等級7は、省エネ基準のUA値簡易計算法等で思いがけない結果になる

省エネ基準の等級7は、HEAT20のG3基準を採用しています。この基準を決めるにあたっては、SimHEATというプログラムを使って厳密に分析されているといいます。したがって、私たちもQPEXの詳細計算によって、表1の断熱仕様をつくりました。

表1 省エネ基準等級6と等級7およびQ1.0住宅レベル-3、レベル-4の各部断熱仕様と暖房エネルギー計算結果(kWh)

しかし、少し気になっていることがあります。省エネ基準のUA値の計算方法は細かな規定があり、その規定によって計算すると、QPEXの計算結果とは少し異なってしまうのです。暖房負荷をできるだけ正確に推定計算するには、QPEXの詳細計算しかないのですが、基準をクリアするためのUA値計算は別物なのです。

UA値計算でQPEXと異なる結果をもたらす要因は次のとおりです。

①屋根と外壁の断熱に付加断熱を施工する場合は、付加断熱材のR値を、下地木材の木部比率とは関係なく、一律90%で各部位のU値を計算する  
②基礎断熱の熱損失計算は平成25年に改正された計算式を使う  
③開口部の幅と高さの寸法は、従来のW×Hとするか、呼び寸法のw×hのどちらで計算してもいい  

①の付加断熱をする部位の熱貫流率は、部位全体の木部・断熱部の面積比を考慮した複雑な計算を行っていました。付加断熱部を一様な断熱で計算すると5〜10%程度U値が小さくなるようです。  

②の基礎断熱熱損失は、平成25年に改正されたときに計算結果が従来の平成14年式に比べて半分以下になることから、間違いがあるのではと国交省に問い合わせをしたのですが、返事はなく、そのままになっています。2025年義務化を控えて、修正された方法もできてきたようですが、今でも平成25年式が有効かつ大勢です。

③の開口部については、計算の理屈からはW×Hでなければならないのですが、それより小さい寸法のw×hの方が数値の切りがいいため、計算が多少楽だという理由しか見当たりません。サッシ協会で、意味不明な呼び寸法を決めたことに配慮しているのかもしれません。これにより開口部の面積数値が小さくなり、熱損失が減ります。  

この計算方式を、Q1.0住宅レベル−4のUA値計算に当てはめてみたのが表2です。

表2 QPEX詳細計算と省エネ基準の計算方式によるUA値の違い

省エネ基準の計算方式による違いをはっきりさせるために、屋根断熱、基礎断熱の住宅を対象としました。

住宅は、表1の120㎡モデルプランです。表1は天井断熱、床断熱なので、ここでの数値は表1と多少異なります。  

屋根と外壁の熱損失が木部比率の簡易計算によって若干小さな値になっていますが、外壁には開口部の面積が小さくなった分が外壁にまわって、外壁面積が少し大きくなっている分を考えると、結構大きな違いです。

基礎断熱の熱損失は、半分以下に大幅に減少しています。問題は、平成25年式では、土間下全面断熱の計算ができないのです。土間下断熱なしの構成を、QPEXでは平成14年式で計算して表中に22.76と表示していますが、これが平成25年式では7.13になります。開口部も面積が小さくなり大幅に小さくなっています。以上の結果、UA値はなんと17%も小さく、0.196になり、等級7をクリアしてしまいます。

とても厳しく、工事費もかなりかかるはずの等級7が、実は計算ではそれよりずっと少ない工事費でできるQ1.0住宅レベル−4とまったく同じ断熱仕様でクリアできてしまうのです。

さらに厳しい札幌版次世代住宅プラチナ基準も設計を変えずにクリア

等級7よりはるかに前から札幌市が実施している札幌版次世代住宅基準は、さらに厳しい基準として知られていますが、UA値の計算は省エネ基準と同じです。といっても、UA値が0.18と厳しいため断熱材をHGW20㎏の高性能品に変え、サッシもフレームにウレタンを充填した高性能サッシに変える必要はありましたが、断熱の厚さは変えずにクリアできました。  

札幌次世代住宅は、その厳しさから総2階建てとして窓を小さくしないとクリアできないと言われてきました。ここでは一部2階建てで、南の窓は普通の大きさのままクリアできました。札幌版次世代住宅基準には、今年から太陽光発電パネルと蓄電池の設置も義務付けられたため、申請が大幅に減ったと聞きます。

脱炭素を目指して住宅の省エネ高性能化はどこまでやればいいのか

札幌市だけでなく、全国的に自治体が等級7の住宅建設を促進するために、補助金を出し始めています。私の住む仙台市でも始まり、横浜市など、ほかにもあるようです。こうした補助金は、施主にとってはラッキーで、等級7住宅の建設動機には十分なるでしょう。しかし補助金は、いつかはなくなります。そのときにどれくらいの人が建設を目指すのでしょうか。

私は、新住協の会員に等級7の住宅を建てて、補助金をもらうつもりの人には、積極的に受注しようと言っています。それだけの技術を持った工務店は、新住協の中にはたくさんいます。しかし、補助金がなくなったら、コストパーフォーマンスの高いQ1.0住宅レベル−3の住宅を中心に、全棟Q1.0住宅レベル−3という目標で行こうと言ってもいます。  

補助金は、税金です。200万円という人寄せパンダ的な手法を取るより、100万円以下の補助金で2倍以上の住宅を建設したほうが、脱炭素のためには有効な税金の使い方ではないかと思います。