いごこちの科学 NEXT ハウス

さらなる省エネ・省CO2が住宅の重要なテーマとなる寒冷地。 本企画は、独自の視点から住宅性能研究の最前線を開いている、東京大学の気鋭の研究者・前真之准教授に、「いごこちの科学」をテーマに、住まいの快適性能について解き明かしていただきます。 シーズン1に続く第2弾として2015年からは、それまでの連載の発展形「いごこちの科学 NEXT ハウス」としてリニューアル。
「北海道・寒冷地の住宅実例から考える室内環境について」をテーマに、断熱、開口部、蓄熱など、さまざまな視点から寒冷地における室内環境の改善ポイントを解説しています。東京大学大学院工学系研究科 建築学専攻・准教授 前 真之 (まえ・まさゆき)東京大学大学院工学系研究科
建築学専攻・准教授
前 真之 (まえ・まさゆき)


2019年に入っての冬は、はじめは暖冬かと思いきや、2月には結構寒い日が続きました。冬の寒さを和らげ暖房にかかるエネルギーを削減するために、住宅において一番重要なパーツを1つ挙げるとすれば、それは間違いなく「窓」ということになります。今回はその窓について、最新の状況と課題を見ていくことにしましょう。

窓から逃げる熱を計算してみよう

住宅関係の資料やウェブ記事を読んでいると、「熱ロス最大の弱点は窓!」「窓の高断熱化が重要!」と連呼されています。確かに窓は熱が一番逃げやすい場所なのですが、どの程度のものなのでしょうか。図1に示す簡単な例を通して、窓の熱ロスを見てみましょう。

図1 窓の熱ロスの大きさを「靴箱モデル」で考える

ごく簡単な「靴箱モデル」の戸建住宅を考えます。幅10m・奥行6m・高さ5mで、建築面積は60㎡、階段を考えずに総2階とすれば、延床面積は2倍で120㎡ですから、まあ標準サイズでしょう。

この家の表面積の合計は、280㎡になります。窓の大きさは物件ごとにまちまちですが、この程度だとまあ30㎡といったところでしょうか。そうすると、窓以外の壁・床・天井の表面積は残りの250㎡になります。

建物のある部位の面積あたりの「熱の逃げやすさ」は熱貫流率U値で表されます。このU値が大きいほど熱ロスが大きく、小さいほど熱ロスが小さく高断熱、ということになります。壁・床・天井には最低でも100㎜のグラスウールを入れるのは今では当たり前なので、その場合のU値は0.4程度になります。これに面積の250㎡をかけると、室内外の温度差が1℃の場合の熱ロスが計算できます。この家の壁・天井・床からの熱ロスは100W/K(ワット/ケルビン)になりますね。

窓は面積こそ小さいのですが、この熱の逃げやすさU値が極端に大きいのが問題です。従来非常によく用いられてきた「単板ガラス・アルミフレーム」の窓は、U値が6.5となっており、先のグラスウール断熱壁に対して16倍も熱ロスが大きいのです。そのため、面積をかけた室内外温度差1℃の熱ロスは195W/Kにもなり、先の窓以外部位の100W/Kの約2倍にもなってしまうのです。

面積では全表面積の1割程度の窓が、熱ロスではその他の倍にもなってしまう。まさに窓は断熱において最大の弱点といえるでしょう。

「放射・対流・伝導」3つの熱ロスを減らし、高断熱に

住宅の高断熱化のためには、窓自体の熱ロスを減らす、よりU値が小さい窓を選ぶことが最重要です。そのためには、本連載で繰り返し伝えてきた、熱移動の3ルート、「放射」「対流」「伝導」のすべてについて、きっちり熱ロスを減らしていくことが肝心です(図2)。

図2 窓の断熱性能向上には熱移動3要素「放射・対流・伝導」を減らすのが大事

窓で一番面積が多いガラス部分については、室内側(高温)のガラスから室外側(低温)のガラスへ伝わっていく熱移動を減らすことになります。ガラスの熱伝導率は木材の10倍程度と大きく、あまり厚くすることも重量やコスト・透明性などの面から困難です。そのため、ガラスの枚数を2枚・3枚と複層化し、ガラス間に空隙をつくることで「伝導」による熱移動をカットします。

このガラス間の空隙の中でも、室内側(高温)のガラスからは遠赤外線による「放射」と空隙内の気体による「対流」により、室外側(低温)のガラスに熱が移動してしまいます。

放射を減らすのがLow-Eガラス

放射をカットするのが、Low-E(ローイー)と呼ばれる低放射コーティングです。銀や亜鉛の薄い金属膜をガラスに蒸着させることで、金属膜の自由電子によるマスキング効果により、遠赤外線が出にくくなり、放射による熱移動が減少します。Low-EのEは放射率=emissivityの略なのです。

以前のLow-Eガラスは金属膜の色が強く、緑がかったものが多く見られました。最近では金属膜の技術が改善され色味も穏やかになり、コストも普通のクリアガラスと大差ありません。ガラスの選択においては、Low-Eガラスの選択が必須といえます。

対流をカットするのはガスか真空

ガラス間の空隙にある気体は、その分子の運動や移動による「対流」により熱を伝えてしまいます。通常は空隙に乾燥空気が詰められている場合が多いのですが、空気の主成分である窒素は原子量が14とかなり軽く、ちょこまかと動くために対流の熱ロスが大きくなってしまいます。

空気の代わりに、アルゴン(原子量40)やクリプトン(同84)といった、より重たいガスを詰めておけば、分子の動きが遅くなるので対流による熱ロスが減少します。アルゴンは大気中にも1%存在する豊富で安価なガスなので、今後の標準になるでしょう。クリプトンは希少で高価なので、超高断熱窓に限定して用いられています。

ガラス間を真空にした「真空ガラス」も登場しています。ガラス隅に真空引きをした際の封印があり、ガラス間の隙間を保つ小さな黒い点がポツポツ入っているので区別ができます。真空ガラスは高価ですが薄くできるので、シングルガラスが入っていた窓フレームに付け替えることも可能です。

フレームは樹脂化で熱伝導をカット

ガラス部分では複層化で空隙をつくった上で、Low-Eコーティングで放射を減らし、アルゴンガスで対流をカットすることができました。最後に残った、窓面積の残り2〜3割を占めるフレーム部分は、室内と室外を直接つなげているため、伝導による熱ロスを減らすことが肝心になります。

従来の窓フレームは、耐久性や軽量性を重視してアルミがもっとも多く用いられていました。アルミは大変優れた素材でしたが、1つだけ弱点がありました。樹脂や木に対して熱伝導率が千倍も大きかったのです。アルミフレームでは熱ロスも非常に大きく、また室内側が極端な低温になり結露が発生するなど、熱性能としては落第です。

アルミの極端に大きな熱伝導率を抑えるため、樹脂と組み合わせた「アルミ樹脂複合」や、全部を樹脂化した「フル樹脂」、高級品として「木製」など、高断熱型の窓フレームが登場し、近年急速に普及してきています。

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