NPO住宅110番」は、住宅雑誌Replanが長年にわたって育ててきたインターネット上の家づくりのための「世論の場」です。住まいの悩みに、住宅建築の最前線にいる専門家のみなさんが回答しています。この記事では同WEBサイトに寄せられた皆さんからの投稿・アドバイスを抜粋(一部修正)しReplan誌面に掲載したものをさらに厳選してお届けします。

 

Q 屋上パラペットの笠木と外壁塗装

質問者/兵庫県・はな87
記事No.14404/カテゴリ:工法

屋上のウレタン防水をシート防水でリフォームしました。提案された工事は既存の笠木を除去し、パラペットごとシート防水で覆うものでした(歩行部はディスク固定と溶着です)。施工から1年後、パラペットの立ち上がり部分が膨れていることに気づきました。

友人に相談すると「そもそもパラペットに笠木がない工法は聞いたことがない。標準仕様書通りなのか工事会社に問い合わせた方が良い」と促され、実際に問い合わせたところ、「パンフレット通りに施工しました」との回答しかありません。

また、外壁塗装も同時に行いましたが、外壁には屋上から何本もの黒いシミができています。不思議に思い、シミのない外壁面を虫眼鏡で良く見ると無数の穴(直径:裁縫針が通る位、奥行1~2㎜)が見えます。

そこで質問です。

1.パラペットに笠木を取り付けるか取り付けないかは、法律や何かで決められていないのでしょうか?

2.特に設置基準がない場合、笠木を取り付ける目的は何でしょうか?

3.笠木をつけるメリットとデメリット、笠木をつけないメリットとデメリットは何でしょうか?

4.外壁にできた黒いシミの原因は何が考えられますか?(まさか防水シートが溶けた可能性はありませんか?)

5.外壁の無数の穴は存在しても良いのでしょうか? 防水機能上、問題にはならないのでしょうか?

どうぞご教授いただきますようお願い申し上げます。

A:回答者/一級建築士事務所(株)北工房 代表取締役 栃木 渡

>1.パラペットに笠木を取り付けるか取り付けないかは、法律や何かで決められていないのでしょうか?

→法律では決められていません。

>2.特に設置基準がない場合、笠木を取り付ける目的は何でしょうか?

→笠木を取り付ける部分(立ち上がり天端)の防水層の養生や、防水の貼り仕舞いの保護が主な目的です。

>3.笠木をつけるメリットとデメリット、笠木をつけないメリットとデメリットは何でしょうか?

前記のメリットが無いことがデメリットです。ほとんどの場合、「予算」で最終的に笠木を付ける付けないが決まるようです。

北海道ですと、笠木がないと凍結などの問題がありますので、予算がなくてもなんとか取り付ける方向で検討しますが、本州ですと取り付けていないケースが多いですね。私も、昔はびっくりしました(北海道では笠木があるのが当たり前だったので)。何をもって「標準」なのか……、難しいところですね。特に改修工事では。

>4.外壁にできた黒いシミの原因は何が考えられますか?(まさか防水シートが溶けた可能性はありませんか?)

→空気中の塵、ホコリが雨水に混じり、滴り落ちた時についた跡ですね。防水シートはよほど強烈な劇薬や溶剤などでもかけなければ、溶けださないと思いますよ(実験なんぞしたことはありませんが……)。

>5.外壁の無数の穴は存在しても良いのでしょうか? 防水機能上、問題にはならないのでしょうか?

→言葉の情報だけですので、推測ですが、塗装時の細かなエアの跡かと思います。防水機能上は、下塗りも含め正しい塗装工程を踏んでいれば、問題ないと思いますし、そもそも外壁にはさほど「防水性能」は求められておりません。

質問者より

ご回答いただきまして、ありがとうございます。お礼が遅れまして、大変申し訳ありませんでした。パラペットの笠木には見た目以外の意味があり、地域によって重要性は変わり、つけるつけないは予算次第なのですね。何をもって「標準」なのか、難しいとは思いますが、いつかは定めて欲しいと願うばかりです。

防水シートが溶ける可能性はやはり低いのですね。では仮に、笠木があれば、改修後1年以内で外壁の汚れに悩まされることがなかったかもしれませんか? 笠木にはそのような機能もあるように想像するのですが、可能性としてどうでしょうか?

そして、外壁にさほど「防水性能」は求められていないとのことですが、ここが良く分かりませんでした。もう少し教えていただけますか? わが家は鉄骨造ALCで、外壁塗装は雨漏りを止めるために必須と理解して工事に踏み切りました。よろしくお願いいたします。

a-1:回答者/現場監督A

栃木先生ではないですがとても興味深い内容だったので。笠木の意味としては屋根材などのように防水層を保護する意味があると思います。たとえば壁面は雨が降っても重力で水分はすぐに乾きますが、水平面は水が溜まったり施工時に踏まれたり耐久性が求められます。私は東京都内ですが、40~50年前くらいのモルタルの外壁ですと笠木がない建物も多いです。そのまま吹き付けなどで仕上がっています。そうするとヒビなどが起きた際に中に水が入り手すりが錆びたり、中の木部が濡れればシロアリがついたりします。そうなる前にクラック処理や塗装をします。

今では笠木はつけて当たり前ですが、改修の場合はその状況によってになっちゃいますね。予算もありますし。既存で笠木が付いていればできれば外したくないですね。一度外したとしてもまたつけたいです。外したものがまたつけられれば一番いいんですが、外せるようにつけられてない場合も多く、その場合は壊してまた新品をつけるようになりますからその分費用がかかってしまいます。なので防水で一緒に巻いてしまったのかと思いました。

雨が降った際に水の流れ方によって黒い雨染みはつきますので、笠木によってその流れ方は変わる可能性はありますが、絶対に雨染みで黒くならないわけではありません。むしろ防汚性の高い塗料だと黒ずみがつきにくくなると思いますし、色によっても変わるでしょう。

「外壁にさほど『防水性能』は求められていない」については、外壁の素材によってまちまちですが、基本的にはまず防水層があり、それを守るために外壁があり、外壁の耐久性を保つために塗料で撥水するといった感覚だと思います。外壁を防水することもできますが、一般的ではありません。そういう意味での言葉かと思います。ただ、鉄骨ALCの多くの場合は、ALCの工場出荷時にALCに防水処理をしていて施工後に目地のシール、この一次防水だけが頼りなので、この下に防水対策をしていない場合は外壁塗装=防水くらいの感覚で考えないとならないケースもあります。

質問者より

具体的な説明をいただきまして、感謝しております。笠木に防汚機能はないようですね。「外壁にさほど『防水性能』は求められていない」について、防水は他で確保し、外壁塗装に頼らないという考え方が基本にあるようですね。ALCの場合、室内側に防水部材がないので塗装に頼らざるを得ないが、基本的に塗装は外壁の耐久性や見た目を改善する目的で行うもの。という考え方でよろしいでしょうか?

a-2:回答者/医王山

笠木の必要性と汚れは……については、防水材の取り付け部分からの漏水を防ぎ、防水材取付部(始まり)コーキング部分(ASではコーチングですが)の耐久性、取付部分からの水の侵入防止から設置します。笠木は上部に埃などが付くため、外壁面に汚れが少ないように、屋上側勾配とし汚れを屋上に流します。ALC防水性については、H社資料では下記のように記載されています(インターネットで資料請求できます)。

・ALC吸水性がありますので、……吸水すると、断熱性が低下し、強度も下がり欠けやすくなり……

・屋根・外壁とも必ず防水仕上げをする。防水性の高い仕上げ材(外壁材、シーリング材)を選定することが必要です。(H社、ALCテクニカルハンドブックより)

・吸水性が大きいので……については、ALCはメーカー資料でも、外壁塗装の防水性能の重要性や打ち込む(取付)金物はアルミ製ステンレス製、または十分な防塵処理されたものの使用……をうたっています。ALCはRCと違い中性で、防水性能が無いので、定期的な外壁塗装やシーリングの打ち替えが必要です。

質問者より

医王山 様、コメントありがとうございます。お陰さまで腑に落ちました。

>笠木は上部に埃などが付くため、外壁面に汚れが少ないように、屋上側勾配とし汚れを屋上に流します

今思うと、以前設置されていた笠木に水を流した時、外壁側ではなく屋上側に流れ易かったように思います。保護機能だけに留まらず、とても嬉しい配慮ですね。次回はその様に取り付けるよう主張したいと思います。ただ、ALCや防水シートとの相性で選定が難しいのかもしれません。ウレタン防水よりシート防水の方が高額であることから、シート防水の方が性能が高いとの偏見で選択しましたが、以前の様にウレタン防水と笠木のペアが無難で良い様に思いました。

ALCは吸水性が高いために、定期的な外壁塗装が必要なのですね。いつの間にかすり込まれた雨漏りイコール外壁塗装の大雑把なイメージをリセットし、部材やその取り付け部分各々の意味を理解した上で、次回の工事を決めようと思います。ありがとうございました。

a-3:回答者/現場監督A

>ALCの場合、室内側に防水部材がないので塗装に頼らざるを得ないが、基本的に塗装は外壁の耐久性や見た目を改善する目的で行うもの。という考え方でよろしいでしょうか?

その通りだとぼくは思います。たとえばサイディングだとわかりやすいんですが、外壁の下にある透湿防水紙がはっきりと防水層です。その防水層を守るために外壁を施工します。サイディングは工場塗装されていますが防水ではありません。これが劣化してくるとサイディング自体に吸水をするようになります。それが繰り返されるとサイディングが傷みやがてもろくなってしまうので防水紙を守れません。だから塗装をします。防水というよりも撥水の方が近いと思います。栃木先生の回答はその時点で「ALC」という情報がないので、この一般論をおっしゃっているのでは。

鉄骨+ALCの場合はALCの厚みと、防水処理されていること、継ぎ目はシーリング処理されていることが「防水」で、それを守るために外壁塗装がしてあると考えます。ただALCの防水処理もそんなに高耐久ではないと思います。なので外壁塗装で保護します。防水工事をすることと、防水性の高い塗装をするのは少し意味が違うと思います。とはいえ、ALCにどんな製品が使われてどんな塗料が塗られているかを調べるととても耐候性が高いのがわかると思いますよ。

質問者より

現場監督A様、度々コメントをいただきまして、ありがとうございます。ALCの外壁リフォームでは、シーリングによる防水、塗装によるALCとシーリングの保護が必須なのですね。防水、撥水、保護……ふんわりと理解してしまいがちな言葉ですが、しっかり理解してからリフォームすることの大切さに気付かされました。

塗料って奥深いですね。次回の外壁塗装までたっぷりと時間があるので、色々調べてみようと思います。ただ、今回は”オリジナル”という一言で形容されており調べるにも限界がありました。耐久性30年という宣伝文句にひかれて選択しましたが、今となってはそんな夢のような塗料があるのかと冷静に考えています。 耐久性とは何を指しているのか……言葉につまずいてばかりですね。


▶ほかにもこんな質問があります。興味のある方はこちらもどうぞ。
屋根の軒の出について
基礎高の決め方について
屋根の勾配、換気について 等

▶▶その他の工法の相談については、こちらをご覧ください。
NPO住宅110番[工法]カテゴリ最新の記事一覧