建築・デザイン好きの人におすすめ。街を楽しむ「ヘルシンキの歩き方」
フィンランドに半年間滞在していたReplanスタッフがお届けする、北欧の暮らしや建築のこと。
目次
「ヘルシンキは、なんでこんなに歩きやすいんやろう?」
フィンランドに滞在中、幾度となくそう思いました。起伏が少なく、建物のスケールも人の目線に心地よく沿っていて、街が丸ごと「ちょうどいいサイズ」。数万歩を数えるほど一日中歩いていても、さほど疲れていない。
そんな不思議な快適さの理由は、
- 街区のサイズ
- 建物と道の関係
- 目的地ごとのデザイン
- 街の動線のつなぎ方
といったところにあるのかもしれません。
また、エリアごとにまったく異なる表情を見せるのもヘルシンキの魅力のひとつ。一区画移動するだけで建物の年代や、人やお店の雰囲気が大きく変化していくのですが、それらが違和感なくつながっているからこそ、街を歩く行為そのものが楽しく意味を持つのだと思います。
そこで今回は、ヘルシンキの街並みや建築物、全体のデザインを「歩いて楽しむ」という視点でおすすめのお散歩エリアをご紹介します。
1 Töölönlahti(トーロ湾)〜 Oodi(ヘルシンキ中央図書館) 周辺
市民の憩いの場「Töölönlahti(トーロ湾)」周辺は、ウォーキング、サイクリング、ワークアウトなどのアクティビティを楽しめる環境。緑豊かで自然へのアクセスがいい公園としてもきれいに整備されています。そしてヘルシンキ中央に近づくに連れ、建築的な見どころも密集しています。

特にその象徴ともいえる「Oodi(ヘルシンキ中央図書館・2018年竣工・ALA Architects設計)」は、木造屋根の大空間と開かれた市民スペースが特徴。隣接する「Music Centre」や近代美術館「Kiasma」、少し北側にある、アルヴァ・アアルト設計の「フィンランディアホール」とセットで訪問することをオススメします。

▼フィンランディアホールについては、こちらの記事をぜひご一読ください!
改修工事を終えた「フィンランディアホール」を訪ねました。
僕は初めてフィンランドを訪問した際、合理的に形づくられたこのエリアだけで少なくとも4時間を費やしました。見ているだけで飽きることがなく、人々と自然と技術が共存していることが実感できる、必見のエリアです。
2 ヘルシンキ中央駅 周辺
建築家エリエル・サーリネンによる1919年竣工の「ヘルシンキ中央駅」は、グラニットの質感が印象的なアール・ヌーヴォー建築です。ちなみにアルヴァ・アアルトは、エリエル・サーリネンの建築に感銘を受けて建築家を志したともいわれており、自然由来の素材を組み合わせつつ光を採り入れる意匠には、両者の共通項も感じられます。特に照明を掲げる「ランプマン」像が名物です。

バス停やトラム駅、レンタルサイクルや電動キックボードのステーション、そしてホテルに商業施設に美術館…。首都のメイン駅として、周囲には多くの機能を持つ建造物が立ち並んでいて、多くの人々が行き交う場所です。それでいて高層ビルは少なく、開放的で空が広く感じられるのもこの都市らしい魅力のひとつでしょう。

3 国会議事堂 〜 Kamppi(カンピ)礼拝堂 周辺
国会議事堂(エドゥスクンタ・1931年)からKamppi(カンピ)までのエリアは、戦後モダニズムと現代建築のコントラストが見られるスポット。地下鉄から直結のショッピングモール「Kamppi Center」は、現代的な建築デザインも見どころで、ついつい歩き続けてしまいます。


この一帯は「Kamppi礼拝堂」や美術館の「Amos Rex」など、フィンランドの歴史や文化に親しめるエリアとして整備されていて、近隣にはカフェやレストランなどの飲食店やホテルも点在。市民のみならず観光客にも人気で、常に人が行き交う繁華街です。
4 Old Church Park 〜 Design District
Kamppiから徒歩で数分の距離にある「Old Church Park」を囲むエリアは、19〜20世紀の石造アパートが残る歴史の匂いが感じられる地区。古くからある街並みと緑豊かな公園のバランスが素敵で、いつ来ても心が晴れやかになるような感覚になります。

また近くの「Design District(デザイン通り)」には、アートギャラリーや北欧雑貨、家具のショップが密集しており、ウィンドウショッピングをするだけでもインスピレーションが得られます。クリエイティブが集まるエリアでもあり、ファサードなどのデザインを含め、店舗のバリエーションを楽しむことができます。

5 Esplanadi(エスプラナーディ)公園とその周辺施設
街のど真ん中を突っ切るEsplanadi(エスプラナーディ)公園は市民の憩いの場所。道路に挟まれた横長の形状が、札幌の大通公園を彷彿とさせます。
特に日照時間が長くなる春から夏にかけては、ベンチや芝生でピクニックを楽しむ人々の姿がよく見られ、さまざまなイベントも。週末にはよく地元のミュージシャンによるライブも開催されているなど、見どころが盛りだくさんです。

さらにエスプラナーディ通りの近くには、「Artek(アルテック)」「Marimekko(マリメッコ)」「iittala(イッタラ)」「Arabia(アラビア)」といった、フィンランドを代表するインテリアブランドのショップが集中。アアルトの設計で有名な「SAVOY Restaurant(サヴォイ・レストラン)」のビルもあり、建築インテリア好きならまず足を運びたい場所です。また、百貨店の「STOCKMANN」や「アカデミア書店」も必見ですね。
▼「STOCKMANN」については、こちらの記事をぜひご一読ください!
北欧インテリア好き必見。ヘルシンキの百貨店「ストックマン(STOCKMANN)」の5階
いろんなお店でショッピングを楽しんで、少し疲れたらカフェでお茶をしたり、公園でぼーっと休憩したり…。心ゆくままにフィンランドでの時間を満喫できるエリアです。
6 ヘルシンキ大聖堂 〜 国立図書館 〜 ヘルシンキ大学
ヘルシンキの象徴ともいえる大聖堂(1830年代)はカール・ルートヴィヒ・エンゲル設計。白亜のネオクラシック建築が元老院広場を見下ろします。現在は工事中ですが、フィンランドの代表的な観光地として知られ、常に観光バスや海外からの観光客でにぎわっています。教会内に射し込む光の美しさは必見です。

国立図書館(1840年)は、帝政ロシア期のネオクラシック様式で内部のらせん階段や読書室が美しく、漂う歴史から少しの緊張感もあってか、個人的には仕事や作業がはかどる場所として重宝しました。また隣接するヘルシンキ大学も、現代的建築と伝統的建築が融合して知性と品性が共存する、一見の価値アリな空間でした。

7 Munkkiniemi(ムンッキニエミ)
静かな高級住宅地Munkkiniemi(ムンッキニエミ)には、アルヴァ・アアルトの自邸(1936)とアトリエ(1955)があり、予約制で内部見学が可能。住宅建築の理想と試行錯誤の痕跡が感じられます。周辺は美しい散策路と海沿いの自然も魅力。
ヘルシンキに旅行なりで来られるのであれば、このエリアは絶対に行くべきと強くおすすめします…!アアルトの原点を感じられる空間を50€程度で体感できるのであればかなりお値打ち。そう思えるほどに充実度と満足度が高いです。
▼「アアルト自邸」については、こちらの記事をぜひご一読ください!
2度目のアルヴァ・アアルト自邸探訪で知ったこと、感じたこと。
▼「STUDIO AALTO」については、こちらの記事をぜひご一読ください!
アアルトが晩年を過ごしたアトリエ「STUDIO AALTO(スタジオ・アアルト)」
またこのエリアは、ヘルシンキの中でも随一の高級住宅街。戸建て住宅も集合住宅もファサードが美しく、どの通りを歩いても新たな発見があります。ここから少し離れますが、旅程に余裕があるなら「ディドリクセン美術館」まで足を延ばしてみるのも良いコースです。この美術館もたまりません。


歩くことで、街を知る。
歩きながら、街に学ぶ。
半年間の滞在中は、ほぼ毎日のようにヘルシンキやその周辺都市の街を歩きました。天気の良い日もあれば、冷たい雨の日もありました。そのすべてが、街のことを「身体で理解する」体験の時間だったと感じています。
ヘルシンキは、街がコンパクトにまとまっているうえに、ひとつひとつの街区に物語があり、歩くほどに発見がある都市です。合理的で美しい建物が街並みの中に自然に溶け込んでいて、古いものと新しいものが無理なく共存している。その配置や動線が心地よく、「利用する人間のことを思ったまちづくり」の思想が確かに息づいています。



日本でも、都市計画や建築の視点から街を考える機会は増えていますが、ヘルシンキのように「実践して成功している都市」はさほど多くはありません。街そのものが「フィンランドらしさ」を表現していますので、旅などで訪れた際にはぜひこの記事の情報をヒントに、たくさん歩いて、見て、触れていただければ嬉しいです。
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