vol.046 「我慢しない家づくり」を諦めない方法

公開日:2025.7.8 最終更新日時:2025.6.12

長期優良の必須4項目

「住宅性能表示制度」と「長期優良住宅」について、もう少し詳しく見ておきましょう(図6)。

図6 「住宅性能表示制度」で住宅の性能を見える化して「長期優良住宅」の認定をゲットしよう

住宅性能表示制度は10分野ありますが、必須なのは「1構造の安定」「3劣化の低減」「4維持管理への配慮」「5温熱環境・エネルギー」の4つです。  

耐震性については、本連載vol.41「リフォームで耐震性能を高めよう」で取り上げたとおり、耐震等級1は「1回の大きな地震で倒壊しない」レベルにすぎません。地震の後も暮らし続けるためには、熊本地震や能登地震で複数回の揺れにも耐えた耐震等級3(多雪地域では等級2以上)が望まれます。長期優良住宅の条件でも耐震等級3が原則です。耐震性能の高い家にすることで、長く安心して住めて、資産価値も高く維持することにつながります。

長期優良住宅の断熱・ 省エネは最低レベルに?

図6の長期優良住宅の条件を見ていると、断熱は等級5、一次エネは等級6(省エネ20%)。いわゆる「ZEH水準」にとどまっています。ならば、無理にGX志向型住宅の断熱等級6、省エネ35%にしなくてもいいのかな…と思ったらそれは間違いです。  

国交省の審議会では現在、断熱等級と一次エネ等級の変更が議論されています(図7)。

出典:社会資本整備審議会建築分科会 国土交通省資料
図7 国交省は長期優良住宅(ZEH水準)の一次エネ等級と断熱等級を最下位の等級1へリセットすることを審議中

近い将来、断熱等級5を等級1にリセット、一次エネ等級もGX志向型住宅の省エネ35%までを追加したうえで、等級6を等級1に割りつけ直すというのです。2030年までにZEH水準の義務化が予定されていますが、そのときには長期優良住宅ギリギリの断熱・省エネでは「最下位等級」となってしまうことが確定しているのです。

十分な性能を確保すれば 家の価値が長持ちする

今まで日本ではスクラップ&ビルドを前提に、耐久性や性能を気にせず、とにかく安上がりに家を建てることが最優先されてきました。しかし、建材や人件費が高騰する中、一度家を建てたなら長く使って次世代に引き継ぐ、ストック重視社会への移行は不可避です。そのためには、先々まで十分な性能が備わっていることが不可欠です。  

長期優良住宅の劣化対策等級3は「3世代以上が住み継げる」、つまりは「2100年にも人が住んでいる」ことを前提にしています。残念ながら、ZEH水準の断熱・省エネは、2100年に通じる性能では到底ありませんし、後で直すのも著しくコスパが悪い。2100年にも十分な性能を確保するために、やはりGX志向型住宅レベル以上は必須といえるでしょう。

GX志向型住宅爆増計画

国交省は「2050年の住宅ストック全体平均でZEH水準を満たすこと」を目標に掲げており、断熱についてもストック平均で等級5を目指しています。この達成のため審議会には、断熱等級5・等級6をストック全体のそれぞれ3分の1に増やす計画が議論されています(図8)。

出典:社会資本整備審議会建築分科会 国土交通省資料
図8 国交省公約の実現には、今すぐ新築住宅で等級6以上を標準にすることが必須になる

1999年に定められた等級4以上の割合が、20年以上経った2022年の時点でわずか2割未満しか普及していない現実を考えれば、途方もないチャレンジングだといえます。実現には等級5どころか、等級6を今すぐ標準にすることが必須。今の新築では、近い将来当たり前になる等級6を初めから確保しておくことが、快適性や資産価値も含め、結局はオトクになりそうです。

住宅ローン控除と補助金が長期優良住宅とGX志向型住宅を支援

長期優良住宅の認定を取り、併せてGX志向型住宅の性能を確保することは、今後の家づくりには必須です。一方で、必要条件をクリアし認定をもらうには、やはり追加でコストがかかります。住んでから我慢しない家を実現するには、ここが踏ん張りどころ。幸いにして、国は住宅ローン控除や子育てグリーン住宅補助金で、長期優良住宅やGX志向型住宅を手厚く補助しています(図9)。

図9 国は住宅ローン減税と補助金で高性能住宅をサポート

特に、子育て・若年夫婦世帯には手厚くなっているので、積極的に活用しましょう。 住宅購入・建築検討者のアンケートによると、2030年までにZEH水準義務化の認識は年々広がっているようです(図10)。

出典:SUUMOリサーチセンター『住宅購入・建築検討者』調査(2024年)
図10 住宅性能への認知は広がるも、関心がある人はまだまだ少数

一方で、住宅性能表示制度や長期優良住宅制度への関心はいまひとつ。環境性能で住宅ローン控除が受けられることに関心がある人は3分の1程度いるようですが、特に若い世帯には関心と利用が広がってほしいところですね。  

今回は、住んだ後で我慢しない家づくり、というテーマで、絶対に諦めてはいけない住宅の性能について考えてみました。家を建てたり買ったりするのはどんどん難しくなっていますが、2100年に十分通用する性能を確保することが、今の新築住宅には必要です。譲るところと諦めないところ、メリハリをつけて、後悔しない家選びをしてくださいね。


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