特別な日を、特別な場所で。ヘルシンキのレストラン「SAVOY(サヴォイ)」
フィンランドに半年間滞在していたReplanスタッフがお届けする、北欧の暮らしや建築のこと。
目次
ヘルシンキの街を一望できるビルの8階にあるレストラン「SAVOY」。ここはアアルトがデザインしたことで有名な、フィンランドを代表する名店です。
ヘルシンキに滞在していた昨年の7月、旅行で来ていた妻と結婚記念日の前祝いとして、価格も名店(!)でなかなかに敷居が高いこの場所を訪れました。今回はそのときの様子や感想をお伝えします。


服装は程よくフォーマル、緩やかにカジュアルで
いざ「SAVOY」に行きたいと思っても、ミシュランに選ばれているレストランだし、アアルト設計だし、何より雰囲気からして高級店っぽいし……と、少し身構えてしまう人もいるかもしれません。
でも実際に足を運んでみると、そこまで過度な仰々しさは感じませんでした。最低限の身だしなみが整っていれば、問題ないように見えました(僕は白シャツにチノパン、革靴といったシンプルな服装で浮くことはなかった、と思いたい…)。


他のお客さんを見ても、そこまでビシッと決め切っている人はおらず、ジャケット&パンツのメンズとワンピース姿のレディースという「フォーマルとカジュアルの間」くらいのカップルが複数組いる感じでした。
メニューは季節ごとに変わる。私たちは5品のコースを選択
ディナーは基本的に、伝統的なフランス料理を軸にしたコース料理。3品か5品かを選ぶ形になっていますが、僕たちはせっかくの記念日ということで、5品のフルコースを選びました。


日本ではなかなか口にすることのないフィンランドならではの食材が、アアルトの空間と相まって特別な一皿として記憶に残りました。この日は、トナカイを使った一品が印象的でした。しっかりとした味わいでありながら、どこか繊細。
料理はどれも丁寧で、盛り付けも美しく、全体として“フィンランドの今”を五感で楽しむ構成になっています。シーズンごとにメニューが変わるため、再訪する楽しみもあります。



電話帳のようなワインリストに驚かされる
飲み物のメニューがまた強烈でした。ワインリストはまるで少年ジャンプのような厚み。パラパラとめくるだけでもおもしろくて、ワインセラーには1本100万円近い品まであるというから驚きです。

私たちは料理に合うものをソムリエに相談して、数杯をセレクト。フィンランド産のクラフトビールも用意されていて、カジュアルな飲み物でもOKな雰囲気でした。


空間が静かに語りかけてくる。アアルトの真骨頂
「SAVOY」で最も深く印象に残ったのは、「空間そのものの品の良さ」です。アアルトが手がけたこのレストランには、彼の設計者としての哲学が余すことなく注ぎ込まれています。
しっとりと落ち着いた色調の天井、街の東・北・西側に向けて大きく開かれた窓、控えめでありながら洗練された照明の配灯、素材の組み合わせのやわらかさ。どれもが主張しすぎず、けれど確かな意図をもって「居心地の良さ」と「視覚的な静けさ」をつくり出していました。

この空間から感じたのは、高級感というよりも「節度」と「気品」です。空間が料理や会話、窓の外の風景といった他の要素と調和し共鳴していきます。
僕はそもそもアアルトが好きで、建築やインテリアがとことん気になるので、天井の高さ、家具の配置、光と影のコントラスト、そして時間帯による室内の変化など、五感のセンサーが全開で…。アアルト好きに限らず、空間設計に携わるすべての人に、一度はこの場に身を置いてほしいぐらいの感動でした。


時間経過と太陽による、最高の空間演出を体験
居心地の良さに、僕たちは気づけば18:30から22:00まで「SAVOY」に滞在していました。7月上旬のヘルシンキは日照時間が長く、時間の経過とともに空間がゆっくりと姿を変えていきます。

21時を過ぎた頃でした。街が橙色に染まりはじめ、やわらかく反射するその光が店内に入り込み、照明と陽の光が溶け合っていく。これほどまでに自然で、詩的で、五感に染み込む体験は、「SAVOY」でしか得られないものです。
アアルトの建築設計は「光のとり入れ方」が秀逸ですが、このときは、まさにそれを体感として理解できた瞬間でした。何気ない窓の角度や、照明のトーン、壁や天井の質感が、時間の移ろいに合わせて語りかけてくる。この場所で料理を楽しむことは、ただ食べること以上に、「空間に身をゆだねることの贅沢さ」を深く味わう体験でもあります。

アアルトの小さなミュージアムのような場所
「SAVOY」は、質の高い料理や接客はもちろん、インテリアそのものにも深い魅力があります。空間はもちろん、照明、椅子、テーブル、手すり、クロークに至るまで、すべてがアアルトのデザイン。入口から席に着くまでの間ですら、まるで小さなミュージアムを歩いているような感覚でした。レストランとしてここまで空間体験を楽しませてくれる場所は、そう多くはないだろうと思います。

これだけ楽しんで、夫婦2人で約340ユーロ
さて、気になるお会計はというと、5品コースが一人130ユーロほど。それに飲み物を加えて、夫婦2人で340ユーロ程度(日本円で57,000円ほど)でした。
もちろん気軽に行ける価格帯ではありませんが、この特別な空間で、美味しい料理と素敵な時間を過ごせるなら、個人的にはむしろ適正以上。記念日や特別な夜に、全力でおすすめしたいレストランです。

五感のすべてでアアルトの世界観を
味わえるレストラン
「SAVOY」はまさに、「五感のすべてでアアルトの世界観を味わえるレストラン」でした。アアルトの世界にどっぷりと浸かり、その空間の心地よさに身をゆだねる。妻もアアルトデザインを全身で堪能して大満足してくれたようで、Artekの家具や照明の購入を検討してくれることに。ありがたや…。
次は冬に訪れてみたい、と密かに考えています。雪に包まれたヘルシンキ、白く沈んだ空、少し厚手のコートをまとってレストランへの道を歩く。その夜に出てくる料理や、窓から見える景色はきっと、夏とはまた違った味わいになるはずです。その時を想像するだけで、またひとつ旅の楽しみが増えますね。

フィンランド建築の巨匠、アルヴァ・アアルトが手がけたレストラン「SAVOY」。1937年の開業以来、街の中心に静かに在り続けるこの空間は、ただの老舗高級レストランの枠に収まらない、圧倒的な魅力に満ちていました。
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