平成25年から始まった
住宅の全消費エネルギー計算

私たち新住協では、家を建てるにはQ1.0住宅のレベル3で家を建てることをお勧めしています。将来のゼロエネルギーを目指すにも、最もコストバランスの良い性能レベルだと考えているからです。このレベルで、省エネ基準住宅に比べて、全室暖冷房で暖房エネルギーを25%(1/4以下)に削減することができます。

冷房エネルギーは、寒冷地では日射遮蔽や通風を考慮した設計でほとんどゼロにできますし、西日本のような猛暑地域でもエアコン1〜2台でローコストに全室冷房が可能になります。もちろん、その他のいろいろな設備は、高効率の設備を使うことで省エネが可能になると考えていました。

平成25年の省エネ基準改定で、住宅の性能を主としてUA値で規定するように改訂されると同時に、その他の設備による消費エネルギー計算を行い一定の基準値以下にすることが必要になりました。これは高効率の暖冷房設備の普及を図ると同時に、LED照明や高効率家電などを普及させようという配慮だと私たちは考えました。

この計算を行うために、WEB上のプログラムとして「エネルギー消費性能計算プログラム」が公開され、住宅の床面積や建設地の地域区分、UA値、日射熱取得率などを入力したあと、暖冷房方式やその設備、その他の設備に関する事項を入力したり選択したりすることにより、その住宅の全消費エネルギーを計算する仕組みです。

この入力項目については、この連載の第25回「脱炭素社会に向けて日本の省エネ基準はどこへ向かう?」に表1・2として掲載しています。そして、この省エネ基準の問題点についても、私の考え方を詳しく述べていますので、ぜひご参照ください。ここでは実際の計算結果を基に解説していきたいと思います。

2地域「岩見沢」での住宅全消費エネルギー

図1~3が2地域「岩見沢」での消費エネルギーの計算結果です。なぜ岩見沢かというと、2地域を選択するとその代表地点が岩見沢で、ここの気象データが適用されることになっています。暖冷房エネルギーと給湯エネルギー計算時の給水温度に適用され、2地域ではどこに建設されようが同じ値になるようです。随分乱暴な話ですが、札幌でも同じ値になるのです。QPEXでは地点ごとに気象データが用意されていますから、年ごとに違う値になります。

<暖房>WEB:エアコンによるダクト式セントラル連続全室暖房/QPEX:ヒートポンプによる24H連続全室暖房(効率2.0)
<冷房>WEB:ダクト式セントラル連続全室冷房/QPEX:冷房必須期間全室冷房(効率4.0) 通風条件~温度自動開閉制御 日射遮蔽:レースカーテンのみ
図1 WEBプログラムとQPEXによる全室暖冷房時の暖冷房消費エネルギー(2地域:岩見沢)
◇一般設備仕様 ◆換気:第3種交流モーター ◆給湯ボイラー:エコキュート効率3.0 配管:先分岐方式/水栓:2バルブ以外/一般型浴槽 ◆照明:白熱灯なし
◇省エネ設備仕様 ◆換気:第3種交流モーター ◆給湯ボイラー:エコキュート効率3.0 配管:ヘッダー方式/水栓:手元止水や水優先機能水栓採用/高断熱浴槽 ◆照明:多灯分散照明や人感センサー
□第3種換気+省エネ ◆換気:第3種直流モーター<日本住環境(株)ルフロ使用> ◆給湯ボイラー・照明は省エネ設備仕様と同じ
□熱交換換気+省エネ ◆換気:パナソニック(株)カセット型熱交換換気(83%)採用<Q1.0住宅には熱交換換気が必須です> ◆給湯ボイラー・照明は省エネ設備仕様と同じ
図2 WEBプログラムによる暖冷房以外の設備による全消費エネルギー(2地域:岩見沢)
図3 全室暖冷房時の住宅の全消費エネルギー(図2と図3の合計)と創エネルギー(2地域:岩見沢)

図1は暖冷房のエネルギー、図2はその他の設備によるエネルギー消費量を示し、図3はそれを足し合わせたグラフになっています。WEBプログラム上では、全室暖冷房はダクトエアコンによる方式しか選択できませんから、すべて電気による計算結果です。実際には、ヒートポンプボイラーによる温水暖房、またはエアコンによる全室暖冷房となります。単位がGJ(ギガジュール)となっていますが、1GJ=278kWhで、灯油では効率85%のボイラーで1GJ=32ℓに相当します。

図1の暖冷房エネルギーでは、WEBプログラムで計算すると、省エネ基準住宅は、基準値より若干小さく、Q1.0住宅レベル1で省エネ基準住宅の61%、レベル3で51%になります。Q1.0住宅レベル1は55%、レベル3は35%と定義していますから、これよりだいぶ大きい値です。

QPEXで計算してみると、それぞれ39%、25%となり、はるかに小さくなります。省エネ基準住宅も79%と小さくなりますが、これに対しても49%、32%となっています。QPEXでの計算結果は、実際の住宅での結果とかなり近い値を示しますから、WEBプログラムの暖冷房エネルギーはかなり実際より大きな値になるようです。QPEXの計算結果に冷房がほとんど見えませんが、わずかな値で表示できていません。逆にWEBプログラムの計算結果は明らかに大きすぎます。これは、春夏も窓を閉め切った計算で不要な冷房負荷を計算しているようです。

図2はその他の設備による消費エネルギーですが、内訳は常時換気の換気扇、給湯、照明、調理家電の4つです。このうち給湯が一番大きく、また地域によって給水温度が異なり、寒冷地ほど大きくなります。その次は調理家電、照明、換気の順ですが、調理家電は住宅の面積により家族数が自動的に決まり、地域によらない定数になっています。

冷蔵庫やテレビなどの省エネ製品を採用しても反映されません。照明は基準値では白熱灯の仕様が想定されているようですが、現在のようにLED照明が普及していればとても小さい値になります。換気も直流モーターを採用した機器では小さな値になります。結局、給湯ボイラーの効率が高ければ一番少なくなり、しかもその削減量は10数%にしかならず、暖冷房エネルギーの削減率の方がはるかに大きいことが分かります。

図3に全消費エネルギーを示します。加えて、太陽光発電と太陽熱給湯の創エネルギーも示します。WEBプログラムによる計算では、Q1.0住宅レベル3でも10kWhの太陽光発電を挿入してようやくゼロエネルギーが実現することになりますが、QPEXの計算では5kWhで済むようです。

WEBプログラムでの太陽熱給湯採用による省エネ効果は、図のようにわずかしかありませんが、これも少しおかしいようです。太陽熱給湯は設置勾配で大きく変わるはずですが、WEBプログラムではほとんど変わらず、給湯エネルギーを20%くらいしか削減しないことになりますが、実際は、昔から太陽熱給湯で半減するといわれていました。それは、NEDのデータにも示されていました。それよりも、寒冷地では積雪による冬期の太陽熱給湯発電の低下が問題になります。これを上手に防ぎながら設置すれば、太陽光発電6.5kWhを屋根上に設置することで完全なゼロエネルギー住宅ができることが分かります。