地域のより良い暮らしのために、住まいやまちづくりは都道府県ごと、市町村ごとのさまざまな取り組みによって支えられています。北海道はその気候条件から住宅性能や機能性、デザインに独自の変遷が見られる地域でもあります。その移り変わりを振り返ってみることで、未来のまちと住まいの形が見えてくるかもしれません。
北海道の住まいの変遷を象徴する「北方型住宅」
北海道では積雪寒冷な気候に対応するため、戦後早期から断熱や気密の技術開発が実施されてきました。1988年から産学官が一体となって、北海道の気候風土に適した「北方型住宅」の開発・普及が進められたこともその特徴のひとつです。
北方型住宅は「北海道の気候風土に根ざした質の高い住宅の推進」を理念として、長寿命」「安心・健康」「環境との共生」「地域らしさ」で構成される4つの基本性能と、「専門家の関与:BIS資格者による設計・施工」「住宅性能の見える化:住宅取得者へ住宅ラベリングシートを交付」「住宅履歴情報の保管:新築時の住宅の記録をきた住まいるサポートシステムに保管」という3つのしくみで成り立っています。
北方型住宅には性能の違いにより、2005年基準の「北方型住宅」、2010年基準の「北方型住宅ECO」、2020年基準の「北方型住宅2020」というグレードがあります。どの時期においても国の定める基準よりも高い断熱性能で、暖房などにかかるエネルギー量をより削減できる基準が定められてきました。いずれも断熱性能に加えて、暮らしや住まい方にも配慮しながら、良好な社会資産の形成と北国らしい生活文化の確立を目指すものです。
[ 北方型住宅2020の基準(抜粋) ]
・耐震等級2
・外皮平均熱貫流率(UA値)0.34W/㎡・K以下
・一次エネルギー消費量等級6(BEI=0.8以下)
・断熱・気密の専門資格者による設計と施工
・きた住まいるサポートシステムへの住宅履歴の保管 など
「北方型住宅2020」で建築した場合、現行の法基準で建てた住まいと比べて年間約400L(約3万7千円分)の光熱費を削減できます。暖房を使う期間の長い北海道に暮らす人々にとって、暖房費の削減は大きなメリット。同時に、近年では夏の気温上昇から北海道でもエアコンが必要な日が増えてきています。年間を通じて光熱費を削減できる住まいは、日々の暮らしを支えてくれるのです。
断熱性能、気密性能を高めることは、住まう人の健康増進にも寄与します。断熱性能を高め、室内の温度ムラをなくすことで、冬場のヒートショックの発生を軽減することができます。また、気密を高め、換気の量や経路などもしっかり設計することで、家中どこでも新鮮な空気で満たされ、さまざまなアレルギー症状の改善にもつながります。
きた住まいるヴィレッジの推進
北海道と南幌町、北海道住宅供給公社、日本建築家協会北海道支部、北海道ビルダーズ協会、北海道が推薦する住宅事業者「きた住まいるメンバー」が手を組み、南幌らしい暮らしとまちづくりを提案するプロジェクト「みどり野きた住まいるヴィレッジ(以下、ヴィレッジ)」。
2016年から取り組みが始まり、当初は6組の建築家&工務店のコラボレーションによるモデルハウスが建設・販売されました。2019年8月からは注文住宅として建設が始まり、現在では新しい住まい手たちの暮らしが始まっています。南幌町の気候風土やヴィレッジ内の景観、住民同士のコミュニティー創出を目指した配置などを考慮しプランニングされた住宅は、見た目はもちろん「北方型住宅としてハイスペックな住宅性能を確保」「BISやBIS-Eなどの専門技術者による設計と施工」「きた住まいるサポートシステムによる住宅履歴の保管」といった性能・安全面でも高い品質で提供されています。
ヴィレッジに立つ住宅には、「クオリティ・ファーストの暮らし」を支えるデザインルールがあります。また、住宅の性能は、長期優良住宅認定基準や省エネ基準を超える「北方型住宅2020」の基準を満たしています。北海道で活躍する建築家がつくる素敵な空間と、地域のことを考えて家づくりを実践する地域工務店の技術がつくる、安心で高い性能を備えた住宅を手に入れることができます。
家族との時間、ご近所との交流、自然とのふれあいなど、利便性だけでは図れない“暮らしのクオリティ”を何より大切にする「クオリティ・ファースト」を実現するため、ヴィレッジの住宅はゆとりのある配置とし、住宅の周りは庭や菜園などとして活用することで、周辺の住宅地とは異なる、広い視界と秩序あるまちなみを提供しています。さらに、家の内側と外側をゆるやかにつなぐデザインにより、面積以上のゆとりを感じられる空間を実現しています。また、これらのまちなみを維持し、住民の方々でまちを育てていくためのルールづくりも行われています。
ゼロカーボン北海道の実現に向けて
北海道では「ゼロカーボン北海道」の実現に向け、2030年度の温室効果ガス排出量を2013年よりも48%削減するという中間目標が設定されており、さまざまな取り組みが行われています。
積雪寒冷地で暖房用の消費エネルギーが全国平均の3倍以上となる北海道では、家庭部門のCO₂排出割合が高いため、脱炭素化に向けては住宅分野の省エネへの取り組みが課題となっています。広い北海道ではエリアによって気候条件が異なり、一律ではない各地域特性に応じた適切な対策が求められていました。
その課題を解決しながら目標を達成する仕組みとして、CO₂削減効果がより大きい「北方型住宅ZERO」が新設されました。北方型住宅ZEROは、これまでの北方型住宅2020の性能基準を満たしたうえで、複数の脱炭素対策から選択して一定のポイント数を満たす住宅で、地域特性やユーザーの希望に合わせて、脱炭素対策を柔軟に選択できるよう組み立てられています。
北方型住宅2020では、省エネ基準比で、年間約1トンのCO₂削減効果が見込まれていましたが、「北方型住宅ZERO」では、10ポイント以上の脱炭素対策を施すことで、倍の年間約2トンのCO₂削減効果を目指しています。
併せて、南幌町の東町で「みどり野ゼロカーボンヴィレッジ」の取り組みを新たに開始し、令和5年9月より住まい手を募集しています。これまで、きた住まいるヴィレッジで取り組んできた南幌町の気候風土やヴィレッジ内の景観、住民同士のコミュニティー創出を目指した配置などに加えて、脱炭素化に向けて、これまで以上に環境に配慮した「北方型住宅ZERO」を要件とした住宅は、環境に優しいだけではなく、太陽光発電設備を活用することで、光熱費の削減等も期待される住宅となっています。
北海道では気候風土や時代性に合わせて、住まいの技術の革新と同時にさまざまな制度・取り組みがなされてきました。これからも移り変わる時代の変化、人々の暮らしに求める条件や暮らし方の変化にも呼応しながら、より良いまちの姿が形づくられていくことが期待されています。
こちらの記事にも注目
▼南幌町みどり野きた住まいるヴィレッジ
https://www.replan.ne.jp/articles/11941/
▼南幌町みどり野ゼロカーボンヴィレッジ
https://www.replan.ne.jp/articles/42243/