房はこの一台で賄っています。暖かさは想像以上ですし、縦にボリュームを割いた大きな窓からダイナミックに映える炎が伸びやかで美しい。石材の意匠性が高い上、調理ができて観賞用としての魅力も十分の人気機種です。

Contura(コンツーラ)「C51ヤンソン」

コンツーラは、縦型モダンを主流とするスウェーデンの薪ストーブブランド。「C51ヤンソン」はコンツーラでも珍しい鋳物製の縦型の小型薪ストーブです。全体的に丸みのあるフォルムで、長い脚も円柱形。鋳物の重さを感じない軽やかでモダンなデザインが人気です。

天板をフラットに仕上げているので、ケトルや鍋を置けるスペースが確保されています。コンパクトながらも、最大限に大きくした炉内では、薪ストーブ料理も楽しめます。縦型薪ストーブですが、炎と料理を存分に楽しむことができるハイブリットな魅力を持つ機種です。

JØTUL(ヨツール)「F162/163」

横型ストーブのイメージが強いヨツールですが、縦型薪ストーブのシリーズも数多く出ています。「F162/163」はヨツールの名品「No.1」や「No.4」を継承するの3本脚タイプで、三角形の胴体が特徴です。

天板も三角形なので、ケトルなどを置くことはできませんが、側面にもガラスがあり観賞用としては非常に魅力的です。価格も比較的リーズナブルなために、手が出しやすいのも人気の理由のひとつ。無駄な装飾を省いたシャープな印象のデザインは、昨今のモダン住宅との相性も抜群です。


当店では現在、販売台数のおよそ4割が縦型薪ストーブです。住まい手の趣向や住宅環境を取り巻く環境の変化が、縦型薪ストーブのニーズを高め続けています。薪ストーブ選びは、家づくりと同じくらいに熟考が必要。デザイン性、機能性など、自分たちの暮らしをイメージしながら最適な機種を選択し、豊かな薪ストーブライフをお過ごしください。