「最終案」で修正された項目

あり方検討会の紛糾、再エネTFでの河野大臣の強い叱責を受けて、さすがの国交省も(渋々?)方針を転換し、8月10日の第6回あり方検討会に最終案を提出します(図2)。

図2 8月10日 あり方・進め方(最終案)

まず冒頭に、検討会の設置趣旨にあったにも関わらず素案になかった「2050年」の目標が明記されました。この2050年目標の内容が十分かは大いに疑問ですが、まずはバックキャスティングへの試みが始まったことを評価すべきでしょう。

さらに、2030年の目標について、意味不明瞭だった「平均でZEH」は、「ZEHレベルの断熱と省エネ20%を適合義務化」、つまり新築のすべてに必須とすると変更されました。また、従来はまったく示していなかった太陽光の普及目標は、2030年に「新築戸建ての6割」と明記されました。ZEHを超える断熱の上位等級については、鳥取県など先進的な事例を紹介し、多段階の水準を整理する、とされました。残念ながら具体的な結論はなく、どのような水準が「整理」されるのか、今後も注視する必要があります。

住宅の脱炭素は国交省の責任と明記

さらに、最終案では「国土交通省の役割」なるものが明記されました。住宅の脱炭素化に向けて、省エネや再エネの普及は国交省が最終的な責任を持つ、ということですね。今頃になってわざわざ明記するということは、今まで誰も責任を持っていなかったことの裏返し。今後は、今までのような無責任は許されないということですね。

住宅ローンと減税で断熱と太陽光の恩恵をすべての人に

あり方検討会の最終案は前述のように、省エネや再エネについて一定の進歩が認められるものでした。一方で、省エネや再エネの恩恵を広く届けるためには、初期コストの上昇をどうするのかが心配になりますね。省エネや再エネの恩恵である「暖かく涼しく電気代の心配のない」暮らしをみんなに届けるための支援策が重要です。
断熱や太陽光のコストは、初期コストとランニングコストのセットで考えることが肝心です。太陽光発電で毎月1万円、断熱で毎月5千円の光熱費を削減できれば、毎年18万円。一般的な住宅ローン返済期間の35年間では630万円になり、初期コストを回収した上で利益まで出るのです。

つまり、断熱や太陽光はライフサイクルではペイするので、初期コストの上昇をどうカバーするかが課題です。最終案では「補助制度に加えて融資や税制の支援」が明記されています。住宅ローンの与信枠拡大や減税などの政策が実施されることが期待されます。


今回は、脱炭素に向けた最新の動きをまとめてみました。前向きな動きも一部ありますが、必ずしも楽観できるものではありません。

先の検討会でも、多くの委員は国交省の「素案」に早々に賛成の意思を表明していました。その多くは2020年の省エネ基準適合義務化の見送りにも賛成しており、それが日本の住宅の省エネ・脱炭素をゆうに5年は遅らせたのです。

大事なことは、家を買う人が家族の将来に備えて、しっかりとした家を選ぶこと。この連載では、引き続き「暖かく涼しく電気代の心配のない」暮らしについて考えていきます。


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