近代椅子デザインの源流として4つの源となる椅子がある。それは中国明代の椅子、アメリカのシェーカーチェア、ドイツのトーネットの曲木の椅子、そして今回紹介する作品のルーツでもあるイギリスのウィンザーチェアの4タイプの椅子だ。

モダンチェアのルーツとしてのウィンザーチェアであるが、さらにそれを遡ると各地方に育つ身近な樹々を使い、手先の器用な人々によってつくられたカントリーチェアと呼ばれる素朴な椅子に辿り着く。それらは座板に丸棒の脚を差し込み、同様に背や肘も細い丸棒で支えられたものだ。そうした暮らしの中から生まれた素朴な椅子が進化するのは産業革命がきっかけといえる。大都市圏に人口が集中することで一般大衆の家具に対するニーズが高まったのである。ロンドンの北西部に位置していたハイウィッカムでは1875年頃、150を超える工房があり、1日に4700脚ものウィンザーチェアが生産されたほどである。その量産の工程には分業制という特徴があった。

ハイウィッカムでの工程を紹介する。まずボッジャーと呼ばれる職人たちは伐採した丸太を一定の長さに玉切りし、その材を割り、鉈などで荒削りした後、シェービングホースと呼ばれる台にまたがり、固定した材をさらに削り、多面体の円柱状の部材に仕上げる。それらの部材はポールレイスと呼ばれる立木の弾力性を利用した簡易木工挽き物装置や、ペダルを踏んで駆動させることで木を回転させる機械を使い、刃物を当て、整った丸棒に加工したのである。仕上がった部材は屋外で乾燥させた後、次の工程の職人の手に渡るのだ。

一方、ソウヤーと呼ばれる職人たちは2人1組で長いピットソーで丸太を製材し、座板となる部分をつくるのである。それらの部材はボトマーと呼ばれる職人たちによって、座面が尻にフィットするよう曲面に削られる。

次の工程ではベンチマンと呼ばれる職人により座面に脚や背を支える丸棒のためのホゾ穴をあける作業が行われる。この作業はそれぞれの丸棒の角度に合わせた穴でなければならず高度な技術を要す。こうしてつくられたさまざまな部材はフレーマーと呼ばれる職人によってウィンザーチェアとして組み立てられる。

最後にフィニッシャーと呼ばれる職人によってダークな色調に塗装される。これは各部材が異なる樹種のため、色味の違いを目立たせなくするためである。

今回紹介するリキウインザーは日本のプロダクトデザインの草分けであり、生涯現役のデザイナーとして活躍された渡辺力さんの代表作だ。筆者は生前何度かお目にかかったことがあるが、幅広く活躍された方とは思えない謙虚で腰の低い方であった。写真の作品はナラ材にアクセントとして濃い色の材が千切りに使われている。凛とした美しさは和、洋を問わず、それがあるだけで空間に豊かさと緊張感を生み出す名品だ。

リキ ウインザー アームチェアー
リキ ウインザー アームチェアー
リキ ウインザー サイドチェアー
リキ ウインザー サイドチェアー
リキ ロッカー(ウインザータイプのロッキングチェアー)
リキ ロッカー(ウインザータイプのロッキングチェアー)

■リキ ウインザー
メーカー:カンディハウス
樹種・塗装:ナラ(座板無垢材)・NF/WNF/DBR/GY/DGY
サイズ:アームチェアー(アームチェアー H)/巾630×奥575×高910(940)㎜、座高420㎜(450)、肘高620(650)㎜
    サイドチェアー(サイドチェアー H)/巾605×奥575×高910(940)㎜、座高420㎜(450)、肘高620(650)㎜
重量:アームチェアー(アームチェアー H)/6.5㎏
   サイドチェアー(サイドチェアー H)/6.0㎏
価格:アームチェアー(アームチェアー H)/87,500円(税別)
   サイドチェアー(サイドチェアー H)/71,500円(税別)

<問い合わせ先>
カンディハウス
https://www.condehouse.co.jp