「遮音」は日本の家の弱点

伝統的に、日本の家は遮音に重きを置いてきませんでした。しかし、国交省が5年おきに行っている「住生活総合調査」において、「遮音性」は住宅に対する不満の第3位(図9)。近年改善が進んだ「断熱性」や「省エネ性」よりも音の不満が多いのです。

図9 これからの住宅では遮音性が重要に!?
遮音性の不足が、最新の平成30年調査では住宅への不満第3位になりました。在宅勤務の普及も考えると、今後は住宅の遮音性能確保が重要になりそうです。
出展:国土交通省 平成30年 住生活総合調査(速報集計)結果

欧米では家族間でもプライバシーが重視されるため、求められる防音レベルも高くなっています。木造住宅であっても、2階の床にわざわざコンクリートを打設して遮音するほどです(図9)。日本でも、在宅勤務の広がりがきっかけとなって、個室の確保や遮音へのニーズが高まる可能性があります。

図10 ドイツの家は床にも遮音コンクリート
ドイツの住宅が温熱環境や空気質の確保に優れていることは有名ですが、遮音性能にもこだわっています。木造住宅は軽量のため遮音性能に劣りますが、ドイツでは2階の床にわざわざコンクリートを打設して遮音性を強化しています。

住宅が再び生活の中心に

かつては、生活と仕事は隣り合って行われるものでした。農家や商屋は、住宅でもあり仕事場でもあったのです。住宅の中で、日常のほとんどの営みが行われていました。

近代以降の住宅は、家から労働やレクリエーション・食事などのさまざまな機能が外に出される「アウトソーシング」の歴史ということができます。住宅の果たす機能が減り、食事・休息・就寝に特化しコンパクト化が進みました。

最近になり夫婦共働きが当たり前になると、通勤に便利な都市部への居住集中がますます進み、高価な地価もあって限られた敷地に限られたサイズの住宅を建てるのが一般化しました。コンパクトな内部を狭く感じさせないようオープン空間、プライバシーは最小限という効率的なプランが人気になったのは当然でしょう。

コンパクト・オープンから、プライバシー重視の余裕プランへ

こうしたコンパクト・オープンな住宅は、家族が昼間は外出していて、夜だけ一緒に暮らすには十分だったと思われます。しかし、学校閉鎖・在宅勤務となり、さらに外出を控えるとなると、みんなが一室空間に終日一緒に在室することになります。この「想定外」の事態に家族のストレスは急上昇。「コロナ喧嘩」「コロナ離婚」などという恐ろしい言葉が飛び交う事態となりました。人間が仲良く一緒に過ごすには、やはり個人のプライバシーの確保が必須のようです。

在宅勤務が当たり前になれば、地価が手ごろな郊外に余裕のある家を建てることが可能です。その余裕あるプランの中で、遮音にも配慮してプライバシー性の高い個室を家族全員に確保することが、重要な時代に来ているのかもしれません(図11)。

図11 在宅勤務が大きく変える家の形
従来の家づくりは、夫婦が共働きで通勤を前提に職場への近さが最優先されてきましたが、在宅勤務が普及すれば家づくりが大きく変わる可能性があります。

コロナウイルスの問題は未だ先が見通せず、多くの方々が大変な苦労をしています。その苦労が少しでも低減されること、そしてこの先に明るい生活と住まいの未来が開けることを、心より願ってやみません。


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