寒冷地住宅の屋根デザインはどう変わったか

屋根の形は、住宅の外観デザインの大きな要素です。M型無落雪屋根の住宅は、その構成から格好が良いとはいえませんでした。写真2~5は、20年ほど前の写真です。写真2は典型的な鉢巻型。軒の出は深くしたり浅くしたり、この鉢巻の幅もいろいろあります、赤や青の鉢巻は一つの典型でとても格好良いとはいえません。写真3はプレファブメーカーのユニット住宅で比較的落ち着いたデザインになっています。

写真2 鉢巻デザインのM型無落雪屋根
写真2 鉢巻デザインのM型無落雪屋根
写真3 プレハブ住宅の無落雪屋根写
写真3 プレハブ住宅の無落雪屋根写

写真4は、鉢巻を勾配屋根状につくり、デザインを整えています。これなら、あまり無落雪っぽくありません。写真5は、外壁を一番上部まで伸ばしパラペットをつくる方法です。昔は、このパラペット上部に飾りを付けたものが多かったのですが、最近は簡素な雨押えだけにすることが多いようです。しかし、こうすると、2階窓から上の外壁の高さが高くなり、間延びした外観になってしまいます。窓への日除けもなく、夏とても暑くなるデザインです。

写真4 鉢巻に勾配を持たせた勾配屋根風無落雪屋根
写真4 鉢巻に勾配を持たせた勾配屋根風無落雪屋根
写真5 シンプルなM型無落雪屋根
写真5 シンプルなM型無落雪屋根

写真6は、十数年前の札幌に建った、有名建築家の設計した住宅です。私もこれほど大きなツララは久しぶりだったのですが、現地調査もして、裁判所が出した調停案が軒先部にヒーターを設置することで、工事費は工務店が負担するとしても、一生電気代を負担することになる施主からの相談があったのです。このツララの原因は、壁上部に気流止めがなく、屋根面の下に暖かい空気が流れ込んでいることが理由だと、私たちにはすぐに分かりました。高断熱工法も随分普及してきましたから、最近はこうしたことは起こらないだろうと思っていますが、どうでしょうか。

写真6 雪止め付き屋根で断熱欠陥により巨大なツララが生じた欠陥例
写真6 雪止め付き屋根で断熱欠陥により巨大なツララが生じた欠陥例

屋根の形は、普通の3~5寸勾配ぐらいの切妻屋根が、やはり住宅のデザインとしても落ち着くと私も思います。一方でフラットルーフにも魅力を感じていて、特にローコスト住宅では有効だと感じています。

写真7・8は数年前に建てられた室蘭の実験住宅、私が関わった最後の実験住宅でもあります。いろいろな新しい試みも交えながら、屋根はフラットルーフにしました。フラットルーフといっても若干の勾配は必要で、それを納めるために、母屋の高さを調節して、垂木をしならせて、曲面屋根として最上部の鉄板の継ぎ手をなくしています。総2階建て住宅でそれほど格好が良いとは私も思いませんが、コストセーブには成功しています。

写真7・8 曲面フラットルーフの室蘭実験住宅
写真7・8 曲面フラットルーフの室蘭実験住宅

写真9~12は、最近のリプランに掲載された住宅の写真からとったものです。写真9・10はゆったりした平屋で、庇を長く取った水平線を強調したデザインで平屋ならではと感じました。写真11・12は同じ建築家が設計した3階建て住宅で、屋根を平らに、キュービックな形がとてもモダンです。

写真9・10 屋根の上にもう一段、屋根を加えた2段ルーフの屋根(設計:名古屋英紀、Replan北海道vol.122掲載)
写真9・10 屋根の上にもう一段、屋根を加えた2段ルーフの屋根(設計:名古屋英紀、Replan北海道vol.122掲載)

写真11・12 はみ出ないフラットルーフの屋根。開口部をくぼませることで庇 の役割になる(設計:名古屋英紀、Replan北海道vol.117掲載)
写真11・12 はみ出ないフラットルーフの屋根。開口部をくぼませることで庇 の役割になる(設計:名古屋英紀、Replan北海道vol.117掲載)

M型無落雪屋根のような、事故の多い中途半端な技術ではなく、しっかりした裏付けのある技術、工法はすでにでき上がっています。デザイナー諸君の感性で新しい、これからの寒冷地住宅デザインを開発してほしいものだと思っています。