基礎断熱と床下暖房

北海道・東北などの寒冷地では、住宅の断熱で床には断熱材を施工しないで、基礎の外周に断熱材を施工することが一般的になりました。床下の土の断熱性はあまり高くはないのですが、熱の逃げる経路の長さが大きく、いわば厚い断熱材のようなもので、基礎の外周だけの断熱で十分という考え方からで、この工法を提唱したのは北海道大学の荒谷 登先生でした。今から40年も前のことです。

荒谷先生もいろいろな建物で実証されましたが、私も室蘭の実験住宅に取り入れてみました。寒冷地住宅に取り組み始めた初期の頃で、木造住宅としては初めてのことでした。当時いろいろと話題になり、多くの人が見学に訪れました。秋田の建築家・西方里見君たちのグループもバスを仕立ててやってきました。彼らといろいろな話をする中で、基礎断熱住宅は床の表面温度が床断熱に比べて1~2℃低くなる欠点があるということを話しました。

彼らは、秋田に帰ってから基礎断熱住宅を試みました。私の話した床表面温度の問題を改善すべく、なんと灯油FFストーブを、半分床下に埋め込むような形で設置し、ストーブの温風を床下に吹き出すようにしたのです。床にはガラリを5~6ヵ所設け、室内と床下を空気が循環するようにします。

これが思いのほかうまくいって、とても快適な暖房になりました。ストーブのファンはそれほど強力ではないのですが、基礎などの障害物がなければ、意外に遠くまで温風が流れていくことが分かりました。床もほんのり暖かく素足でも過ごせるのです。ただ、ストーブを床下に半分落とし込んで設置するには、火災の危険を避けるため、床の穴を十分大きくする必要があり、またストーブの燃焼状況を確認しにくいなどの懸念もありました。

それから、私たちはこの方式の改良に取り組み始めました。この方式の利点は2つあります。
 
①ストーブ1台で全室暖房が快適に実現できること
温水ボイラーと暖房パネルによる方式に比べてはるかに安く実現できます。特に本州以南では温水暖房の費用は高額でした。
 
②床暖房に比べて床表面温度を低く抑えながら室温を快適な温度に確保できること
床暖房では室温を20℃に保とうとすると床表面温度を30℃ぐらいにする必要があり、床に直接座ったり寝そべったりする日本の生活には、高すぎる温度で不快でした。
 
図1が、①の方式の考え方を示します。

図1 FFストーブによる床下暖房
30年前に始まったFFストーブによる床下暖房を改良した案であるが、FFストーブのファンは風量が小さいため補強ファンが必要になり、設置方法も消防法などの規定があり難しい

①FFストーブ、温水ボイラーなどの熱源器 ②自然ガラリ ③ファン付きガラリ ④遮熱板 ⑤温風ダクト

住宅が吹き抜けなどを持ち、開放的なプランのときは上図のように1階床下暖房だけで全室暖房が実現できます。普通の1階と2階が仕切られたプランでは、間仕切り壁の中などを利用し2階の床下にも温風が上昇するようにします。この方式は、FFストーブのファンが弱く、大きなFFストーブでは良かったのですが、最近の高性能な住宅ではFFストーブも小さくなり、補助ファンが必要になったり、柱状基礎にして温風が流れる経路の邪魔にならないようにしたりするなどいろいろ設置上の問題が生じました。

温水による床下暖房と
温暖地におけるエアコン 床下暖房の始まり

結局、寒冷地では温水ボイラーによる方法が良いということになり、床下に設置する対流型のローコストな放熱器を開発しました。温水放熱器を複数台設置することが可能になり、窓下の床に細長いガラリを設け、その真下に放熱器を設置します。窓付近で室内に温風を上昇させることにより窓からのダウンドラフトを防ぎ、そして、階段下などを利用して床下にリターンする仕組みにしました。

図2にこの方法を図解します。

図2 床下温水放熱器による温水床下暖房
図1のFFストーブから、床下設置専用の温水放熱器を開発し、温水床下暖房システムを組んだ。温水パネル暖房より床表面温度が高くなり快適性が高く、北海道・東北で広く普及した

①FFストーブ、温水ボイラーなどの熱源器 ②自然ガラリ ⑥リターンガラリ

温水なので、簡単に2階の床下にも設置でき、一般的な温水パネルを室内に設置する方法に比べて、床表面温度が高くなり快適性も増し、掃き出し窓の前にも放熱器を設置する必要がなくなり、デザイン的にも向上したようです。

北海道や東北地方では、温水暖房の工事費も安くなり、住宅の高性能化によるボイラーや放熱パネルの容量も小さく済み、坪2万円以下で済むようになり、かなり普及したようです。

しかし、高断熱住宅が南の方に普及し始めると、温水暖房が普及していないためかコストが2倍にもなり、またFFストーブもそれほど知られていないことから、暖房はエアコンで行う住宅がほとんどでした。壁掛けエアコンで暖房すると、常にかなり強めな風が流れ、乾燥感の強い暖房になります。設定温度に近くなるとエアコンから流れる風は室温に近くなり、設定温度になっても風は止まりません。この風が人間に当たると、当然とても寒い思いをしてしまいます。こうしたエアコン暖房の不快さを避けようと、エアコンを使った床下暖房を試みる人が増えてきました。