特別な日を、特別な場所で。ヘルシンキのレストラン「SAVOY(サヴォイ)」

公開日:2026.2.17 最終更新日時:2026.2.17

フィンランドに半年間滞在していたReplanスタッフがお届けする、北欧の暮らしや建築のこと。

ヘルシンキの街を一望できるビルの8階にあるレストラン「SAVOY」。ここはアアルトがデザインしたことで有名な、フィンランドを代表する名店です。

ヘルシンキに滞在していた昨年の7月、旅行で来ていた妻と結婚記念日の前祝いとして、価格も名店(!)でなかなかに敷居が高いこの場所を訪れました。今回はそのときの様子や感想をお伝えします。

エスプラナーディ通り沿いにあるのでアクセスは最適。1階にはSAVOY CAFEもあり気軽に飲食も楽しめる
レストラン「SAVOY」はエスプラナーディ通り沿いにあって、アクセスは便利。1階には「SAVOY CAFE」もあり、気軽な飲食も楽しめる
歴史と重厚感が滲むエレベーター
歴史と重厚感がにじむエレベーター

服装は程よくフォーマル、緩やかにカジュアルで

いざ「SAVOY」に行きたいと思っても、ミシュランに選ばれているレストランだし、アアルト設計だし、何より雰囲気からして高級店っぽいし……と、少し身構えてしまう人もいるかもしれません。

でも実際に足を運んでみると、そこまで過度な仰々しさは感じませんでした。最低限の身だしなみが整っていれば、問題ないように見えました(僕は白シャツにチノパン、革靴といったシンプルな服装で浮くことはなかった、と思いたい…)。

エントランスからこの落ち着き。エレベーターを開いた途端に異空間に引き込まれた感覚があった
エントランスからすでにアアルトの世界。エレベーターを開いた途端に異空間に引き込まれた感覚があった
前妻アイノのこだわりもあって抜け目はないが人が入り込む余白が感じられた。空席すら絵になる
アアルトの前妻・アイノのこだわりがにじむ、抜け目はないが不思議と人が入り込む余白が感じられるインテリアデザイン。空席すら絵になる

他のお客さんを見ても、そこまでビシッと決め切っている人はおらず、ジャケット&パンツのメンズとワンピース姿のレディースという「フォーマルとカジュアルの間」くらいのカップルが複数組いる感じでした。

メニューは季節ごとに変わる。私たちは5品のコースを選択

ディナーは基本的に、伝統的なフランス料理を軸にしたコース料理。3品か5品かを選ぶ形になっていますが、僕たちはせっかくの記念日ということで、5品のフルコースを選びました。

さまざまなトマトをふんだんに使ったサラダ
さまざまなトマトをふんだんに使ったサラダ
仔牛肉はさっぱりしていて食べやすかった
仔牛肉はさっぱりしていて食べやすかった

日本ではなかなか口にすることのないフィンランドならではの食材が、アアルトの空間と相まって特別な一皿として記憶に残りました。この日は、トナカイを使った一品が印象的でした。しっかりとした味わいでありながら、どこか繊細。

料理はどれも丁寧で、盛り付けも美しく、全体として“フィンランドの今”を五感で楽しむ構成になっています。シーズンごとにメニューが変わるため、再訪する楽しみもあります。

Perchという白身魚の一品
Perchという白身魚の一品
トナカイのステーキとパスタ
トナカイのステーキとパスタ
デザートには程よい甘みのミルクシャーベットが出された
デザートには程よい甘みのミルクシャーベットが出された

電話帳のようなワインリストに驚かされる

飲み物のメニューがまた強烈でした。ワインリストはまるで少年ジャンプのような厚み。パラパラとめくるだけでもおもしろくて、ワインセラーには1本100万円近い品まであるというから驚きです。

分厚いワインメニュー
分厚いワインメニューにびっくり

私たちは料理に合うものをソムリエに相談して、数杯をセレクト。フィンランド産のクラフトビールも用意されていて、カジュアルな飲み物でもOKな雰囲気でした。

拙い英語でなんとか成立した(?)ような感じでしたが、正直会計するまで一杯いくらか分からずドキドキしながら飲みました。結果そんなに高くはなかったのでもうちょっと飲めばよかった
拙い英語でなんとか注文が成立した(?)ような感じだったが、正直会計するまで一杯いくらか分からず、ドキドキ…。結果そんなに高くはなかったので、もう少し飲めばよかった
「SAVOY PILSNER」というビール。この店にあわせて作られているらしく、適度に香ばしく適度に爽やかな味わい
「SAVOY PILSNER」というビール。この店に合わせてつくられているらしい。適度に香ばしく、適度にさわやかな味わいだった

空間が静かに語りかけてくる。アアルトの真骨頂

「SAVOY」で最も深く印象に残ったのは、「空間そのものの品の良さ」です。アアルトが手がけたこのレストランには、彼の設計者としての哲学が余すことなく注ぎ込まれています。

しっとりと落ち着いた色調の天井、街の東・北・西側に向けて大きく開かれた窓、控えめでありながら洗練された照明の配灯、素材の組み合わせのやわらかさ。どれもが主張しすぎず、けれど確かな意図をもって「居心地の良さ」と「視覚的な静けさ」をつくり出していました。

空間にあるものすべてが調和して、思わず息をのむほど品のある。外光が射し込むことを前提に整えられており、どこを見てもやわらかな明るさで心地がよかった
すべてが調和して、思わず息をのむほど品がある空間。外光が射し込むことを前提に整えられており、どこを見てもやわらかな明るさで心地がよかった

この空間から感じたのは、高級感というよりも「節度」と「気品」です。空間が料理や会話、窓の外の風景といった他の要素と調和し共鳴していきます。

僕はそもそもアアルトが好きで、建築やインテリアがとことん気になるので、天井の高さ、家具の配置、光と影のコントラスト、そして時間帯による室内の変化など、五感のセンサーが全開で…。アアルト好きに限らず、空間設計に携わるすべての人に、一度はこの場に身を置いてほしいぐらいの感動でした。

半外のテラス席は開放感もありヘルシンキの街並みを一望できる
半外のテラス席は開放感もありヘルシンキの街並みを一望できる
トイレの一角にすら、品性が漂う…
トイレの一角にすら、品性が漂う…

時間経過と太陽による、最高の空間演出を体験

居心地の良さに、僕たちは気づけば18:30から22:00まで「SAVOY」に滞在していました。7月上旬のヘルシンキは日照時間が長く、時間の経過とともに空間がゆっくりと姿を変えていきます。

テラス席からは夕暮れのヘルシンキが一望できる。夕日に染まる風景がとても美しかった
テラス席からは夕暮れのヘルシンキが一望できる。夕日に染まる風景がとても美しかった

21時を過ぎた頃でした。街が橙色に染まりはじめ、やわらかく反射するその光が店内に入り込み、照明と陽の光が溶け合っていく。これほどまでに自然で、詩的で、五感に染み込む体験は、「SAVOY」でしか得られないものです。

アアルトの建築設計は「光のとり入れ方」が秀逸ですが、このときは、まさにそれを体感として理解できた瞬間でした。何気ない窓の角度や、照明のトーン、壁や天井の質感が、時間の移ろいに合わせて語りかけてくる。この場所で料理を楽しむことは、ただ食べること以上に、「空間に身をゆだねることの贅沢さ」を深く味わう体験でもあります。

SAVOYの空間の一部として誕生した”通称”アアルトベース。SAVOYでの食事体験において、この花瓶がただの装飾ではなく、空間全体の思想を体現する要素であることを知ると、さらに感動が深まります。
陽が傾きかけた時間帯の店内。「SAVOY」の設計デザインで誕生した「アアルトベース」が置かれていたが、ここでの食事体験を通して、この花瓶がただの装飾ではなく空間全体の思想を体現する要素であることが理解でき、さらに感動が深まった

アアルトの小さなミュージアムのような場所

「SAVOY」は、質の高い料理や接客はもちろん、インテリアそのものにも深い魅力があります。空間はもちろん、照明、椅子、テーブル、手すり、クロークに至るまで、すべてがアアルトのデザイン。入口から席に着くまでの間ですら、まるで小さなミュージアムを歩いているような感覚でした。レストランとしてここまで空間体験を楽しませてくれる場所は、そう多くはないだろうと思います。

これだけ楽しんで、夫婦2人で約340ユーロ

さて、気になるお会計はというと、5品コースが一人130ユーロほど。それに飲み物を加えて、夫婦2人で340ユーロ程度(日本円で57,000円ほど)でした。

もちろん気軽に行ける価格帯ではありませんが、この特別な空間で、美味しい料理と素敵な時間を過ごせるなら、個人的にはむしろ適正以上。記念日や特別な夜に、全力でおすすめしたいレストランです。

見ての通り夕日に染まって煌めいていた食後のコーヒーセット
見てのとおり、夕日に染まって煌めいていた食後のコーヒーセット

五感のすべてでアアルトの世界観を
味わえるレストラン

「SAVOY」はまさに、「五感のすべてでアアルトの世界観を味わえるレストラン」でした。アアルトの世界にどっぷりと浸かり、その空間の心地よさに身をゆだねる。妻もアアルトデザインを全身で堪能して大満足してくれたようで、Artekの家具や照明の購入を検討してくれることに。ありがたや…。

次は冬に訪れてみたい、と密かに考えています。雪に包まれたヘルシンキ、白く沈んだ空、少し厚手のコートをまとってレストランへの道を歩く。その夜に出てくる料理や、窓から見える景色はきっと、夏とはまた違った味わいになるはずです。その時を想像するだけで、またひとつ旅の楽しみが増えますね。

フィンランド建築の巨匠、アルヴァ・アアルトが手がけたレストラン「SAVOY」。1937年の開業以来、街の中心に静かに在り続けるこの空間は、ただの老舗高級レストランの枠に収まらない、圧倒的な魅力に満ちていました。

Related articles関連記事