vol.51 太陽の光で家を明るくしよう

公開日:2026.10.10 最終更新日時:2026.10.10

さらなる省エネ・省CO₂が住宅の重要なテーマとなる寒冷地。 本企画は、独自の視点から住宅性能研究の最前線を開いている、東京大学の気鋭の研究者・前 真之准教授に、「いごこちの科学」をテーマに、住まいの快適性能について解き明かしていただきます。 シーズン1に続く第2弾として2015年からは、それまでの連載の発展形「いごこちの科学 NEXT ハウス」としてリニューアル。 「北海道・寒冷地の住宅実例から考える室内環境について」をテーマに、断熱、開口部、蓄熱など、さまざまな視点から寒冷地における室内環境の改善ポイントを解説しています。

いごこちの科学 NEXT ハウス

東京大学大学院工学系研究科 建築学専攻・准教授 前 真之 (まえ・まさゆき)東京大学大学院工学系研究科
建築学専攻・准教授
前 真之 (まえ・まさゆき)


住宅の室内環境に影響を与える要因の一つとして「光」が挙げられます。今回は照明なしでも太陽の光が室内に満ちた「明るい家」にする方法を考えます。

ナフサショックと震災

前回(Vol.50)は、ナフサショックについて取り上げました。幸いにして少し落ち着きを取り戻し、一時期に比べれば樹脂製品の欠品は少なくなったようです。ただし、今後はさらなる価格高騰が避けられないとささやかれています。

さらに2026年7月28日に熊本で発生したマグニチュード7.1の大地震では、3万棟を超える建物が倒壊。被災した人たちの多くは猛暑の中、冷房がない避難所で苦しい暮らしを強いられました。みんなの命と健康を守るために、建物の改善はまさに最優先の課題であることが、再度確認されることになりました。

冬も夏も健康で快適に暮らすためには、建物の性能向上とともに、エアコンなどの設備とエネルギーの課題を地道に解決していく必要があるのです。

照明なしでも明るい家

国の内でも外でも、何かと暗いニュースが続く昨今。せめて家の中は明るく楽しくあってほしいものです。

夜中に室内を明るくするには、当然ながら照明設備の選択やレイアウトが重要です。でも「明るい家」と言えば、外からの太陽の光で室内が照らされて、昼間は照明なしで気持ち良く過ごせる家をまず期待するもの。今回は、太陽からの自然光を上手に利用した明るい家のつくり方を考えましょう。

「日当たりのいい家」=「明るい家」ではない

太陽の光が入るというと、「日当たりの良さ」をイメージする人が多いと思います。南窓から日射をたっぷり採り入れて室内が暖かい「日当たりのいい家」は、冬でも晴天に恵まれる太平洋側では特に重視されてきました。しかし、「日当たりのいい家」と「明るい家」は似ているように見えますが、実は少し違うのです。

日当たりは直達光で決まる。ただしハードルは高い

まず、太陽の光は2種類あることを確認しておきましょう(図1)。

図1 「日当たりのいい家」よりも「明るい家」の方が実現しやすい。空全体から降り注ぐ天空光の活用がカギ!

太陽本体の光球から直接強烈に降り注ぐ「直達光」と、雲や湿度で拡散されて空全体から降り注ぐ穏やかな「天空光」です。

一般に「日当たりがいい」ということは、直達光がよく届くことを意味します。寒い冬に室内を暖かくするには、直達光の強力な熱が必要なのです。ただし、冬には南中時の太陽高度が30度近くまで下がってしまうので、隣接する建物に簡単に防がれてしまいます。冬場の日当たりを確保するには、建物の形態規制が厳しい低層住居専用地域などの用途地域では、南の隣棟からなるべく距離を離す必要があります。

詳しくは、本連載のVol.29(住宅地での日当たりを考える)やVol.40(家の敷地選びでは「用途地域」に注目しよう)をご参照ください。

明るい家の実現は容易。自然光の主役は天空光

日当たりのいい家は多くの人がほしがりますが、敷地の用途地域や広さによっては、残念ながら諦めなければならない場合も多いのです。冬に低高度の太陽から直達光を確保するハードルは、特に都市部では高くなりがちです。

一方で、明るい家を実現することは、実ははるかに簡単。もう一つの太陽光である「天空光」は、空全体から降り注ぎます。簡単にいえば「空が見える窓」ならば、容易に天空光を採り入れることができます。この天空光こそが、自然光利用の主役なのです。

直達光はまぶし過ぎ。天空光は目に優しい

直達光は部屋を暖めるほどのエネルギーを持っており、非常にパワフル。しかし、光としては強すぎて、直接見たら目を傷めてしまいます。視界に太陽が入り、強烈な直達光で目がくらんだ経験は誰もが持っているでしょう(図2右)。

図2 まぶし過ぎずに室内を穏やかに明るくするには「太陽は見えずに空だけ見える窓」が一番!

この強烈なまぶしさを「グレア」と呼び、強い不快や見えにくさの原因となります。直達光はブラインドやスクリーンなどで拡散させない限り、自然光利用には向かないのです。

天空光は空全体から穏やかに降り注ぐので、目に優しく自然光利用に適しています。ただし、空が見えていない窓からは、自然光はほとんど入りません(図2中央)。直達光は入らず、天空光はしっかり入る「太陽は見えずに空だけ見える窓」(図2左)が、「採光」には最高です。

建築基準法の採光規定

採光や通風のために、窓は欠かせない建築の重要パーツです。国も建築基準法において、採光のために必要な窓の大きさを規定しています(図3)。

図3 建築基準法の採光規定だけでは明るい家を実現するにはちょっと力不足

最低限確保すべき窓の大きさである「必要採光面積」は、住宅では床面積の1/7が基本です。この値を超えるよう「有効採光面積」を確保する必要があります。こちらは窓面積に採光補正係数をかけたもので、隣地境界との距離と庇等の建物上部形状を考慮したものになっています。まさに、天空光の採り入れ、つまり前述の「空の見えやすさ」を考慮した形になっています。

建築基準法の規定はすべての住宅で守る必要がありますから、室内の自然光利用はそれなりに確保されてきたといっていいでしょう。とはいえ、建築基準法でカバーできていない点も当然あります。室内をさらに明るく感じられるコツを、いくつか見ていきましょう。

照度は面を照らす光の量

明るさの指標というと、まずは「照度」が思い浮かびます。ルックス(lx)という単位を知っている人も多いでしょう。例えば「机の上が本を読むのに十分明るいか?」が知りたければ、この照度を測ることで判断ができるのです(図4)。

図4 照度は面を照らす光の強さで、輝度は目に飛び込む光の強さ。明るさ感の確保には視界全体の輝度分布が大切

照度は、机などに入射する「面を照らす光の量」を表します。机の上の照度の値が500ルックスより大きければ、本が適度な光の量で照らされるので、目の負担を減らすことができます。最近では、スマホのアプリで照度計測が簡単にできますから、身近な作業場所の照度は確認しておくといいでしょう。

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