4間×4間の新型プラン

この住宅を、都市部の間口5~5.5間の50坪程度の狭い宅地に建つ、庶民の家として考察してみたいと思います。堀部さんには何のお断りもなく私の個人的な見解です。このような目的のプロトタイププランとしてこのプランを見て、私はびっくりしました。

1階平面図

ヴァンガードハウス「これからの家」の平面図
ヴァンガードハウス「これからの家」の平面図

4間×4間の正方形を田の字に切ると2間×2間の8畳間になります。2間=3640㎜は木材の寸法に合い、住宅も安くできるため、ほとんどがこの田の字プランを基にしたバリエーションが多いのです。これに対してこのプランは、4間を1.25間(7尺5寸=2275㎜)と2.75間に縦に分割し、この1.25間にサニタリーやキッチンなどを配しています。

実は、この1.25間という寸法は、最近の奥行の深いキッチンセットで2列配列したり、広い1.25坪タイプのバスユニットの寸法であったり、ゆとりのある機能空間を構成することができる寸法です。一方2.75間のほうはリビングの広さや2階の個室群の設計の自由度を増すのに役立っています。8畳間を越えた広々とした空間ができていますし、2階は将来の改築時には自由度も高く、またこの新築時でもいくつかのバリエーションが可能なのです。私も不勉強でこのタイプのプランは見たことがなく、びっくりしました。

そして南北に大きな開口を設け、東西の隣家に面する壁には最小限の開口部という構成は都市型住宅としても好適でしょう。南北に大開口を持つこの構成は、都市型住宅ではどちらかの開口部を小さくせざるを得ません。南側道路の場合は北のダイニングの窓を小さく、北側道路の場合はそれの逆になるでしょう。また、階段部の出っ張りも階段を中に入れ込んでなくさないと敷地に入らない。こんなことを言ったら堀部さんに叱られそうですが、それほどこのプラン型は魅力的と思います。

矩計図

建築家が設計した建売住宅

この住宅は建売住宅です。施主という存在を前提にその個性や生活、人生観、そしてその立地環境など総合的な情報からイマジネーションを膨らませるのが、建築家の家づくりと思います。それが今回は自然豊かな立地は把握できても、施主は存在しません。堀部さんはこの住宅の買い手が決まったらぜひ会ってみたいとおっしゃっています。一方、私たちはこのプランの住宅が日本中に多数建設されると良いなと考えています。日本中に100戸、いや千戸、1万戸建つことになったら堀部さんはどう思うでしょうか。庶民の住宅を提案するということはそこまでの事態もありうるのです。

かつて、ミサワホームのO型という企画プランの住宅がありました。5間×5間の総2階・50坪という大きな家にもかかわらず、シンプルだが彫りの深いアメリカンデザインが受け、ワンプランで1万戸以上売れました。高名な建築家である篠原一男さんが企画住宅を名古屋のハウスメーカーの要請でつくったのですが、これはあまり売れなかったといいます。どういうデザインになったか私は知りませんが、篠原さんのあのストイックな空間は、誰もが住める空間ではなかったかもしれません。

高性能住宅の断熱性能と温熱環境の良さを生かした空間構成を持ちながら、その上、コスト的にも安くできる住宅のデザインはある程度限定されるでしょう。堀部さんのブランドでロイヤリティをきちんと確保した上で、このプランの家が日本中に1万戸、全国に散在する技術力のしっかりした工務店の手で供給されるというのは夢なのでしょうか。