暖冷房エネルギー計算の仕組み

その面倒な暖冷房エネルギーの計算の仕組みを、図2で解説します。暖冷房エネルギーを計算するには、複雑なコンピュータープログラムを使って、刻々と変化する温度条件を加味し、細かく熱の移動を数値計算する方法と、大ざっぱに平均的な温度条件などを使って計算する方法があります。前者は、プログラムだけでも100万円ほどします。コンピューターにデータ入力するだけでも大変で、高性能なノートパソコンを使っても、1回の計算に30~60分もかかります。建築設計の中で行うのは難しいことです。しかし後者ならそれほどでもなく、簡単なプログラムでデータ入力も1時間もあれば可能で、結果は即座に得られます。

図2 暖房時・冷房時の熱収支と暖冷房エネルギーの計算

図のQは、内外温度差1℃の時の各部位を移動する熱量を示します。Q部位=部位の熱貫流率×部位の面積

換気だけは次の式になります。Q換気=0.35×住宅の気積×換気回数

移動する熱量は全部で Q全部=Q天井+Q外壁+Q床+Q開口部+Q換気となり、これに内外温度差を掛けたものが暖房時は家から逃げていく熱、冷房時は外から入ってくる熱です。 また、E室内は居住者が生活で出す熱で、人間の発熱、電気ガス消費等です。E日射は窓から入る太陽熱です。H暖房は暖房熱です。

暖房時は、逃げる熱と暖める熱が同じなら室温が保たれますから、 Q全部=H暖房+E日射+E室内となります。したがって室温を保つためには、暖房器で補う必要があります。H暖房=Q全部 ー(E日射+E室内)…①となります。 この計算を冬の暖房期間で計算したものが、その住宅の暖房エネルギーです。

このことから、暖房エネルギーを減らすには、
1.断熱材を厚く施工してQを小さくする
2.換気の熱回収をする
3.日射熱を増やす(陽当たりの良い南の窓を大きくする)
の3つの手法が考えられます。

暖房エネルギーの計算は、上の図のように考えると分かりやすく、図のように住宅の熱損失はQ全部に内外温度差を掛けたものになります。これからE室内E日射を引いた残りが暖房で必要になる熱量です。内外温度差(この場合は20℃を想定)のうち、E室内E日射による温度分を自然温度差と呼びます。即ち、暖房しなくてもこの分だけ住宅内の温度が上昇します。残りが暖房エネルギーです。

Q全部を小さくすると、E室内は変わりません。E日射は、Q開口部を小さくするとガラスの日射侵入率が悪くなり、若干減りますが、10~20%程度です。従って、例えばこの図でQ全部を半分にすると、暖房熱は1/4程度になってしまうのです。

冷房時は、室内を暖める熱とエアコンで冷やす熱が同じなら室温が保たれますから、H冷房=Q全部+E日射+E室内となります。暖房時とは逆にE日射E室内は冷房負荷を増やします。このほかに冷房時は室内の空気と換気による外気の水蒸気潜熱負荷も加わります。

このことから、冷房エネルギーを減らすには、
1.断熱材を厚く施工してQを小さくする
2.換気の冷熱回収をする
3.日射熱を減らす(東西の窓を減らす。陽除けをする)
4.室内の発熱量を抑える
の4つの手法が考えられます。

結論は、暖房エネルギーは式①で、冷房エネルギーは式②で計算します。計算に使う気象データは、冷暖房負荷計算用に用意されたアメダス標準気象データです。全国800地点余りのアメダスデータから1時間ごとのデータとしてまとめられています。このデータをある程度まとめて、1日の平均データとして使います。実際にこの計算結果と実測値を比べてみると±10%ぐらいで合うようです。

重要な点は、計算に使われている式はQ値に関係する数値で、UA値はどこにも出てきません。暖冷房エネルギーを左右するのは、Q値とそれに含まれる換気の熱損失で熱交換をするかどうか、そして、住宅に取り込まれる開口部からの日射量などです。

平成25年の省エネ基準改定で、省エネ基準適合を判定する基準値が、Q値からUA値に変更されました。それぞれは次のように計算されます。
Q値=Q全部÷床面積
UA値=(Q全部ーQ換気)÷外皮(床・壁・天井・窓)の面積
床面積当たりの数値から、外皮面積当たりの数値に変更されたのです。 これにより、UA値で住宅の省エネ性能を評価することの問題点が生じます。