省エネ基準の適合判定基準として何を使えばいいか

国の基準として暖冷房エネルギーを直接計算することは、今のままでは難しい点があります。しかしUA値のままでいいのでしょうか。もう少しUA値やQ値について検討してみましょう。後ほど説明しますが、暖房エネルギーはその住宅が取り込む日射量が変動要因となりますが、Q値との相関がとても高いのです。

そのQ値とUA値の関係は、図1の右に書いているような式になります。床面積当たりの外皮面積をPとすると、Q値はUA値にPを掛けて、換気の熱損失を加えたものになります。したがって熱交換換気を採用するなどして換気の熱損失が小さくなれば、Q値も小さくなり、暖房エネルギーが小さくなることになります。別ないい方をすれば、UA値がとても小さくても、設計でPが大きくなったり、また、換気の方法によっては思ったほど暖房エネルギーは小さくならないのです。

図1 平屋建てと総2階建ての住宅での床面積当たりの外皮面積
図1 平屋建てと総2階建ての住宅での床面積当たりの外皮面積

やはり私は、省エネ基準適合判定はQ値で行う方がいいと思います。大きな住宅で評価が甘くなるのが不適当なら、何らかの係数を掛けて住宅の大きさに対する補正を行えば済むことです。換気については別項目として、UA値と同じようにQ値の計算から除けばいいと思います。

UA値で問題となったもう1つの事例

数年前、北関東の新住協の工務店から、省エネ基準の住宅だがとても寒いという相談が来ました。調べたら、なんと外壁の断熱材がスタイロ系のボード状断熱材25㎜厚の外張り工法だったといいます。省エネ基準のみなし仕様では50㎜必要ですが、この住宅はUA値計算では省エネ基準をクリアしていました。その代わり、開口部に断熱サッシを採用していたのです。

北関東の5地域は、開口部はアルミサッシにペアガラスという構成でいいのですが、断熱サッシが安くなりこれにArLoWーE16㎜ペアガラスを入れれば、開口部の熱損失は半分以下になります。5地域ではUA値の基準値の60%ほどが開口部ですから、これでUA値が30%ほどに小さくなるのです。これなら外壁の熱損失が2倍になっても省エネ基準は通るわけです。このおかげで、外壁の室内表面温度が下がり、寒い家になってしまったのです。

省エネ基準のみなし仕様

このようにUA値の計算で、省エネ基準の適合判定する方法とは別に、各部の断熱の厚さだけで基準を設け、この厚さ以上なら省エネ基準適合とみなすという方法もあります。これを省エネ基準のみなし仕様と呼んでいます。図3にこのみなし仕様を示します。普通は断熱材のR値で仕様書に記載されていますので、HGW16㎏/㎥の厚さも示しておきます。この厚さで構成された120㎡のモデル住宅のUA値を計算したものが図4です。部位別の内訳も示します。

図3 省エネ基準適合判定のための各部の断熱性能のみなし仕様
図3 省エネ基準適合判定のための各部の断熱性能のみなし仕様
図4 断熱みなし仕様によるモデルプランの部位別UA値
図4 断熱みなし仕様によるモデルプランの部位別UA値

これを見ると、標準的なUA値の構成は、1〜2地域と3地域では天井と外壁の断熱の厚さが異なるだけです。4地域では、床、基礎と開口部が緩和されています。そして、5~7地域ではさらに開口部が緩和されているというとてもシンプルな構成になっていることがわかります。各部の断熱の厚さは、とてもバランスよく設定されています。

開口部のガラスが近年急速に進化して、高性能なガラスを採用すれば開口部のUA値は大幅にカットできます。その分を外壁やそのほかの断熱の厚さを減らすことに向けてはいけません。このみなし仕様の断熱材の厚さを守って、開口部のガラスを強化すれば、今の不十分な省エネ基準を簡単に強化できます。そして熱交換換気を採用すれば、ほとんどQ1.0住宅に近い性能になるのです。UA値だけを見るのではなく、このみなし仕様に準じた断熱の厚さになっているかもチェックしていただきたいと思います。

私は、現行のUA値の基準は、躯体の断熱と開口部を分けて規定した方がいいのではと思っています。