窓開け換気ができない 空気もひどく汚れている!

無断熱教室の問題は、温度の高さだけではなりません。私たちが生きていくのに欠かせない空気も、ひどく汚れてしまっているのです。空気の汚れは、CO2(二酸化炭素)の濃度で表すのが一般的です。外気のCO2濃度はおおよそ500ppmですが、教室の中では人の呼吸によりCO2濃度は上昇します。文部科学省の基準ではCO2濃度1,500ppm以下が望ましいとして、室内の空気質を保つ適切な換気が求められています。

ところが、実際に教室のCO2濃度を計測してみると、授業中はCO2濃度が基準の1,500ppmはおろか、倍の3,000ppmすら超えており、空気がひどく汚れてしまっていることが分かります。この原因は「換気不良」。冷房をなんとか効かせようと窓を閉め切るため、屋外の新鮮な空気を取り入れて室内の汚れた空気を排出する換気ができないのです。  

こうして実際に計測してみると、無断熱の教室はエアコンをフルパワーで動かしても冷房ができない原因がはっきり分かります。また、窓を開けるとますます冷房が効かなくなるため窓を閉めざるを得ず、換気ができずに空気質が極端に悪化していることも確認できました。

断熱改修の3点セット

無断熱の教室は、単に高温というだけでなく、呼吸に欠かせない空気の汚れという意味でも子どもたちの健康を脅かしていることは明らかです。ではどうすれば解決できるのか。その答えも連載を読んできた皆さんはご存じですね。そう、住宅と同じように「断熱改修」をすればいいのです。  

実際に埼玉県の小学校で行われた断熱改修の概要と、その効果を図6に示します。屋根からの日射熱を防ぐため、「天井断熱」として断熱材をしっかり充填。「窓の日射遮蔽」は、本来はガラス外側での対策が望ましいのですが、今回は管理上の都合から反射板をガラス内側に設置しています。併せて、教室内のCO2濃度に応じて換気扇を制御し、空気質を維持しながら過剰な換気を抑えて冷房が効くようにする「デマンド制御」も取り付けました。

①天井断熱により屋根の日射熱侵入が減少するので天井温度が低下
②天井と窓からの日射熱が減少したので冷房がよく効くようになり室内環境が大きく改善
③窓の日射遮蔽で太陽熱を遮断
換気量のデマンド制御により、過剰な換気を抑えつつ空気質を確保

図6 断熱・日射遮蔽・適正換気」断熱改修で教室の温度と空気質は大きく改善!
教室の暑さに苦しむ子どもたちを見かねた先生に相談されて、地元埼玉の住宅のプロが立ち上がり、断熱改修が行われた実例です。天井・壁の断熱、窓の日射遮蔽、換気のデマンド制御の3つを組み合わせることで、温度と空気質を大きく改善することができました。
「さいたま断熱改修会議」https://www.saitama-dannetsu.com

断熱改修は効果絶大! 温度と空気質を一挙に改善

こうした断熱改修3点セットの効果は絶大です。無断熱の教室は冷房を付けても温度が下がらなかったのが、改修後は冷房の効きが大きく改善。違いを体感した子どもたちからも「涼しくなった」「冷房がよく効くようになった」と喜びの声が多く聞かれました。

 断熱改修を行った教室での計測結果を見ても、改善効果を確認できます(図7)。

①冷房を付けると室温が早く下がっている
②断熱された天井温度は太陽高度が高い昼以降も湿度が低く保たれている
③エアコンの吹き出し温度が最低12℃程度で無断熱教室より高い→エアコンの熱負荷が減少している
①文部科学省指針のCO₂濃度1,500ppm以下をおおむね維持
換気のデマンド制御でCO₂濃度が高くなったときだけ換気扇を動かすことでムダな換気を減らしながら空気質を維持

図7 断熱と換気を直せば温度と空気質の両方を快適・健康な範囲に
室温は文部科学省指針の28℃までは届いていませんが、断熱により天井の温度が下がっているため、学生は暑さが和らいだと感じています。
またCO₂濃度に応じて換気量を変化させるデマンド制御により、過剰な換気を抑えつつ、エアコンの吹き出し温度も高くなっており、冷風を強く吹き出さなくても冷房ができるようになり、冷房で除去する熱負荷も減少し省エネになります。
出展:埼玉県の断熱改修が行われた小学校にて2023年7月19日~21日に筆者計測

冷房を付けた後の室温の低下が改善されており、特に断熱された天井の温度が大きく低下していることが分かります。室温は基準の28℃には達していないものの、天井も含めた室内全体が適温になっているため、無理にエアコンに冷風を吹かせなくても快適に過ごせるようになりました。「天井断熱」と「窓の日射遮蔽」の効果がハッキリ分かりますね。

さらにCO2濃度を見てみると、文部科学省基準の1,500ppm以下を常に維持できていることが分かります。必要な分だけ確実に換気する「デマンド制御」により、冷房の効きと空気質が両立できました。教室はたくさんの学生が一緒に過ごすので、適切な換気は特に重要です。まして我々はコロナという大きな困難を経験した後なのですから、大人数が集まる空間の空気質に注意を払うべきなのは言うまでもありませんね。

学校でも住宅でも 3点セットは共通

この教室で効果が実証された、「断熱」「日射遮蔽」「適正換気」の3点セットは、この連載で繰り返し取り上げてきた住宅での夏の対策とまったく共通です。何をやるべきかはすでに明らかです。あとは、その分かりきった対策を確実にやっていくだけです。今、現実に困っているたくさんの子どもたちの健康を守るため、直ちに行動しなければなりません。

学校もエコ3点セットで健康快適で電気代も安く

「断熱改修したくてもお金がない」という声が聞こえてきそうですが、実は断熱改修は非常にコスパのよい対策です(図8)。

図8 学校の断熱改修はメリットいっぱい!エアコンのコンパクト化と太陽光発電と組み合わせればトータルコストも大幅削減
子どもたちはいる場所を選べない以上、健康で快適な環境を大人が責任をもって用意することが当たり前ではないでしょうか?断熱改修とエアコンのコンパクト化、さらに太陽光発電を組み合わせることで総コストも安くできるのですから、やらない手はありません。

断熱と日射遮蔽・適正換気で冷房の熱負荷を減らせば、エアコンの電気代を削減でき地方自治体の負担を減らせます。さらに大容量のエアコンが必要なくなり、小型で安価な機種で十分になるので更新や修理にかかるコストも大きく削減できます。

そして昼間にだけ使われる学校は、昼間に電気をつくる太陽光発電との相性が抜群。太陽光発電でエアコンの電気を賄うことで電気代の負担を限りなくゼロにでき、脱炭素にも大きく貢献します。トータルで考えればコスパは非常に良いのは明らかで、何より子どもたちが健康・快適に過ごせるようになるのですから、その価値はまさにプライスレスといえるでしょう。

今求められているのはこうした、課題をキチンと解決して国民みんなを幸せに豊かにする、本質的な解決。電気代補助のように問題を先送りするだけのゴマカシではないはずです。

「断熱」「設備」「太陽光発電」のエコ3点セットを組み合わせることの重要性も、この連載で繰り返し述べてきたとおりです。住宅と学校というように建物の種類は違っても、基本は共通。こうした学校の断熱改修の取り組みが今、ボランティアの人たちによって全国に広がっています。すべての教室が断熱改修されて、子どもたちみんなが健康で快適に学べるよう、国や自治体の本腰を入れた対策が期待されます。


学校の断熱改修への署名のお願い

今回の記事でも触れたように、全国の教室で子どもたちが耐え難い暑さと
空気の汚れに苦しんでいます。
すべての学校の教室において断熱改修が速やかに実施されるよう、
文部科学省と全国の知事に要望する署名運動が行われています。
ご賛同いただける方は、ぜひご協力をお願いします。

学校の断熱改修への署名はこちらから。


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