「アアルトセンター」を巡る、セイナヨキの建築旅
フィンランドに半年間滞在していたReplanスタッフがお届けする、北欧の暮らしや建築のこと。
目次
フィンランドにある南ポフヤンマー県の都市「セイナヨキ(Seinäjoki)」は、人口約65,000人の中規模都市。ここは「アアルトの都市」として世界的によく知られていて、特に「アアルトセンター」は建築好きにとっては必訪の場所です。
そこで今回は、僕がセイナヨキを訪問したときの建築旅について、アアルトの建築をメインにお伝えしたいと思います。
セイナヨキの「アアルトセンター」とは?

セイナヨキでは、1951年に都市計画コンペを実施します。そのコンペに参加して権利を勝ち取ったアアルトはその後、市庁舎、図書館、劇場、教会、州庁舎などを街の中心部に「アアルトセンター」としてまとめて設計しました。「アアルトセンター」は都市に必要な機能を集約した建築群として街の顔となり、今なお市民の生活の中に深く根づいています。
建築1|
Lakeuden Risti (ラケウデンリスティ)教会(1957–1960)

「Lakeuden Risti(ラケウデンリスティ)教会」は、セイナヨキの象徴的存在といえる教会です。直線的で力強い外観に、アアルトらしいやわらかな光の扱いが加わり、凛とした祈りの空間をつくり出しています。特に印象的なのは、高さ65mの鐘楼です。空に向かってまっすぐに伸びるこの鐘楼は遠くからでもよく見えて、街の中心であることを示すランドマークになっています。

教会の内部は白と木を基調としていて、アアルト特有のヒューマンスケールの設計デザインが礼拝者を心地よく包み込むのだろうと想像できました。窓の配置や光のコントロールも極めて繊細。この場を訪れた人が心を鎮められるように、という教会という建物に求められる役割への配慮が徹底されているようでした。





スケールの大きな街を象徴する鐘楼と、訪れる人に心の安寧を与える教会。この異なる2つの建物を一つの場に両立させる設計こそが、アアルトの真骨頂。教会建築を数多く手がけてきた彼ならではの表現が堪能できました。
建築2|市庁舎(1961–1962)

アアルトが「民主主義の場」として設計したセイナヨキ市庁舎は、重厚でありながら市民に開かれた雰囲気をまとっています。外観は、おなじみの「アアルトタイル」によって生み出される独特なラインと、光の加減で見え方が変わるランダム性が特徴的。建物に入ると中庭を介してとり込まれた自然光が、空間にやわらかさをもたらしていました。




議場はアアルトらしい木材の使い方が特徴的で、音響や視認性まで配慮された空間に。人々が安心して議論できるような心理的な快適さも備わっています。官庁建築でありながら、「人が集う場所としての心地よさ」が優先されている点に、アアルトの建築に対する思想が色濃く表れています。



建築3|州庁舎(1967–1968)

市庁舎に比べてさらに記念碑的な存在感を放つのが「州庁舎」です。行政の象徴としての威厳を表現しつつ、素材づかいや空間構成にはアアルトらしい人間味が息づいていました。
長い階段状のファサードは権威を表す一方で、外の広場と緩やかにつながり、市民に対してオープンな設計です。室内は人が使うことを前提に設計されているため、他の建物と比べると装飾性は若干控えめ。とはいえ適度な堅さと親しみやすさが空間の中で共存していて、まさに「人と権力をつなぐ場」を体現しています。







建築4|劇場(1986–1987)

アアルトの死後、妻のエリッサ・アアルトの手によって完成したこの劇場は、アアルトセンターに立つ建築群の最後を飾る重要なピースです。設計自体は1960年代から始まっていたため、アアルトの思想がディテールにまで宿っています。

ホワイエに足を踏み入れると、来場者を優しく迎えるのは広々とした大空間とそこをふんわりと包む照明の明かり。外部の広場との視覚的なつながりを感じながら、エンターテインメントの世界に誘われていきます。
広いクロークや壁に設置された大きな鏡といった、フィンランディアホールで踏襲されている要素が見られたり、アール形状を生かしたアアルトらしいシンプルながらも上品で完成された空間を堪能できたり、見どころは満載。
「文化との接続」、「人のための居場所づくり」という建築思想がとてもよく表れていて、「文化が都市を形成する」というアアルトの考えが非常にストレートに伝わってくる建築でした。






建築5|図書館(旧館 1964–1965)

この図書館の旧館(今は新館Apilaができている)は、アアルトが最も得意とした「人が学び、くつろぐ空間」を感じられる場所です。天窓から射し込む自然光が閲覧席に心地よく届き、家具や照明までトータルでデザインされています。



特にスキップフロアを用いた書架の配置によって、館内に広がりや目線・動線の変化を生んでいる設計が印象的で、アアルト建築の特徴である「建物そのものが人の行動を優しくサポートしている感覚」がリアルに体験できました。知識を学ぶ場を単なる施設で終わらせず、「人が成長できる環境」として設計していることに感銘を受けました。




ちなみに旧館の隣に2012年に完成した新館「Apila」は、JKMM Architects による設計。外観は現代的な建材を使用した直線的なフォルムです。アアルトが用いたデザインや素材感、自然光の使い方を、現代的に解釈してつながりを持たせているように見えました。




この建築旅を通じて見えたこと
アアルトは、セイナヨキの行政・文化・宗教の中枢をデザインし「都市の顔」をつくりました。市民は、それをレガシーとして遺すだけではなく、Apila のような「アアルトを引用した現代建築」を建てることで新旧をシームレスにつないでいます。
セイナヨキのアアルトセンターを巡る中で強く感じたのは、「アアルトの建築でブランド化された街が、それを生かしてさらに時代に合わせてアップデートしている」ということです。
建築によってアイデンティティを強固にし、建築によって進化を続けるセイナヨキ。建築好きの方は、ぜひフィンランドの旅程に組み込んで、ゆっくりと見歩いてもらえたらと思います!

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