効果的に涼しさを得る方法は?

これまで、代謝熱を減らし、放熱を増やす方法をいくつか見てきました。それではどの方法が効果的なのでしょうか?図9に、各種の対策をした場合の、放熱の内訳と温熱快適性指標PMVの変化を示しました。なお放熱の内訳は、PMVとは別のより詳細な快適性指標SET*の2ノードモデルから計算しました。

まず夏の一般的な条件として、活動量1.0met、着衣量0.5clo、風速0.1m/s、空気・放射温度28℃、空気湿度70%を想定しました。この状態ではPMVは0.92でやや暑く、不満者率PPDは22.7%で2割以上の人が不満を持つ環境です。

<b>図9 涼しさに効果的な対策は?</b><br /> PMVの値が0.5以下になれば、まず快適です。放熱量の内訳は、ET*の2Node modelから算出しています。「a.代謝量」「b.着衣量」「c.風速」「d.空気放射温度」「e.湿度」の各条件を変えた場合のグラフを以下に示します。
図9 涼しさに効果的な対策は?
PMVの値が0.5以下になれば、まず快適です。放熱量の内訳は、ET*の2Node modelから算出しています。「a.代謝量」「b.着衣量」「c.風速」「d.空気放射温度」「e.湿度」の各条件を変えた場合のグラフを以下に示します。

この環境を、涼しくする方法を考えます。代謝量・着衣量・風速・空気放射温度・湿度の1つだけ、条件を変えた結果をそれぞれグラフに示しました。PMVはプラス0.5を下回っていれば不満者率PPDは10%以下となるので、まずは十分に涼しいといえます。

代謝量のグラフからは、代謝量(met)が増加すると急激に発汗放熱が増えることが分かります。活発に行動するときは、発汗が不可欠なのです。逆に休憩したり昼寝をしたりして活動量を抑えることができれば、発汗なしに十分に涼しくなるのです。

<b>図9-a 活動量を減らす</b>
図9-a 活動量を減らす

着衣量のグラフからは、着衣を減らすと対流・放射の放熱が増加しPMVが低下する(涼しくなる)ことが分かります。着衣は個人ですばやく調整でき、自宅では服装に気を遣わずにすむので、おススメの対策です。

図9-b 着衣を減らす

風速のグラフからは、風速を上げると対流放熱が増加し、PMVが低下することが分かります。ただあまり風速を上げても効果は頭打ちで、強すぎる風は不快や不便の原因になりますから、あくまで補助的な調整手段と考えるべきでしょう。

<b>図9-c 風を利用</b>
図9-c 風を利用

空気・放射温度のグラフを見ると、温度を下げると急激に対流・放射の放熱が増加し、PMVも大きく減少することが分かります。PMV低下の勾配は、他の対策よりもずっと大きく、「効きがよい」ことを表しています。

<b>図9-d 空気温度を下げる</b><br /> つられて放射温度も下がる(湿度は全て70%)
図9-d 空気温度を下げる
つられて放射温度も下がる(湿度は全て70%)

断熱がしっかりした住戸では自然と空気温度は放射温度に近くなり、また必要な熱負荷も少なくて済みます。やはり、単純に空気温度(≒放射温度)を下げるエアコン冷房は、人体放熱の改善に最も効果的なことは明らかです。

最後は空気の湿度を変更した場合です。湿度が低下することで、発汗放熱が不感蒸泄に変化していることが分かります。皮膚が乾き快適性は向上しているのですが、残念ながらPMVの減少は他の対策に比べてもかなり小さくなっています。省エネの面からも、除湿には大きな熱負荷(潜熱)が発生するため非常に不利となります。

<b>図9-e 湿度を下げる</b><br /> (空気温度は全て28℃)
図9-e 湿度を下げる
(空気温度は全て28℃)

部屋全体を適度に整えて後は個人で調整を!

図9の分析を通して、人体の放熱内訳と、効果的に快適性を得る方法が見えてきました。最後に、筆者のおススメの方法をまとめておきましょう。

暑い夏の昼間は、日射遮蔽を徹底した上で、とりあえずエアコンを動かします。ただし冷やしすぎると寒く感じる人も出てくるので、なるべく高めの28℃くらいでよいでしょう。実測ではこれより高温の家も多く見られますが、やはり熱中症が怖いので、28℃は維持したいところです。建物外皮の断熱がしっかりしていれば、放射温度も自然に空気温度に近くなります。なお、除湿は涼しさへの効果が小さい割に熱負荷が大きいので、湿気が気にならない場合はなるべく使わない方がベターです。

こうして健康上問題なく、かつ誰も寒さを感じない室内の空気・放射環境を確保した上で、後は個人の着衣や風利用で対応します。最近は涼しい肌触りをアピールした下着も増えていますし、扇風機も風量の微妙な調整が可能なコードレスタイプも出ています。着衣や風は個人で好きに調整できて、かつすぐに効果が得られ、なによりエネルギーをほとんど必要としません。

後はなるべくリラックスして、代謝量を減らすことです。テレビは内部発熱を増やしますから、なるべく本などを読んで優雅に過ごしたいものですね。

今回は11回目に続いて、冷房の涼しさをもう一度取り上げました。暑い夏を少ないエネルギー消費で、家族全員が快適に過ごせる方法について、人間の熱バランスから考えてみました。皆さんも環境物理の基本を知った上で、快適な過ごし方を考えてみてくださいね。

 


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※次回のテーマは<冬の乾燥感>です。

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