目が幸せ。フィンランド最古の街・トゥルク(Turku)の建築旅
フィンランドに半年間滞在していたReplanスタッフがお届けする、北欧の暮らしや建築のこと。
目次
フィンランド南西部に位置する都市、トゥルク(Turku)。ここはかつてフィンランドの首都であり、長らくフィンランド文化の発信地としての役割を担ってきた街です。その歴史を示すように、古いものと新しいものが絶妙に共存するトゥルクには、建築好きにはたまらない美しい建物がいくつもあります。
そこで今回は、この街にある代表的な建築物を写真とともにご紹介します。過去と現在がうまく折り重なりながら、静かに人々の生活に寄り添っている建物たち。蓄積された「記憶の器」の中に、都市の思想と呼吸を感じていただけたら嬉しいです。
1. トゥルク市立図書館(City Library)

旧館と新館がシームレスにつながる、トゥルクを象徴するような公共空間である市立図書館。ここでは歴史建築と現代建築の美しい対話を体感できます。
こちらは1903年に竣工した旧館。ルネサンス風の優美なファサードは、まるで美術館のよう。もとは労働者向けと学術研究者向けに空間が分かれていたという背景も興味深いです。




新館は2007年に竣工しました。木・石・ガラスといった自然素材の使い方が印象的で、光の採り入れ方がとにかく見事。市民の自由な居場所として、街と人をつないでいます。


訪問したのは平日の日中でしたが、かなり多くの人が滞在して思い思いの時間を過ごしていました。この日は新聞を読む人が多かった印象。夏休みのせいか学生は少ないようでしたが、それでも席はけっこう埋まっていました。
建築物としての新旧はあれど、機能としては一体的である点がとてもおもしろく感じました。とはいえ建物の内装の雰囲気は全然違っていて、それぞれに漂う空気感は大きく異なります。それがいい意味で緊張感を生んでいて、ちょっとした作業を含めた滞在にオススメでもあります。
2. 復活礼拝堂(Resurrection Chapel)

復活礼拝堂は、エリク・ブリッグマンが1941年に設計した教会です。トゥルク市街から南東の丘を越えて住宅街をスクーターで駆けていくこと約30分(バスでは20分程度)。
緑豊かな墓地の果てに立つ復活礼拝堂は、生命のエネルギーを感じられる静謐な空間で、光と影が織りなす「自然との共鳴」が体感できます。特にこの日は鐘も適度に鳴っており、ここが祈りの場であることを強く感じさせられました。



陰影によって、死と生の狭間にたたずむような空間が演出された礼拝堂。自然光がやわらかくに射し込む空間は、祈りの場としての荘厳さを備えながら、どこか現代建築の軽やかさも持ち合わせています。
礼拝堂の中は時間がよりゆったりと流れているように感じられ、一旦椅子に座るととても落ち着いてしまって、なかなか立つことができなくなるほどでした。「復活」いう名が冠されているのもうなずける神聖な空間は、一見の価値ありです。



3. 聖ヘンリー礼拝堂(St. Henry’s Ecumenical Art Chapel)

聖ヘンリー礼拝堂はトゥルク市街から西の山道を車で30分程度走った、浜辺の高台にある教会です。教会の手前にはナラ、マツ、カバを中心として整備された森が広がっています。訪問した6月中旬は特に緑が豊かで、非日常感が増していました。

これは2005年にSanaksenaho Architectsが設計した建築作品で、木の曲線と金属の質感が共鳴し、まるで舟の中にいるような気分に。聞けばここは礼拝だけでなくアートや音楽のイベントの会場としても開かれている、新時代の「神の家」。「Art Chapel」の名のとおり、芸術作品の中に入って鑑賞しているような建築体験ができました。


ちなみにこの日は近くの施設のおばちゃんと仲良くなって、浜辺を案内してもらえました。この浜辺がめちゃくちゃに綺麗で、天国かと見紛うほど。少し雲がかった空から射し込む光と風で揺れる木々のざわめき、鳥たちの声しか耳に入らない静かな環境で、ひとりの時間に浸れるので、時間があればぜひ足を伸ばしてみてほしいスポットです。
4. パイミオ・サナトリウム(Paimio Sanatorium)

「パイミオ・サナトリウム」は、いわずとしれたフィンランド近代建築の金字塔。アルヴァ&アイノ・アアルトが設計して1933年に竣工したこの建物は、結核療養者のための場で、医療と建築がどこまで人に優しくなれるかを追求した傑作です。
光・色・音すべてに心を配って、人を癒やすために設計されたこのヒューマニズムの建築は、トゥルクに行ったらぜひ見学してほしい場所です。


「パイミオ・サナトリウム」についてはこちらの記事で詳しく紹介していますので、ぜひご一読ください!
▼北欧fika
念願の「パイミオ・サナトリウム」を訪問してきました。
5. トゥルク・サノマット社屋(Turun Sanomat)

「トゥルク・サノマット社屋」は、アルヴァ・アアルトが1928年に設計した、フィンランド初期モダニズム建築。新聞社のためのオフィスビルとは思えないほどの洗練されたデザインです。
直線的で無駄のないフォルムの中に、光の操作や素材の選び方の効果で、どこか詩的な空気が宿っています。あいにくこの日は雨。しかも時刻は夕方で陽の光が弱い状況でしたが、だからこそ建築の魅力が引き立っているように思えました。



窓枠やガラスの形状、使われている素材などには時代性がにじんでいましたが、デザインとしてはモダンな印象もあり、今なお愛され、使われ続けている理由が分かる気がします。
6. トゥルク大聖堂(Turku Cathedral)

13世紀からの歴史を持つトゥルクの精神的支柱ともいうべき建築で、長きにわたって人々の心の拠り所になってきた教会です。レンガ造りの巨大な聖堂は、中に入ると中世の静けさがそのまま残存しているような厳かな空気感。ステンドグラスから射し込む光が美しく、高く曲線を描いた天井によって空間の奥行きや広がりが感じられます。



僕はキリスト教を信仰しているわけではありませんが、トゥルクの人々にとってのこの場所の意義や価値を、宗教の枠を超えて実感できたような気がします。

7. Kakola(カコラ)

丘の上にある「カコラ」は、かつては刑務所でした。そこが今は文化と住宅の新拠点に。石造りの重厚な建物群は、リノベーションによってカフェやホテル、集合住宅へと生まれ変わりつつあり、「都市の再生」を語るうえで欠かせない場所として注目されています。



日本でもそのような試みはたくさん実践されていますが、もともとあったものを再構築して、現代の人や暮らしにフィットする形で提供することは、なかなか簡単ではありません。しかしここカコラは、人々の暮らしを豊かにするためにさまざまな技術を使いつつ、丘の上という特殊な環境を魅力に転化させて価値を生み、成功している興味深い例です。

まとめ:美しさの中にある「意思」
トゥルクの建築旅を通して実感したことがあります。この街の建築が美しいのは、意匠性はもちろん、そこにある「人の暮らしへの視線」、「光や素材に込められた空間への思想」が、時を超えて生き続けているからではないか、という点です。
古さを残しながら、今の私たちが好んで使いやすい姿にアップデートされている。その知性と優しさに触れて、僕はこの街に深く心を動かされました。

トゥルクには、美術館やトゥルク城など、まだまだ見るべき建築がいくつもありますが、今回は我慢(?)し、次回訪問する口実としてあえて行きませんでした。いずれ訪問したあかつきには、続編としてご紹介したいと思います。
ということで、建築好きな方は、フィンランドに行ったらぜひ「トゥルク」も旅程に入れてみてください!
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