事の発端は、東京大学准教授の前真之さんからリプランに届いた一通のメール

東京大学准教授の前真之さんが行う授業風景
東京大学准教授の前真之さんが行う授業風景

「前です。急なお願いをいたしまして恐縮です。先日の授業の中で、北海道のエネルギーについて考えて提案する、というレポート課題を行わせました。事前に私の方で北海道の事情と、日本のエネルギーの資料は説明しています。ご多忙のおり恐縮ですが、次回の授業中にWEB会議で、以下についてコメントと質疑をお願いできませんか?」

    • 先の停電におけるご体験
    • 北海道のエネルギーに関するお考え(特にこれからの冬について)
    • レポートへのご感想(良いと思うのを3~5つ選んで)
    • 学生の質問へのご対応 3~5名

    前さんは、住宅の温熱環境の研究者として全国的にも注目されている、住宅建築業界(?)では言わずと知れた方で、Replan北海道と東北の誌面や、ReplanWebマガジンで連載中の「いごこちの科学 NEXTハウス」著者として、リプランでも大変お世話になっている方です。

    北海道胆振東部地震が起こった後ということで関心の高まっているテーマについて、さっそく授業で学生を交えて議論していたそうで、その締めくくりとして、リプラン編集長の三木奎吾と、高性能住宅を手がける札幌の建築家・山本亜耕さんに、件の依頼が飛び込んできたという経緯です。

    再度事前に資料に目を通してWEB会議に備える三木奎吾・リプラン編集長と北海道の建築家・山本亜耕さん
    時間が限られる中で、再度事前に資料に目を通してWEB会議に備える

    1週間も満たない期間で学生のレポート約50人分に目を通し、慌てて(!?)挑んだこのWEB会議。その顛末をご紹介します。

    東大の授業にWEB中継でいざ参戦!

    授業の後半になって前さんから呼び出しが入り、北海道と東京を繋ぐWEB会議がいよいよスタート。東大生がずらりと並ぶ教室のスクリーンに、三木編集長と山本亜耕さんの姿が映し出されました。

    東大の授業にWEB中継で参戦する三木編集長と山本亜耕さん
    東大の授業にWEB中継で参戦する三木編集長と山本亜耕さん

    この学生さんたちは「建築環境デザイン論」を受講する皆さん。出されたレポートの課題は「北海道のエネルギーについて考える」ということで、事前に共有されたそのレポートを手元に置きつつ、まずは三木編集長と山本亜耕さんがそれぞれ自己紹介と被災時の状況などを語ります。

    丸2日間電気が使えなかったこと、夜の不安、やむなく仕事ができなかったこと、電気の大切さ、冬に起きた場合の備えの重要性などを伝え、質疑応答がはじまりました。

    これだけ大勢を相手にしたWEB会議にやや興奮気味の2人
    これだけ大勢を相手にしたWEB会議にやや興奮気味の2人

    トップバッターは前さん自ら、「震災の後、北海道のエネルギーに関する話題としてどういう議論が行われてるか?」という質問。

    それに対しては、「オール電化は意外と使えるという改めての認識でした。給湯に関しては温水器に水のストックができるし、太陽光発電(PV)からは100V電源が取れて通信機器を可動できるから、オール電化+PVはいいねという実感がありました。今後の備えとしては、灯油やガスを熱源とする機器の初期電源やボイラーを起動制御するために使える、PVや蓄電池のキットやシステムがあるといいねという意見も私の周囲でありました」と山本亜耕さん。

    また、三木編集長と山本さんが選んだ学生レポートにはキャッチコピーが付けられていて、「北海道で生き抜く」「エネルギーの自給自足を目指しましょう」「当面は原発を再稼働するべき」といった興味深いコメントも見られました。

    東大生50人から寄せられた「北海道のエネルギーを考える」レポートの一部
    50人から寄せられた「北海道のエネルギーを考える」レポートの一部

    「すごく真剣に検討がなされていて、どれも読み応えのあるレポートでした。『エネルギーの自給自足』などの意見がありましたが、私もその方向で何かできることはないかと考えていたところです。停電が冬に起これば命の危険を感じるし、エネルギーのコストが高騰すれば生活を圧迫します。電力の北海道と本州との連携融通などは簡単ではないし時間のかかる問題です。だけど、こうしたリスクをケアしながら実質的な解決方法を考えることが大切という意見もあり、私も純粋にエネルギー問題としての議論をしたいと感じていますから、このようなレポートはメディアをつくっていく側の私たちにとっても参考になります」と、三木編集長もこのWEB会議の意義を感じているようでした。

    東京にいながら考える、北海道のこれから。

    最後に行われた学生さんを交えた質疑応答では、「北海道の人たちはムダにエネルギーを使っているという意見もあるが、それは本当ですか?」といった素朴な疑問から、「広さを活かして、地域ごとに再生可能エネルギーを分散できないのか?」という突っ込んだ質問や、「なんで厳しい環境の北海道に住んでいるのか?」という根源的な質問までが飛び交う刺激的な時間に。その一部をご紹介します。

    東大生からの質問に真剣に耳を傾ける三木編集長と山本亜耕さん
    学生の質問に真剣に耳を傾ける三木編集長と山本亜耕さん
    北海道人は省エネじゃない?

     Q:前回の授業で北海道の省エネや暖房について知りました(蓄熱暖房の話とか)。北海道の人たちの暮らしぶりは省エネルギーを考えてるとは言い難いという意見もあるようですが、それは本当ですか?

     A:北海道の電気消費量の数字を見たりすると、冬場、湯水のように電気を使うのが不思議に感じるんじゃないかと思います。けれど、「家全体を快適な室温にしたい」と考える北海道や東北(寒冷地)と、「使う部屋だけ温める」という他の日本のほとんどのエリア(温暖地)とは、そもそも暖房に対する概念が違うんです。室内環境や健康のことを考えるのであれば、本来は本州(温暖地)ももっと暖房エネルギーが必要なはずなのに、その基準が設けられていないのが現状です。

    なんで北海道に住み続けるの?

     Q:気候も含め、他にもっと楽に住めるところはあるはずなのに、なんで厳しい環境の北海道にわざわざ住んでいるんですか?

     A:北海道は本州からの開拓民の移住にはじまり、もう150年。現在560万人くらいが暮らす土地です。今や3世、4世がこの土地に根ざしていて、もはやネイティブな北海道民の世代です。北海道独立論は昔からありますが、北海道を放棄するのか維持するのかといった、そこまでの話にしたくないというのが本音。北海道に生まれた人間として、北海道を良くするために時間を費やしたいと思っています。

    「リプラン×東大 WEB会議」を終えて

    このWEB会議を終えて、前さんからも「ダイレクトなお話をいただき、学生ともども大変勉強になりました。本当は世の中に中継したいと思いました…」と、喜びの声もいただき、第1回「リプラン×東大 WEB会議」(勝手に命名)は無事終了となりました。

    ある意味で東京と北海道を繋いだこのWEB会議。今後のReplanWebマガジンや、Replan誌面でも何かできないかと考えさせられた良い機会となりました。

    (文/Replan編集部)