太陽光発電の電気代節約効果 どの地域でも超強力

電気代の高騰は家計に大きな負担となっています。系統から購入する電気を削減する節電は必須ですが、目に見えて大きな効果があるのは、やはり太陽光発電です。図3の条件に従い、標準的な容量5kWの太陽光発電を2019年に設置した住戸について、電気代を計算しました。発電量は全国のZEH統計データより代表都道府県での実績値を用い、発電量の約30 %を自家消費したと想定しています。

図4をもう一度見てみると、太陽光発電による電気代の削減効果は、いずれの地域でも非常に大きいことが確認できます。雪の影響が多いといわれる北海道・東北・北陸においても、年平均としては十分なコスト削減効果が得られます。また図3に示すように、太陽光発電の自家消費により削減できた買電の単価は、軒並み40円/kWh以上と高額です。電気代が高騰する中で、太陽光による節電メリットはかつてなく大きくなっているのです。

燃料費調整単価はなぜ電力会社によって違う?

これまで燃料費調整単価の変化を見てきましたが、全国10の電力会社によって上昇幅は大きく異なっていました。その理由を考えてみましょう。vol.034でも触れた化石燃料の高騰ですが、最近ではさらに進んでいます。図5に示すように、燃料費の直近最安値からの上昇率は、天然ガスで4.5倍、石油で5.2倍、石炭で6.9倍に達しています。世界的な資源高に、円安の進展が追い打ちをかけているのです。

図5 燃料の3ヵ月平均の貿易統計価格
出展:東京電力

各電力会社はこの燃料費に係数をかけて、燃料費調整単価を算出します。この係数は、各社の電源構成を反映しているのですが、図6に示すように会社ごとに大きく異なります。

図6 2021年度 全国10電力会社の電源構成

天然ガス(LNG)や石炭の割合が大きい東北電力・東京電力・中部電力は、燃料費調整単価の上昇が大きくなっています。一方、水力の割合が大きい北陸電力や、原子力が多い関西電力や九州電力では上昇が抑えられています。  

原子力発電は、燃料が比較的安価で、CO2排出量も少ないなどのメリットがあります。一方で、安全性確保や最終処分も含めたトータルのコスト負担が不透明などの課題があります。化石燃料の高騰を受けてか、原子力の再稼働や運転延長・新増設などが矢継ぎ早に報道されますが、果たして十分な議論と検討が尽くされているのでしょうか。

来年は電力料金大波乱?

図6で分かるように、全国10の電力会社はいずれも2022年度は記録的な大赤字となる見込みです。この赤字の原因は、前述の規制料金の上限に伴う差損だけではありません。燃料費調整制度は1996年に導入されたもので、調整単価の算出に用いる係数は、現在の電源構成を必ずしも反映していません。そのため、現状の燃料費調整単価では燃料費高騰を吸収しきれていない会社も少なくないようです。  

いずれにしろ来る2023年は、ありとあらゆる広範な電力料金の大改訂、大幅な値上げが避けられそうにありません。安い電気に慢心して、省エネや再エネをサボってきた日本にとっては、つらい時代に入ってしまうのかもしれません。

借金頼みの電気代補助 断熱窓と給湯器に期待?

2022年11月に総額29兆円という大規模な補正予算が発表されました(図7)。

図7 住宅関連の補正予算

そのうち、実に2.5兆円が電気代補助に充てられます。1kWh当たり7円の補助で、標準世帯では月2,800円の削減になるとされています。電気代の補助は負担感を一時的に和らげますが、結局はお金がエネルギー事業者や商社を経てエネルギー輸出国に流れ出るだけで、日本国内には何も残りません。

また電気代が安くなると省エネ・再エネの普及が停滞することは、戦後何度も繰り返されてきました。また前述のように電力料金の大幅値上げが認められた場合、値上げ分で補助分があっという間に相殺されかねません。「電力会社が値上げしやすくするために国が補助する」というのは、果たしてうがった見方でしょうか。そもそも、この補正予算は23兆円もの巨額な赤字国債で穴埋めされたものです。今ちょっとだけ楽して対策を先送りするために、次世代にさらなる負担を押し付けていいのか。筆者は大いに疑問です。  

そんな補正予算ですが、一部に期待が持てる部分もあります。特に省エネの推進について、「高断熱窓等の設置」に1,000億円、「高効率給湯器の設置」に300億円が充てられるのは注目に値します。住宅の省エネリフォームは以前から課題でしたが、これまで実効的な政策は打たれてきませんでした。今回、最も断熱効果が大きい窓改修と、最も省エネ効果が大きい給湯器、この2つに集中的に予算がつけられたのは、遅ればせながら国の本気を感じさせるものになっています。

今回は、電気代について全国10の電力会社の実情と今後を考えてみました。来年は電気代のさらなる値上げも予想される「電気代がマジで痛い時代」。その一方で、断熱・省エネ・再エネの価値はますます高まっているとも言えそうです。建設費高騰の中でも、住んでから電気代に困らない家づくりは絶対に諦めてはいけないのです。

 


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