働くことと暮らすこと その位置関係を見直そう

健康で楽しい、自分で納得でき満足できる生活を送るためには、自分の手持ちのリソースの配分を見直すことが不可欠です。特にもっとも貴重な、1日24時間しかない時間の再配分はもっとも重要です。そうなると、働くことと暮らすこと、その物理的な位置関係も含めて再検討が効果的です。端的に言えばとりあえず、働く場所と暮らす場所をどこにするのか、ということです。

筆者の生活はとりたてて語ることもないのですが、通勤時間はちょっと特徴的かもしれません。職場の大学近くの中古のマンションで暮らしているため、通勤は歩いてたったの10分です。おかげで1日を有意義に使えていると感じていますし、生活にもおおむね満足しています。学生時代には片道1時間40分をかけて通っていましたから、その損を取り返しているわけです。

情報ネットワークが人を自由にする

どういう生活を望むのかは、人によって違って当然です。都会に暮らすのもありですし、郊外で暮らすのも、それぞれ長所があります。いずれにしろ、明治以降の都心部への極端な人口集中は是正されていくのではないでしょうか。

現在と江戸時代以前で大きく違うのは、情報ネットワークの存在です。現在では物理的にどこにいても、いつでも世界の最先端の情報に触れることができ、気の合う仲間とやりとりを行うことができます。情報ネットワークが充実するほど、物理的な場所は重要ではなくなります。

情報ネットワークを活用して在宅で働く「テレワーク」もかなり普及してきました。働く時はオフィスに拘束され長距離通勤に苦しむ必要はなくなってきています。情報を世界で瞬時にやりとりできることで、我々はどんどん自由に暮らせるようになるのです。

現在のビジネスで、顔を常時つきあわせてないとできない仕事はそれほど多くありません。人との付き合いもうまく調整できるようになれば、心理的ストレスも減るのではないでしょうか。

ZEH+テレワーク+EV 暮らす・働く・動くがゼロエネに

大量の人を詰め込む巨大なオフィスビルは膨大なエネルギーを消費しますから、ゼロエネビル「ZEB」にするのは非常に困難です。一方で本連載でも何度も取り上げた戸建住宅をゼロエネにする「ZEH」は、はるかに簡単です。

ZEHで在宅勤務をするようになれば、オフィスや通勤に伴う時間とCO₂排出を限りなくゼロにできます。戸建住宅を建てる時は、在宅勤務を想定して「1室余分に」用意しておくなんていうことも有効でしょう。労働や通勤の時間を減らし家に滞在する時間を長くできれば、家族と過ごしたり地域で交流する時間も増え、生活の満足にもつながるでしょう。

電気自動車(EV)が普及しZEHの太陽光発電で充電するようになり、一家に数台でなく地域でカーシェアをするようになれば、家づくりや街並みも大きく変わるでしょう。それにともない自動車や鉄鋼などの重厚長大産業は縮小するでしょうが、それは地球環境の立場からも生活者の立場からも望ましいことなのです。

以前に北海道の住宅研究者が「北海道にあるのは町並みではなく車庫並みだ」と言われていました。住宅計画でも敷地の中で真っ先に決めるのは駐車場です。カーシェアや自動運転が普及すれば、街づくり・家づくりは大きく見直されることになるでしょう。

地球と人生のために、20世紀型の社会を見直そう

大量生産・長距離移動・大量エネルギー消費といった20世紀の変革は人々を熱狂させましたが、今の我々は前世紀の遺物に逆に振り回されてしまっているのかもしれません。そうした、地球を破壊し人を幸せにもしない前世紀からの生活習慣は、すでに「ダサい」のです。

地球環境の面からも生活の面からも、現状を未来永劫続けていく理由はありません。我々一人ひとりが身近なところから見直し、暮らしたい生活を積極的に選んでいくことが、未来に向けて社会を変えていくことにつながります(図7)。

図7 地球と人生がサステイナブルな住まいと生活
地球温暖化対策も待ったなし、人生の時間も有限です。暮らすことと働くことを今一度見直し、上手に組み合わせることは地球にも人生にもとても有益です。都市と郊外どちらに暮らすことが環境に優しいのかは、色々な議論があります。それぞれの価値観に合わせ、住まい方と働き方を組み合わせることをおすすめします。

今回は地球温暖化と生活時間ということで、普段よりもちょっと大きめの話をしました。2050年といってもなかなかピンときませんが、たった30年後の話です。今40歳の大人は70歳、今10歳の子どもは40歳になっているという時代であり、そんなに先の話ではありません。現在の社会や住まい方の大部分は、戦前のある時期から急速に広がったものであり、なんら普通のことでも未来永劫続いていくものでもありません。本来はどう暮らしたいのか、どう生きたいのか。地球温暖化対策もきっかけの一つとして、私たち一人ひとりが考える必要がありそうです。


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※次回のテーマは<未来の気候に備えた敷地選びと家づくり>です。

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vol.004/「湯水のごとく」なんてとんでもない!給湯こそ省エネ・健康のカギ
vol.005/私たちの家のミライ
vol.006/窓の進化
vol.007/断熱・気密はなぜ必要なのか?
vol.008/冬のいごこちを考える
vol.009/電力自由化! 電気の歴史を振り返ってみよう
vol.010/ゼロ・エネルギー住宅ZEHってすごい家?
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vol.012/ゼロ・エネルギーハウスをもう一度考える
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vol.016/冬の乾燥感
vol.017/採暖をもう一度科学する
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