照明器具にも他のアイテムのように、それぞれの国民性や時代性が反映される。日本に蛍光灯が普及するまでは夜の暗さは当然のことと受けとめ、ほの暗い灯明や提灯、ワット数の低い電灯が暮らしの中に存在した。それは昭和20年代後期まで続いた。そうしたほの暗さは日本人の暗さに対する感性と美意識を生み出し、文学の中にも様々に表現されてきた。谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」はその代表例と言えるだろう。

一方、北欧では暗い冬の夜長を温かく暮らす明かりの文化がある。個人の住宅はもちろん、公共施設やレストランなど、いたるところにキャンドルが灯されており、キャンドルホルダーの種類も数多い。照明器具のデザインも豊富で名作といわれるものも多い。それらに共通しているのは人の目に優しい、光源が直接目に当たらないフレアレスとなっているところだ。

また、北欧の一般家庭では天井に直接照明器具を設置するシーリングランプはほとんど見られることがない。シーリングランプは部屋全体に明かりを届ける機能があるが、光源が高いとオフィシャルな空間となり、アットホームな温かさは得られない。そのため、リビングルームには各コーナーに合わせて6〜8種類のペンダントランプ、フロアランプ、テーブルランプ等々、それぞれの場所に適した照明器具が設えられている。

北欧とは少し違った明かりの文化をもつのがイタリアだ。イタリアの住空間は天井も高く、開口部も多い。地中海気候は雨も少なく明るい。そうした環境は国民性に表れ、彼らが生み出すデザインにもそうした特徴はよく見られる。イタリアの照明器具は自由な発想からユニークでオリジナリティー溢れるデザインが多い。

それらの多くが可動構造という遊び心に通じる点もイタリア人らしさだ。北欧もイタリアも要は、必要な場所に必要充分な明るさを提供できればよいのである。また、イタリアでは照明のフレアレスに捉われることなく、光源を動かすことでその問題をクリアしている。機能性よりもデザイン性の楽しさが人々を幸せにするという考え方なのである。

今回紹介するジノ・サルファッティは、イタリア照明デザイン界の大御所だ。生涯で600を超える照明器具をデザインし、それらの中には20世紀の名作デザインと評価されているものも多い。自ら照明器具の会社を設立、その社名はアルテルーチェ(芸術的照明)というものだ。

写真のシャンデリアは古典的な装飾物そのものといったシャンデリアを、サルファッティ独特の解釈で、モダンデザインとして表現したものだ。この作品では電線が生み出す曲線さえも重要なデザインエレメントになっている。

現在はフロス社で生産されており、電球の数が50、30、18球と3タイプある。かつては、同じ発想で壁に取り付けるブラケットタイプや放射状に広がりを表現したものなども見られた。そんな中でもこの作品は秀逸だ。この他にも復刻が待たれるデザインも多い。今後を待とう。

MOD.2097 18(左上)、MOD.2097 30(左下)、MOD.2097 50(右)
MOD.2097 18(左上)、MOD.2097 30(左下)、MOD.2097 50(右)
デザイナーのジノ・サルファッティ
デザイナーのジノ・サルファッティ

MOD.2097のカラーバリエーション。写真はMOD.2097 30
MOD.2097のカラーバリエーション。写真はMOD.2097 30
上からマットブラック、クローム、ゴールド
上からマットブラック、クローム(左)、ゴールド(右)

■MOD.2097
メーカー:FLOS(フロス)

カラー:クローム、ゴールド、マットブラック
本体:真鍮、鋼

MOD.2097 50
サイズ:φ1000㎜、H880㎜
ランプ:ナシ型白熱球(15W)×50(E14)、2097専用LED電球(1W・2200K・80lm)×50(E14)
重量:9.2kg
価格:白熱球 クローム/460,000円(税込)、ゴールド・マットブラック/510,000円(税込)
LED クローム/618,000円(税込)、ゴールド・マットブラック/668,000円(税込)

MOD.2097 30
サイズ:φ880㎜、H720㎜
ランプ:ナシ型白熱球(15W)×30(E14)、2097専用LED電球(1W・2200K・80lm)×30(E14)
重量:5.8kg
価格:白熱球 クローム/319,000円(税込)、ゴールド・マットブラック/371,000円(税込)
LED クローム/414,000円(税込)、ゴールド・マットブラック/466,000円(税込)

MOD.2097 18
サイズ:φ690㎜、H510㎜
ランプ:ナシ型白熱球(15W)×28(E14)、2097専用LED電球(1W・2200K・80lm)×18(E14)
重量:3.2kg
価格:白熱球/240,000円(税込)、LED/298,000円(税込)

<問い合わせ先>
日本フロス(株)
https://flos.com/ja/
TEL.03-3582-1468