断熱は省エネ基準よりちょっとマシ?

ZEHの補助金により、断熱性能は向上したのでしょうか? 残念ながら、ほとんどの物件は規定ギリギリのUA値0.5〜0.6のままです。外皮性能はギリギリのまま、主に高効率設備の力で1次エネルギーを削減した、というのが実情のようです。

この連載でも何度かお話ししたように、2020年にはすべての住宅で省エネルギー基準(H28基準)の達成が必須になります。この省エネ基準では「最低限」の断熱性が規定されていますが、ZEHではより強い断熱が求められます。このZEHの求める断熱とは、どの程度のレベルなのでしょうか。

住宅の望ましい断熱性能を検討している民間団体HEAT20では、望ましい断熱グレードとして「G1」と「G2」を提唱しています。図3に、断熱性能を表す外皮平均熱貫流率UA値の、地域ごとの各種規定の値を示しました。

図3 日本版ZEHの断熱レベルでは室内は寒いまま?
図3 日本版ZEHの断熱レベルでは室内は寒いまま?
省エネ基準・ZEH・HEAT20 G1/G2における、外皮平均熱貫流率UA値(小さいほど熱ロス小で高断熱)と冬期間の最低の体感温度(作用温度)を示します。ZEHで規定されている断熱レベルは、省エネ基準よりは高断熱になっていますが、HEAT20のG1には届きません。HEAT20のG1は冬期最低室温を13℃または10℃以上に維持するように設定されており、ZEHの断熱レベルではこれよりも室内は寒くなってしまうことになります。特に、寒冷な3~5地域でのZEHとG1の乖離が危惧されます。

HEAT20の制定においては、低温な室内に晒されることによる健康被害「ヒートショック」が問題視されたため、非暖房室も含めて最低室温を確保することが重視されています。温暖地であれば、G1なら10℃以上、G2なら13℃以上を確保する、といった具合です。

こうしてみると、ZEHのUA値は省エネ基準よりは小さい(高断熱である)ものの、HEAT20の下位スペックであるG1よりも大きい(低断熱である)ことが分かります。特に、東北などの寒冷な3〜5地域で差が大きいことが気になります。ZEHだからといって、建物の基本性能である断熱はハイレベルとは限らず、室温はかなり低下しうることが分かります。

2016年の事業からは、UA値を20%削減した高断熱な物件は採択時に有利に扱われることになりました。しかし間欠暖房を想定した温暖地では、断熱を強化しても省エネ効果は限られ、必要なPVの容量もわずかしか減りません。ゼロエネを主たる目的とすると、断熱性能は規定ギリギリにしておくのが最も経済的、という結論になってしまうのです。

寒冷地では高断熱+Nearly ZEH?

寒冷地でのZEHはどうなるのか、札幌での計算結果を図4に示します。元々寒冷な地域で、しかも暖房設備に温水床暖房を選択すると24時間暖房として扱われるので、暖房のエネルギー消費量は増加します。

図4 寒冷地は高断熱でNearly ZEH達成を目指す?
寒冷地の代表として札幌の条件で計算をしてみました。暖房に床暖房を想定すると、24時間暖房になるので暖房の消費エネルギーが大きくなりがちです。そのため、ゼロエネ達成に必要な太陽光発電がかなり大きくなります。この寒冷地のハンディを緩和するために、断熱性能が高い物件(UA値0.25以下)に限って1次エネルギー消費量の75%以上をカバーすればよいとする「Nearly ZEH」が定義されています。これなら現実的な容量(ここでは6kW)で達成することが可能でしょう。消費エネの100%以上カバーのフルZEHにすれば、経産省ZEH補助金は150万円にアップします。

ZEH仕様の断熱と高効率設備を導入すれば、1次エネルギーの20%削減は容易です。ただし、エネルギー消費の総量が大きいので、必要な太陽光発電の容量がかなり大きくなってしまいます。こうした「寒冷地に不利」との声に配慮して、2016年度からZEHの補助金では、寒冷な1・2地域についてUA値0.25以下の「寒冷地特別外皮強化仕様」を策定しています。これはHEAT20の上位スペックG2(UA値0.28)より高断熱ですので、十分な断熱性といえるでしょう。

この特別仕様で100%太陽光で賄うフルZEHなら150万円と割増の補助金が、75%太陽光で賄うNearly(ニアリー)ZEHでも125万円がもらえます。北海道は全国に先行して高断熱・高気密に取り組んでおり、低コストでハイレベルな断熱・気密を施工できる設計者・施工者が多くいます。ただし、フルZEHにしてもNearly ZEHにしても、太陽光発電は必須です。コストの制約が厳しい物件では達成は容易でないことが予想されます。

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