デンマークの「フィン・ユール邸」を訪ねて、見たこと、感じたこと。
フィンランドに半年間滞在していたReplanスタッフがお届けする、北欧の暮らしや建築のこと。
目次
フィンランド滞在時には、デンマークまで足を伸ばしました。そこで参加したのが、北欧デザインの巨匠、フィン・ユールの自邸ツアーです。今回は、そのときの様子をお伝えしたいと思います。

ガイドツアーは平日も予約でいっぱい。
大人気の「フィン・ユール自邸」とは
▼ Finn Juhl’s House(MAP)
家具から建築まで、長きにわたってデンマークデザインを牽引してきたフィン・ユールが自ら設計し暮らした自邸は、コペンハーゲンから北に10km程離れたオードロップ地区にあります。現在はオードロップゴー美術館(Ordrupgaard)の管理のもとで一般公開されており、平日のガイドツアーはほとんど枠がいっぱいになるほどの人気っぷりです。

「内部から設計する」というフィン・ユールの哲学が貫かれているこの建築は、彼と妻のハンネ・ヴィルヘルム・ハンセンが、1942年に建てたL字型(一部2棟構成)の住居です。時は第二次世界大戦の最中。使える資材は限られていましたが、「だからこそ、制約の中で徹底的に自分のデザインを貫く」という意思が室内の随所に感じられます。
住宅の完成後は、フィン・ユールが亡くなる1989年まで、絶え間なくインテリアを追究しながら、居住し続けたそう。2008年に遺族の寄付により美術館の一部となり、2021年に一般公開が開始されました。

フィン・ユール邸の間取りやインテリア
フィン・ユール邸の間取りは、伝統的な間仕切りの少ない「オープンフロアプラン」で、全体的に庭に向けて大きく開いています。室内から庭や次の部屋へと視線が自然に向かう構成が秀逸でした。


この家は、フィン・ユール自身の家具デザインの実験場でもありました。初期のダイニングにはウィンザーチェアを置いていましたが、「Egyptian Chair」が完成するとすぐに入れ替えるなど、内部空間は彼の作品の誕生とともに進化し続けていったそうです。
自邸には、Chieftain Chair(1949)、Poet Sofa(1941)、Silver Table、Chair 48(1948)などが置かれていますが、ほとんどが彼自身のデザインによるもの。機能性と工芸性が融合した作品が日常の暮らしの場に自然に溶け込んでいました。


各部屋には当時のデンマークを代表するVilhelm Lundstrøm、Asger Jorn、Erik Thommesen、Sonja Ferlov Mancobaといった画家や彫刻家たちの作品も飾られています。家具や建築が芸術と調和し、空間それ自体が「総合芸術」として仕上がっているような完成度と美しさでした。


色とりどりのアイテムを調和させる
「フレーム(枠)」としての空間デザイン
フィン・ユール邸のインテリアで、僕が際立っていると感じたのが「色づかい」です。室内を見て回ると、本当に多様な色のアイテムや強い印象を放つアートで彩られているのが分かります。
これだけ個々の要素の主張が強いのにケンカせず、空間が調和して見えるのはなぜなのか?それは、空間自体がシンプルなフレーム(枠)になっているからです。

このフレームをデザインした上で、ユール自身が納得できるアイテムを詰め込んでいるから、彼らしいオリジナリティが表現された価値のある空間になっているのだと思います。時間をかけて、己の理想に近づけていく。思想と探求の積層が、今なお多くの人を魅了している大きな理由だと感じました。
居心地と実用性の両立の精度を
極限まで高めたフィン・ユール

“When I build a house, I don’t like others to come and spoil it.”
「家を建てるときには、他人に台無しにされるのは嫌なんだ」というユールの言葉が象徴するように、自邸は最小のディテールに至るまで計算され尽くされていました。家具のサイズや配置は、居住性と美的体験の両方を兼ね備えるよう意図してデザインされ、周囲の景色や光の入り方、素材感までも計算のうちにあったそうです。その徹底の仕方を現地で目の当たりにし、感動すら覚えるほどでした。
「居心地」をデザインする具体的な要素の考察
見学をしていて、自分なりにこの「居心地の良さ」の具体的な要素を考えてみました。
■光と素材の関係

白く塗られた外壁と開口部から射し込む北欧のやわらかな光。室内の明るさは、壁や家具の色彩や素材によって見事に調整されており、四季の移ろいに対応した居心地の醸成にも配慮されていました。
■温かさと感触

無垢材のフローリング、木製サッシ、レンガ壁など自然由来の素材をふんだんに用いることで、視覚的にも身体的にも温かさを感じさせる空間に。ただ単に機能主義を追い求めるだけではなく、「住まい手がどう感じるか」という人の体感を大切に考えた設計でした。
■美と機能の融合

Chieftain ChairやPoet Sofaといった名作家具は、同時に人がくつろげる道具としての機能性も持ち合わせています。美しい部屋に置かれた、美しい彫刻のような家具が、視覚的にも体感的にも居心地の良い住空間を形づくっていました。
実際に見て、触れて感じた「美しい居心地」
フィン・ユール邸のツアー体験から得られた最大の学びは、「写真や言葉だけでは伝わらない『居心地の良さ』を身体で感じられたこと」です。
足裏で感じる床のやわらかさ、光が壁に落ちる角度、空間がまとう品性…。そういったすべての要素が「ここでしか叶わない『美しい居心地』」をつくり上げているということが実感されました。
光の採り入れ方や自然とのつながり方、機能的で人が使いやすいデザインなど、フィン・ユールの設計思想は、僕が敬愛する建築家の一人であるアルヴァ・アアルトとも多くの共通点があるとも思いました。自分が惹かれるものの根っこは同じなんだな、と気づけたことも新たな発見でした。建築好きな方はぜひ、機会があったら訪問してみてください!
▼こちらの記事も併せてごらんください
2度目のアルヴァ・アアルト自邸探訪で知ったこと、感じたこと。
Related articles関連記事
旧居の記憶が息づく、明るく暖かく 皆が心地いい二世帯住宅


























