私たち人類は、現在、地球2個分の資源を使っていると言われていて、その多くは先進国や新興国で消費されている。あらゆる物は地球の何らかの物質を使って生み出されており、それらはいずれ廃棄されてしまう。その際、有機物(動物や植物に由来する物質で、炭素を含む化合物)のようにやがて土に還元されるものは地球環境にとって害を及ぼすことは少ない。しかし、太古の昔に植物であったものが変化し石油となり、それを化学的に変化させた多くのプラスチック素材は、そのままでは土に還元されることはなく、自然界において環境や生態系に大きな問題を引き起こしている。

プラスチックはさまざまな産業で使われており、今やプラスチック素材が無い世の中など考えられない程である。安価なため、包装資材として大量に使われ、そして廃棄される。自動車の部品のように100パーセント近くが再処理され新たな部品になる例や、ペットボトルや食品用の発泡スチレンの皿など、分別回収され、再び資源として利用されることも多くなっている。

しかし、まだまだ日本ではその回収率は低いのが現実だ。交差点脇の草むらや、北海道など雪の多い地方では、春の雪融け後の道路脇には夥しい数のコンビニエンスストアの弁当容器や空き缶、ペットボトル類が姿を現す。ドイツや北欧ではこうした光景は見られない。それは瓶や缶、ペットボトルなどにデポジット制度が取り入れられているためだ。

商品としての飲料水やビール、ワインなどに予め容器代を含めた価格で販売し、それらを購入した人は空の容器を決められた場所や専用の回収機に入れると、容器代が返却される制度だ。日本でも一升瓶やビール瓶を購入した酒店に持っていくとその代金を返却してくれたが、最近はあまり見かけない。日本でデポジット制度が普及しないのは、容器代を明記すると商品価格が高いと感じられ、売り上げに影響を及ぼすと考えられているためだ。

今回紹介するノーボディチェアは、ペットボトルなどの廃棄プラスチックをリサイクルしたものである。この椅子の表面のテクスチャーを見ると、自動車のトランクスペースの内装材と同じことに気付く。プラスチック特有のツルっとした感触ではなく、化学的素材でありながら、暖かみが感じられる質感である。強度が求められる部分には曲面を持たせ、椅子としての強度を担保している。また、一体成形で抜き型にも配慮し、大量生産を可能にしており、積み重ねもできる極めて優れた椅子である。無名性をその商品名としているが、その意図は日本の世界的ブランド、無印良品を連想してしまう。

この作品が30年程も前にデザインされていたことに驚く。環境意識の高い国だからこそ生まれたデザインと言えよう。低価格ではあるが、チープさは微塵も感じられない作品だ。

■NOBODY(ノーボディ)※参考商品
メーカー:HAY(ヘイ)
サイズ:W580 × D710 × H780㎜
素材:PETフェルト

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CIBONE(シボネ)
https://www.cibone.com