最終回「連載を終えるにあたって」
30年以上にわたって在来木造住宅の高断熱・高気密化を研究し、性能とデザインは両立できることを説き続けてきた鎌田紀彦氏。高断熱・高気密住宅の建築コストの適正化にも取り組み、現在、暖房エネルギーが1/2〜1/4で済むような高性能住宅が、普通の人でも十分手の届く価格でつくれるようになっています。 この連載では、氏のこれまでの活動の中で設計した住宅、あるいは氏と共に新住協を支えている会員の設計などを紹介しながら、そこから生まれた新しい技術や、高断熱・高気密住宅ならではのデザイン、計画手法を紹介していきます。
目次
この連載を始めてもう11年も経ちました。Replan創業者であり、当時の編集長だった三木さんに、Replanに掲載される住宅があまりにもデザイン重視で選ばれているので、私はもっと断熱性能に目を向けるべきだと主張していました。寒冷地の住宅ですから、暖かく、快適で省エネ、その次がデザインというわけです。高性能住宅ならではのデザインについて語りたいと、この連載を始めました。この連載に対する評価は皆さんにお任せするとして、最終回は、私が北海道に来て、これまでしてきたことを振り返りたいと思います。
学生時代から室蘭工業大学就職まで
私は学生時代、将来住宅の設計をしたいと建築学科に進み、卒業研究は設計・計画系の研究室に所属しましたが、住宅を一軒一軒設計するのでは、一生かかっても数百軒しかできないと思い、もっと大量の住宅に関わりたいという考えから大学院は工業化住宅の研究をする研究室に進学することにしました。私が設計する、安くて、デザインが良くて、良質の住宅を100万戸ぐらいつくりたかったのです。妄想ではなく夢でした。
修士課程から博士課程に進み、論文は「戸建て住宅比較工法論」と題し、工法による価格競争力についての研究でした。この研究の結論は、大量生産され安くなるはずのプレハブ住宅価格が高く、中規模の在来木造住宅が一番安いという予想外の結果でした。プレハブ住宅は、大量に販売するために、モデルハウスを建て、豪華なパンフレットをつくり、大量の広告が必要で、その経費が莫大なものだったのです。これで、私の夢は早くも破れてしまいました。
将来東京でコンサル系の設計事務所でも開こうと漠然と考えていたのですが、突然室蘭工業大学建築工学科への就職が決まり、1977年に北海道に来ることになりました。
室蘭で寒地住宅の研究を開始
北海道は、日本で一番プレハブ住宅のシェアが低いということを知り、ますます夢は遠のきましたが、逆に在来木造住宅について研究する意欲が湧いてきました。当時、オイルショックの最中で、北海道では少しでも暖かい住宅をつくろうと、行政が先導しながら寒地住宅の研究が行われていました。いくつかの大学や道立の「寒地建築研究所」でも、中心となっていたのは環境工学系の人たちです。私のような建築を研究する構法計画系の人はいませんでした。
最初に取り組んだのは、室蘭の大工が木造住宅をどのようにつくっているかを知るための工事現場の調査です。一方で、寒研や住宅指導センターが出版した、寒地住宅に関する文献も勉強しました。東京にいた私にとって、いろいろな断熱構法の解説資料は初めて見るものでした。
当時の北海道の木造住宅は、オイルショックで灯油価格が急騰したため、灯油を節約すべく、木造住宅に入れる断熱材がほぼ2~3倍の厚さになり、しかしその効果はあまりなく、ナミダ茸による急速な木材腐朽が起こっていて、暖かく省エネで長持ちする住宅への研究が始まっていました。建築学会には「寒地住宅研究会」が設置され、私も参加させていただきました。
構法計画の視点から実験研究開始
気流止めと通気層構法を持つ 高断熱・高気密住宅構法の提案へ
私は、断熱材を厚くしてもどうして暖かくならないのか、また木材が腐る原因は壁の内部結露だろうと当たりを付け、どうしたら内部結露を防ぐことができるかに焦点を絞った実験を始めました。いろいろ試行錯誤の後、大学構内に実験建物を建てて、室蘭の現場調査どおりの壁をつくり観察を始めました。それを改良する構法のアイデアをいろいろ同じように観察しながら、大体の原因と解決方法が分かったのは2~3年後のことです。
図1に示すように、在来木造構法の壁は下部が床下に、上部が天井裏に開放されたつくりになっていることが原因でした。

住宅を暖房すると壁の中の空気が暖められ、上昇気流が生じて断熱材が効かなくなるのです。この気流を止めると、断熱材が効くようになります。
そこで図2のように気流を止める構法を考案しました。

一方、当時すでに発表されていた通気層構法を、断熱材の外側に防風・防水・透湿の機能を持ったシートで覆う構成に改良して、内部結露の問題も解決しました。
結局、在来木造住宅は、家全体で見ると図3のような断熱・気密性能上の欠陥を持ったつくりだったのです。

A:外壁のグラスウールは外側に押しつけられて施工されており、外壁と床、天井の取り合い部は隙間になっている。室温は暖房などで外気より高いため、外壁空洞部の空気は暖められて上昇し天井裏に抜ける。その分、床下から冷たい空気が壁内に侵入する。同時に室内の水蒸気や床下からの水蒸気が壁内に吸い込まれ、壁内や天井裏で結露する
B:間仕切り壁でも外壁と同様に冷気流が生じ、大量の熱と水蒸気が天井裏に抜けていく
C:下屋部の小屋裏換気による冷たい外気は、2階の床下に侵入して2階の床を冷やし、壁内の上昇気流によって2階天井裏に抜けていく
D:室内の幅木、回り縁、額縁まわりのすべての隙間は、壁の空洞部を通じて、小屋裏、床下の外気につながり、住宅の気密性は極めて悪い。また、窓も隙間だらけでガラスの表面温度が低いため、隙間風とガラスで冷やされた冷気流が床面を走り、寒さの原因になっている
これを図4のようなつくり方に変えると、住宅は計算どおりの性能を発揮するようになりました。

A:床は剛床(根太レス工法)を採用し、土台の外側までかけ、その上に間柱受け材を流す。柱まわりの厚物合板の隙間をしっかりふさぎ、壁下部の気流止めとする。間柱受け材は石こうボードや幅木の受け材となる
B:壁上部は、天井の位置に柱間に半割材を渡し、上部の間柱受けとする。これが気流止めとなり、またファイヤーストップともなり、省令準耐火が可能になる
C:C部は下がり壁をつくり、室内側には石こうボードを張る。またグラスウールを充塡し、下屋部の天井断熱材と一体にする
D:外壁外側には構造用合板などを張り詰め、これが隙間を防ぐ気密層となり、同時に耐力面材ともなる。室内側の石こうボードも指定のビスを使い、桁まで張り上げ、耐力面材として施工する。これにより筋交いは不要になり、グラスウールの充填施工が容易になり、性能も上がる
私は、断熱材の厚さを増やし、現状の暖房費を増やさずに家中暖かくなる全室暖房の住宅を、「高断熱・高気密住宅」と名付けて提案し、こうした住宅をなんとか普及させたいと、現在の新住協の前身である新在協を設立しました。1989年のことです。
以来、40年近く技術の普及と改良を続けてきました。図4は、昔提案したボード気密工法やシート気密工法を改良し、2020年に「Q1.0住宅設計・施工マニュアル」としてまとめたものです。この30数年の在来木造住宅の工法的な変化と行政の制度の変化を取り入れ、これからの日本の標準的な工法になると考えています。
私の100万戸の夢は、住宅設計やデザインでは実現しませんでしたが、私の提案した構法で建てられた住宅は、すでに100万戸を超えているようです。
国の省エネ基準義務化とその上位基準等級5~7の施行
私たちの活動に対応し、国は1999年に次世代省エネ基準を制定しました。北海道以外の地域では、全室暖房でも暖房費を増やすことのない「高断熱・高気密住宅」よりかなりレベルの低い基準で、私たちはとても不満に感じました。
そこでさらにレベルの高い「Q1.0住宅」を提唱し、暖房費半減を目指しました。国は、全室暖房を要求するのは北海道ぐらいで、日本には全室暖房は不要などといっていましたが、日本中で全室暖房に近い生活をする人が増え、省エネ基準は「増エネ基準」と化してしまいました。
国が省エネ基準のレベルアップをしないのは、プレハブ住宅や大手ハウスメーカーへの配慮と知って私は激怒していましたが、ようやく2020年に省エネ基準義務化を打ち出しました。しかしそれも見送りを経て2025年ようやく実現しました。国交省はこの30年に近い経緯については強く非難されるべきです。同時に発表された省エネ等級5~7は将来の日本の住宅を形づくっていくものとして注意深く見守っていますが、具体的な内容については大きな疑問を感じることが少なくありません。
現行省エネ基準等級4~7についての疑問
現行省エネ基準に対して私の感じている疑問点を列挙すると、次のようになります。
①等級4で義務化されたがレベルが低すぎる。2030年に等級5を義務化するとしているが、それまでに等級5の仕様基準を大幅に見直してほしい。このままでは計算基準で認定を受けるしかなく、混乱が予想される。
②省エネ基準のUA値算定に関係する基礎断熱の計算方法が、2026年11月から完全改定されることになっているが、あまりにも不完全で使い物にならない。それを補うべく新住協では認定を受けようとしているのだが、300万円もかかると知ってびっくり。
③UA値を中心にした基準はいろいろなひずみを生んでいる。表1と表2に基準となるUA値の比較グラフと等級6・7の暖房負荷の比較グラフを示すが、等級6・7の高性能住宅でも熱交換換気を採用しない住宅の暖房負荷は極めて大きい。


世界中で普及しているドイツのパッシブハウス基準でも、私たちのQ1.0住宅でも、暖冷房エネルギーを計算してその数値を基準としている。UA値をいくら小さくしても、実際の暖冷房エネルギーが削減されない基準では意味がない。
④2013年から導入された一次エネルギー計算は、暖冷房のみならず住宅全体の消費エネルギーを算定するもので、方向としては賛同できるが、その計算プログラムがあまりにもいい加減で、早急に改良すべきであること。表3にその一例を示す。

暖冷房一次エネルギーをWEBプログラムで計算すると、暖房方式によって連続暖房か間歇暖房かが決まる。温水暖房とすると連続暖房となり、ストーブやエアコン暖房とすると間歇暖房になる。冷房はエアコンによる間歇冷房である。
QPEXで計算された全室暖冷房時のエネルギーを一次エネルギーに換算した値と比べると1.5倍ぐらいになり、WEBプログラムの間歇暖冷房とあまり変わらない結果である。QPEXの計算結果が実際とあまり違わないことを考えると、このWEBプログラムは暖冷房エネルギー計算としては使いものにならない。
また、そのほかの設備による一次エネルギーでは給湯が最大となるが、配管や水栓を替えると大幅な削減になるのに対し、ソーラー給湯の削減分はびっくりするほど小さいなど、奇妙な点が多い。
私たちのプログラム「QPEX」で計算した結果に比べてあまりにも大きな数値となっている。QPEXの計算結果は、実際に建設された住宅でかなり高い精度を持っていることが実証されている。
⑤前項の暖冷房エネルギー計算が部分間歇暖冷房で計算されるのは、住宅の省エネ評価としては大きな問題となる。等級4だけの時代から等級5~7の高性能住宅の基準ができ、全室暖房と最近の夏の猛暑化も考慮して、全室冷房負荷でもっと正確な値を算出できるようにすべきと考える。
パッシブソーラー住宅は 等級7のUA値基準をクリアできない
いいたいことはもっといろいろありますが、等級7という極めてレベルの高い基準ができて、それに対して多くの自治体が補助金を出し始めています。レベルが高すぎて工事費がかかり、その割にはあまり暖冷房エネルギーが減らないコスパの悪い基準です。これとほぼ同じ基準が、札幌次世代住宅基準としてかなり前から北海道では実績があります。そしてその補助金を受けた住宅の多くが、UA値の基準をクリアするために窓を小さくした住宅になってしまっています。開口部の熱損失は最新の高性能トリプルガラスでも床・壁・天井よりかなり大きく、窓を小さくするのが基準をクリアする早道となっています。
窓から入る太陽熱を最大限利用して省エネを図るパッシブソーラー住宅は、南面の窓を大きく取るために、到底札幌次世代や等級7のUA値基準をクリアできないのです。日本は世界的に見ても冬の日射量の多い国です。昔から南の窓を大きく取ることが当たり前でした。このような日本の家をねじ曲げてしまう省エネ基準は問題だとしか思えません。
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