一般的な断熱改修工法は、ほとんど効かないことを論証する

この計算結果から、一般的によく行われる断熱改修の手法がいかに効かないかが理解できます。

●内窓をつけると暖かく省エネになる?
内窓がエコポイントの対象になったため、サッシメーカーは急いで品揃えを進め、相当な売り上げになったようです。確かに、今までの窓の寒さは軽減され、気密材が劣化して隙間だらけの窓が、気密性をある程度備えた新しい内窓によって隙間風も少なくなりますから、その部屋の快適性は若干向上します。しかし、家全体で見ると、1A~4Aまで、開口部の熱損失はそれほど大きくはありませんから、これが多少改善されてもその効果はあまり大きくはないのです。開口部の熱損失が一番大きな1Aのモデルにシングルガラスの内窓を設置すると2Aになります。2A~4Aのモデルで、内窓を設置しても損失はそれほど減らないことはおわかりでしょう。

●天井に断熱材を増やすと省エネになる?
天井は、開口部よりさらに熱損失は少ないのであまり住宅全体の性能は変わらないことはおわかりでしょう。部屋単位で考えても、壁から大幅に熱が逃げているのであまり変わらないのです。ただ、天井の断熱施工の前に、壁上部に気流止めを設置した上で天井の断熱材を追加施工すると、これはかなりの効果があります。

●外壁にさらに断熱建材を張れば暖かくなる?
外壁の壁に施工された断熱材の室内側で、冷たい風が流れていて寒いのですから、その外側に断熱材を追加してもほとんど効かないことは、計算結果を見なくてもおわかりですね。これも外壁の工事を行うに当たり、壁の上下に気流止めを設置してから行うと、その効果は絶大なものになります。

このように、世間にはあまり効かない改修工法が、あふれているのです。まず気流止め施工を大前提にして、その上で窓の強化、床・壁・天井の断熱強化を行えば、省エネ基準住宅はもちろんQ1.0住宅も実現できるのです。もちろん、リノベーションには予算の限界があります。気流止め施工だけならそんなにお金がかからずに、大きな効果が得られます。住宅全体にこのような改修を行えば、多くの事例では、実質生活空間が縮小して、例えば2階はあまり使わないようなら、2階の温度を15℃ぐらいに低く抑えれば、これまでとあまり暖房費が増えずに快適な暖房が可能になります。

効果のある断熱改修は誰でもできるか

このような改修工事が、世の中で一般的に行われるようになることを私は望んでいるのですが、なかなか難しいようです。まず、新築の高断熱住宅を、その仕組みをきちんと理解して、つまり、気流止めの大切さをきちんと把握して実行している工務店と大工さんが必要です。新築に比べて、既存住宅の改修では、現場で工事が進むと予想しなかった構造などにぶつかります。ここを、臨機応変に対応できる技術が必要になり、新築の高断熱住宅より高い技術レベルが求められます。

新住協の会員の中には、断熱・耐震同時改修工事を数多く工事している人たちが、たくさんいます。改修事例を見学してみてください。

この「家」にしてよかった。断熱リフォーム編

新住協の事務局長を長く務めて、会員の造る住宅をよく見ておられる会澤健二氏が執筆した、『この「家」にしてよかった。』という本があります。建て主さんと新住協の会員工務店や設計事務所が出会い、いろいろな希望を実現してその家に暮らし、どう感じているかなどを、実際の取材を通してまとめられた本です。すでに4冊刊行されており、この中の最新号が断熱改修の特集です。内容の概略を表2に示します。全部で16の事例がまとめられていますが、私が読んでもいろいろ考えさせられる内容で、私たちの技術が実際にとても快適な暮らしを実現している様に感動してしまいます。

表2 この「家」にしてよかった。 vol.4:断熱リフォーム編
表2 この「家」にしてよかった。 vol.4:断熱リフォーム編

この中の、最後の第76話は築40年近い全く断熱材の入っていない住宅の改修です。新住協の会員である設計事務所、工務店、メーカーが協力して、困難な工事を完成させました。これに関わった人たちが、それぞれの立場から手記を寄せています。リノベーションを考えておられる方には、ぜひ読んでほしい本です。

これらの事例が、ごく当たり前に、日本中のリノベーションで実現していくことを切に願っています。