1軒のプランに二世帯が住む「完全同居型」

ひと口に二世帯住宅といいますが、図3に示すようにさまざまなタイプがあります。かつて二世帯住宅というと、1つの普通の家に二世帯が住み、寝室以外はすべて共用空間とするのが普通でした。こうしたサザエさんの家のようなタイプを「完全同居型」といいます。

一番シンプルなタイプですが、当然ながらプライバシーが限られるので、相当気を使いながら暮らす必要がありそうです。キッチンや風呂など水まわりもすべて共有ですから、使う時間にも気を使うことになります。サザエさんの家がうまくいっているのは、フネさんの娘であるサザエさんたち「娘夫婦との同居」であり、かつ波平さんとマスオさんの仲が良いおかげでしょう。

図3 二世帯住宅のタイプごとに共有・分離が変わってくる
共有する空間と別々に分離する部屋の取り方によって、二世帯住宅はいくつかのタイプに分類できますが、意外とエネルギーとも関連があることがわかります。キッチン、浴室、リビング・ダイニングを共有または分離するかはタイプを決める際の重要事項です。また完全同居型や部分共有型の多くは水道光熱費が一緒になるため、後で分担でもめることがないよう、エネルギーにかかるコストを減らしておくことも肝心です。
出展:国交省 住環境総合調査(H30)

2軒を合わせて1軒にした「完全分離型」

プライバシーが重視されるようになり、いわゆる「嫁姑戦争」が勃発するようになると、二世帯を完全に分ける「完全分離型」が登場します。玄関も2つに分けて家を完全に分けてしまうタイプで、2階建ての間を壁で区切る場合もあれば、1階は親世帯・2階は子世帯と階ごとに区切るプランもみられます。

当然プライバシー確保には有利ですが、本当に2軒の家を1つに合体しただけですので、同居しているメリットが少ない、という問題が出てきます。家全体のサイズも大きくなり、建設コストもかかります。いざ売却となったときに買い手を選ぶため、資産価値にも影響が出てしまいます。

いいとこどりを狙った「部分共有型」

完全同居型も完全分離型も問題がある、という中で、プライバシーと共住のバランスをとった「部分共有型」が広がっています。キッチン・風呂・リビング・ダイニングを共有するか別にするかで、さまざまなバリエーションがあります。上手に設計すれば、建設コストを抑えつつ、広々とした共住空間をつくることも可能です。現在では最も一般的なタイプですが、上手な設計とともに、建物性能や省エネにも気を配る必要があります。

家中まるごと暖冷房で、どちらの世帯も健康・快適に

完全同居型や部分共有型では、家のどこかに誰かしら在室している時間が長くなります。そして「ヒートショック」や「熱中症」など、室内環境による健康リスクが広く知られる中、「いつでもどこでも」適温に保つことは、もはや贅沢ではなく生活の基本というべきでしょう。

多くの人数が異なる生活スケジュールで暮らす二世帯住宅では、エアコンの設定変更は結構気を使うでしょうし、なにより面倒です。いっそ冬や夏の間は空調をつけ続ける24時間全館空調にしてしまえば、気を使うこともありませんし、なにより快適です。ただし、暖冷房にかかる熱負荷は当然大きくなりがちなので、しっかりとした建物の性能確保が重要なことはいうまでもありません。

水道光熱費の分担にご用心。初めの省エネが肝心

そして完全同居型や部分共有型の二世帯住宅に住んだ後に意外と大きな問題になるのが、電気代・ガス代や水道代などをどう二世帯で分けるかという「水道光熱費分担問題」です。エネルギーを大量に消費して電気代やガス代・水道代が高額になると、結構シビアな問題になってしまいます。

「あなたが毎日風呂に入っているから」「そちらが照明をつけっぱなしにするから」と批判の応酬となってしまっては、せっかくの共住も台無しというもの。快適な生活は送りつつ、水道光熱費を安く抑えることができれば、単純に折半したり、余裕がある方が全額持ってくれたりと、円満な解決が期待できます。

水道光熱費を安く抑えられるよう家を建てる時にしっかり考えておくことは、幸せな二世帯住宅のプランニングに、結構重要なのかもしれません。

共住による省エネで、トータルコストをお安く

図4に、家庭のエネルギーコストを示しました。当然ながら集合住宅より戸建ての方が大きく、世帯人数が多い二世帯の戸建て住宅を建てるのであれば、省コストが切実な問題です。

家族人数が増えると住宅全体のコストが増えるのは当たり前ですが、1人あたりで見ると逆に少なくなります。生活の共有はムダを減らし、水道光熱費の低減にも役立つのです。

お風呂のお湯を共有するのは今どき無理だとしても、共有空間の家電や照明・暖冷房などはみんなでシェアした方が効率的。共住のメリットを活かして快適な生活をリーズナブルに送れることは、二世帯住宅のあまり知られていない魅力かもしれません。

図4 燃料別エネルギーコスト 戸建住宅では特に注意
エネルギーコストは戸建住宅のほうが大きく、大きい家ほど省エネが重要になります。世帯人数が多いほど家全体のコストは増加しますが、1人あたりでいえば減少しています。みんなで一緒に暮らしてシェアすることは、住宅コストや生活費の低減だけでなく、省エネや水道光熱費削減にも有効なのです。
出展:家庭部門のCO2排出実態統計調査(全国平均)

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